放射性物質による被曝で怖いのは、体外からのもの以上に体内に入ってからのものがはるかに大きいと知られるようになり、原発そのものから漏れ出る放射線(到達距離から考えればα線、β線は考慮に入れなくてよい。γ線あるいは中性子線を気にすればよい)などよりも、原発から飛散(拡散)する放射性物質による放射線(これは放射性物質が体のどこに付着するかにもよるが、超短到達距離・簡単遮蔽可能なα線ですら影響を及ぼす)の方が驚異であることが一般に知られるようになってきた。いい傾向にあるように思うと同時に、原発から半径何km(キロメートル)という同心円的危険エリア指定の無意味さも、よほど無知あるいはパニック状態(部分的洗脳と言い換えてもよい)にある人たちを除けば、事実として知られてきたのはいいのだが、一方で原発からの距離などよりもはるかに重要な事実が「隠蔽」ないし「統制」されている実態に慄然とされている方々も多いことだろう。重要なことは、様々な気象条件において放射性物質がどのように拡散されるかという予測であり、これは地震予測(緊急地震速報も含む)や天気予報と同レベルまで重要性が高まっているように思うが、今日までの我が国政府の対応を振り返ってみれば明らかだろう。
我が国政府が、こういった情報を出したがらない理由はいくつもあるのだろうが、大きな理由の一つにはパニックが起こる(=治安不安定)ことへの警戒で、治安維持の方が国民の健康よりも優先順位が高いという意味合いかと予想する(加えて、役所の仕事が増える=色々準備しないとならない、という情けない理由もあるか。すぐに役所にどうにかしてくれという国民性もあるし)。実際、先月(3月)23日に東京都水道局が金町浄水場からの採水した結果(22日午前9時で、210 Bq/kg。23日午前9時で、190 Bq/kg。単位はベクレルパーキログラム。1kgあたりのベクレル値。水はほぼ1kg=1リットル(ほぼとしているのは水道水は純粋ではないため)なので、Bq/kgはBq/lと同意味に扱われることも多い)に基づく乳児への摂取制限をプレス発表した際、ペットボトル入りの水が買い占めされたことがあったが、そういうことを警戒してのことだろう。とはいえ、買い占め行為を非難するだけでは何の解決にもならず、これを抑止するために情報統制することの方が恐ろしい。事実は事実であるし、そもそも買い占め行為は「不安」に起因するものであることから、まずは「不安」解消に努めることが重要だ。確かに「無知蒙昧な愚民」は多いのかもしれないが、それですべてを一括りにするのなら、国民をなめるのもいい加減にしろとなる。データを公開し、客観的な指標を示して判断は人それぞれ任せる。本当に逃げなければならない状況であれば、津波警報などや危険地域指定など法令上の対応は既に出しているのだから、放射線量についてもそういう状況になったとき、しっかりとプレスすればいいではないか。
と前振りが長くなったが、今回は3月18日から毎日情報が公開されるようになった東京都健康安全研究センター(東京都新宿区百人町)による「都内の水道水中の放射能調査結果」のデータをグラフ化し、これを確認しようという話題である。では早速、作成したグラフをご覧いただこう。
縦軸の数値単位は「Bq/kg」で水道水1kg(約1リットル)に含まれるベクレル値。横軸は3月18日から昨日(4月9日)までの日付(採水日)。測定対象の放射性物質は、沃素131(131I)、セシウム134(134Cs)、セシウム137(137Cs)の3つ。他の放射性物質は、測定対象外である。注目は沃素131で3月21日に上昇傾向を示した翌22日、いきなり数倍に上昇した後、24日に一服した後に26日になって最大で37.2 Bq/kgまで上昇したことである。これは20日深夜から降り出した雨による大気中の放射性物質が降下(フォールアウト)した結果によるもので、沃素は水溶性であることも影響し、川などを通じて浄水場を経由し、それが上水道を通って蛇口から出てくる水まで放射性物質が到達したのである。
ただし、雨のピークはこのグラフのピーク値である26日ではない。ピークは既に2~3日前には過ぎ去っており、雨水が河川 → 浄水場 → 上水道管 → 水道蛇口と「家出のドリッピー」よろしく流れてくるので、実際には雨が降ってしばらく時間が経過しないと水道水には影響が現れてこない。だからこそ、東京都水道局がアナウンスしたように、雨が降った丸一日以上経過してから結果(放射性物質増大)が出てきたわけで、どこかの国のように浄水場だけに蓋をする意味はほとんどないのだ。
このことは、摂取制限解除の際の判断が揺らいだ(東京都の部局間で)ことからも自明である。というのは、いくら浄水場で採水したものの放射性物質量(Bq/kg値)が基準値未満になったところで、即座にすべての上水道管内の水が同じとはならないからである。ここに示したように、水道蛇口からの沃素131のピークは26日であり、東京都が摂取制限解除した24日よりも二日後だったのである。なので言い方は悪いが、制限が解除されてよかったと喜び勇んで水道水を飲んでみたら、実は摂取制限中の方が値は低かったという間抜けな結果となっていたのだ。このあたりは、上水道がどのような経路で水道蛇口までやってくるかを知っていれば、どうという問題ではない。国に判断基準など求める話でもないのだが、責任追及を怖れるあまり(わけのわからんヤツ相手にする苦労はよくわかるが)、何もかもが手遅れになるのである。(本件はそれほど大きな問題とは言えないので、話を大きくする必要はないと考えるが、問題の大小かかわりなく判断指標は変わらないものだ。)
なお、セシウムについてはグラフの下の方に埋没した感が強いので、セシウム134及び137だけにしたグラフを以下に示す。縦軸、横軸とも上グラフと同じ。
沃素131と違って半減期が30年以上と長いので、値の大小よりも蓄積の方が気になる。ただ、傾向として確かなことは沃素131と同様、降雨による影響が見られることだろうか。そんな感じで、今回はここまで。
最近のコメント