原子力安全・保安院は、原発事故発生(つまり地震発生当日)から53日目にあたる昨日(3日)、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の計算結果について」という標題で、SPEEDIの計算結果を公表した。ただし、現時点(4日午前11時現在)においては3月15日途中分(1~42項)までしか掲載されておらず「上記以外の計算結果については、準備ができしだい公表します」、のんびり牧歌的なお役所仕事を行っているようである。
掲載されている42項のうち、私が気になった3つをご紹介しよう。なお、詳細なデータは原子力安全・保安院が提供するオリジナルPDFファイル(紙にカラープリントしたものをイメージスキャナで取り込んだ極悪なPDF。バカかと言いたい)を参照願いたい。
まずは、5項(仮想事故)「2011年3月12日6時7分、福島第一1号機、12日13時放出開始(6時間積算)、1号機格納容器破損による影響確認のため」とあるデータのうち、「外部被ばくによる実効線量(3月12日13~19時の積算値)」の予測値だ(そもそもSPEEDIは予測するためのものなので以下、いちいち予測値と断らない)。仮想事故とは、おそらく想定しうる事象であり、ここでは福島第一原発1号機の格納容器が破損した場合の想定である。そう、地震が発生した翌日の朝6時には既にこのような予測を行っていたのだ(1号機がやばそうだという認識は当初からか)。言い方は悪いが、お役所仕事とは思えないほど迅速に行ったと見るべきだろう。
続いて同じく5項(仮想事故)のうち、「吸入による甲状腺被ばく等価線量(対象年齢1歳児)」である。さすがに格納容器破損というやばい事態のシミュレーションだけあって、かなり悲惨な値である(線量等値線があり得ない50000mSv=50Svとかになっている。Sv/hに換算しても約8.3Sv/h。マイクロどころかミリすら付かない)。まぁ、現時点ではこうならなくてよかったとなるが、仮に水素爆発でなくこの仮想事象が起こってしまっていたら…。言葉にならない……。これを見ればすぐさま避難という判断か、それとも切迫しているのだから屋内でおとなしくしていた方がいいとするか、なかなか難しい判断を迫られよう。
次は、福島第一原発1号機が実際に水素爆発を起こし、これがどのような影響を及ぼすかという目的で成された、11項(重大事故)「2011年3月12日13時42分、福島第一1号機、12日14時放出開始(3時間積算)、1号機水素爆発による影響確認のため」とあるデータのうち、「地表蓄積量(ヨウ素)」から見ていこう。
こういっては何だが、なかなかやるじゃんSPEEDIと言えるだろう。ドイツやフランスなどに後れを取ることなく、爆発事故当日にはここまでの予測値をたたき出していたのだ。要は、これを公表しなかった大馬鹿者に責任があるのは明白で、この件一つとっても切腹モノだと思う。情報隠蔽の罪は、これだけの重大事故においては非人道的行為そのものだとなる。
続いては同じく11項(重大事故)のうち、「外部被ばくによる実効線量(3月12日14~17時の積算値)」である。半径10km圏内は言わずもがなだが、それを超える浪江町方向に0.0001mSv(0.1μSv)~0.0005mSv(0.5μSv)が予測されている。
続いても同じく11項(重大事故)のうち、「吸入による甲状腺被ばく等価線量(対象年齢1歳児)」。これも半径10km圏内は言わずもがなだが、それを超える浪江町方向に0.05mSv(50μSv)~0.5mSv(500μSv)が予測されている。この11項の予測は、爆発事故に伴う放射性物質放出にかかわるものなので、恒常的にこの値が出続けるというものではないが、それを加味しても「ただちに健康に問題はない」と断言するには、私的には無謀な勇気(笑)としか思えない。
さて、3つ目は福島第一原発3号機水素爆発による影響確認である。前の2つと異なり、いきなり広域図からとなっているのは、おそらく3号機爆発は1号機のそれよりも影響が大きいと踏んだからだろう(別の理由については後述)。この34項(重大事故)「2011年3月14日22時7分、福島第一3号機、14日21時放出開始(10,24時間積算)、3号機水素爆発による影響確認のため」とあるデータのうち、「外部被ばくによる実効線量(3月14日21~翌15日7時の積算値)」から見ていこう。
1号機爆発と異なり、風は南に吹いていたので関東地方側に向かっていることがわかる。そう、いきなり広域予測を行っているのは、関東地方、もっといえば東京地方、よりピンポイントで見れば首相官邸あたりにどう影響が及ぶのかを気にしていると思われる。いわき市あたりにはかなりの影響が予測されているが、これを3月14日21~翌15日21時までの積算値と10時間積算から24時間積算に変えると態様は激変する。
風向きが途中から変わったためか、南側よりは影響は少ないものの、北西側に広がっていることが確認できる。季節的な関係かたまたまなのかは門外漢なのでわからないが、どうも福島第一原発から北西方向が影響を受けやすいようである。
そして同じく34項の(重大事故)のうち、「吸入による甲状腺被ばく等価線量(対象年齢1歳児)」。う~ん…、言葉が出ません。爆発という一時的事象で10時間積算値、ということなので、常時こうだと見るものではない。が、しかし。
今回の公表は遅きに失した感が強く、単なる組織保全的な意味合いしか持たないような印象を受けるが、形はどうあれこれを検証することで、いかに政府・官邸が一番大事な時期に何をどう行ってきたかの検証データの一つとなるだろう。間違いなく言えることは、SPEEDIは本来の機能を達成していたにもかかわらず、それを国民に向けて情報公開せず、官邸による独占、言い換えれば情報隠蔽を行った事実に変わりはないということである。首相が「しっかりやっている」というのは一所懸命、放射能を漏らさないように、ではなく、都合の悪い情報を国民に漏らさないように、という意味だったということだ。
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