ユーザインタフェースとはとどのつまり「慣れ」である。若いうち(新たなことを積極的に取り組む)は何でもないことが、年をとると(老いてくると)そうでなくなってくる。私がWindows 8のユーザインタフェースがいまいちと思うところは、こういう要因も大きいのではないだろうか。という自問自答をする中、これまでのWindowsはどうだったのかを振り返りつつ、ユーザインタフェースの変化をかいつまんでいこうと思う。Windowsといえば、忘れていけないもの──それはMS-DOS Executiveである。
日本語版(NEC版)のイメージが見つからなかったので、US(英語)版でご容赦。Windows 1.01は、オーバーラップウィンドウ(重ね合わせができない)をサポートしておらず、辛うじてダイアログボックス系のみオーバーラップが可能だった。Executiveを名乗る割には「何だこれ?」と思うかもしれないが、これこそ初代WindowsのGUIの賜物である。文字ばかりというなかれ、上の方にフロッピィドライブの挿入口を模したアイコン(イメージ)があるではないか。また、マウスカーソルが見えるようにマウスもサポートしていたのだ。
とはいえ、GUIというにはほど遠く、タイリングウィンドウのみでありながらそのパフォーマンスは圧倒的に低く、ウィンドウの左上端に見える細長い3つの四角は、Windowsがあまりに遅いのでここの排気口から煙が出ると揶揄された。無論、ファイル名の羅列は、どれがアプリケーション実行ファイルなのかそうでないかの区別はつけられておらず(もっとも当時はEXEが実行ファイルでDRVやFONを実行するような輩はいなかった)、ファイル名をダブルクリックすることでアプリケーションを開始したのである。
続いては、これもMS-DOS Executiveであるが、先のものとはちょっと違う。そう、これはWindows 2.0のMS-DOS Executiveなのだ。揶揄された排気口は、3つから1つになったほか、オーバーラップウィンドウをサポートしたことで、右上には最大化ボタンと最小化ボタンが登場した。加えて、ウィンドウ枠も1ドットラインから枠と呼べるようなものに変わった。だが、MS-DOS Executiveそのものの大きな変化はなく、ファイラ兼アプリケーションラウンチャという位置づけも変わらず、であった。
そして、Windows最初の大ヒットとなったWindows 3.0。MS-DOS Executiveはお払い箱となり(互換性を維持するため、3.0になっても残ってはいたが)、MDI・マルチウィンドウをサポートしたファイルマネージャに置き換わった。Windows 3.0が大ヒットした理由は、そのウィンドウデザインによるところが大きい。MS-DOS Executiveのウィンドウとファイルマネージャのウィンドウを比べれば、そのかっこよさは推して知るべしで、Macintoshと並んだと言われたものだった。これに加えて、アプリケーション実行ラウンチャとしてもう一つ、プログラムマネージャが登場したのである。
ファイルマネージャだけではGUIと呼ぶには厳しいが、このプログラムマネージャが加わったことで、アイコンをダブルクリックしてアプリケーションを実行するという形態が、ようやく格好がつくようになった。懐かしのPIFエディタ(PIF、覚えていますか…)も見えるが、今でも生き残っている伝統のNotepad(メモ帳)、Write(ライト)等も当時から健在であった。Windows 3.0になってここまでかっこよくなったのだから、日本語版もそれなりになるだろうと思っていた。だが、それは日本語版を見て幻滅した。
何だこれは!? と驚いた日本語版(上はNEC版)。あのかっこいいプロポーショナルフォントはどこへいった? やたらとでかい日本語フォントは何なのだ? バランスぶちこわしのタイトルバーなどの太さはいったい…。カタカナをリソースエディタ(これも懐かしい響き…)を使って「メイン」を「Main」などアルファベットに置き換えてみても、あのUS版のフォントになるわけでもなく、不格好なものは不細工なままだった。Windows 3.0はまだマイクロソフトからではなく、各ハードウェアメーカがWindowsを販売していた。様々な理由があるが、最たるものはハードウェアがメーカ毎に異なっており、MS-DOSもそれに合わせて各ハードウェア毎に移植されていた。いわゆるDOS/Vマシンなどない時代であり、日本IBMがDOS/VをリリースしたのはWindows 3.0より以降のことである。DOSの上で動くWindowsなので、Windowsもメーカ毎に異なっていたのだった。
日本語版のダサさは、Windows 3.1になっても変わらず、上に示したファイルマネージャもUS版のそれとは比較にならないほどかっこわるい。プロポーショナルぽくなっているアルファベットだが、今一つの漢字や平仮名などとのバランスを気にしてか、悲しくなるほどの出来の悪さ。これが多少よくなるのは、Windows 95を待たねばならないのである。
あれ? そうでもないか。まぁフォントの大きさは小さくなっているが、日本語版はまだまだUS版と比べれば、デザインは今一つ。しかし、それ以上に大きな変化はプログラムマネージャとファイルマネージャが標準の座から消え(かつてのWindows 3.0にMS-DOS Executiveが入っていたように、Windows 95以降にもファイルマネージャとプログラムマネージャは残っていた)、新たにエクスプローラが登場したことだ。Windows 3.1以降から拡張機能として疑似3D表示が成されるようになり、Windows 95ではそれが標準化された。これは、Windows 98になってさらに強化される。また、色数も16色から256色に拡張され(Windows 95でもPlus!を入れれば256色対応となった)、さらに見栄えがよくなった。
そして画面イメージは出さないが、Windows 95でデスクトップにアプリケーションのショートカットを置くことができるようになり、スタートメニューが新たに用意され、Apple社とのGUI訴訟の結果が出るまでどうしても用意することのできなかったゴミ箱(Recycle Bin)も備え付けられた。Windowsのユーザインタフェースの革新は、Windows 95によって与えられたのだった。
Windows 98では再びUS版に戻してみた。かなり現在に近づいてきたが、この頃のユーザインタフェースの進化は、Windowsで成されるよりもMicrosoft Officeによって成されることが多くなり、それがWindowsにフィードバックされる流れとなっていた(今日的視点でいえば、リボンインタフェースがそれに該当する)。この後、Windows 2000、Windows XP、Windows Vista、Windows 7と続くが、デザイン的な見栄えは変わったものの、ユーザインタフェースの変革はないに等しく、Windows 8によってタッチインタフェースが加わり、派手になり続けたGUIが単色のものとなった。Windows 95以来の革新というのは、以上を振り返ってみて間違いないだろう。
というわけで、残る問題はこの変化について行けるかどうかとなり、結局私も年をとったとなるのか──。苦笑いしつつ、今回はここまで。
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