地域歴史研究コーナーの時間がやって参りました(苦笑)。
というわけで、今回は「東洗足駅」をとり上げる。ちなみに、東洗足駅は現時点では存在しておらず(駅の場所はゼンリンの地図で示すとここ)、東急大井町線旗の台駅の前身という位置付けになっている。しかし実態は、これまで当Blogで旗ヶ岡駅関連について様々な議論を展開してきているが、言ってみれば東洗足駅と旗ヶ岡駅が合併してできたのが、旗の台駅となるだろう。こういう扱いに、旧池上電気鉄道の悲哀を感じてしまうのだ。
さて、それはともかく東洗足駅のプロフィールを簡単に記しておこう。以下については、ほとんど争いはないはずである。
- 大正15年(1926年)9月1日 大井支線、大井町~洗足間から大井町~大岡山間に路線計画変更。東洗足駅が開業位置に設定。
- 昭和2年(1927年)7月6日 目黒蒲田電鉄大井線の大井町駅~大岡山駅間開通時、東京府荏原郡荏原町大字中延字清水頭1192番地に東洗足駅開業。(1142番地と「東京横浜電鉄沿革史」には記載があるが、耕地整理後の地番整理で1142番地は消滅し存在しない。)
- 昭和26年(1951年)3月1日 東洗足駅の位置を池上線寄りに移動し、旗の台駅と改称。
目黒蒲田電鉄の大井支線という位置づけではあったが、目黒蒲田電鉄としては、武蔵電気鉄道より引き継いだ蒲田支線に次ぐ、免許取得順としては古いもので、当初は田園都市株式会社の事実上の子会社である荏原電気鉄道が計画した「大井町~多摩川」間を前身とする。その後「大井町~新宿」という、やや大風呂敷の計画になったが、目黒蒲田電鉄発足時には現実的な路線として再計画され、目黒蒲田電鉄第二期線として出願した「目黒~碑文谷(洗足)」、さらに目黒蒲田電鉄発足時に武蔵電気鉄道から譲渡された蒲田支線(多摩川~蒲田)を前後に挟み込んで、「目黒~蒲田」で一路線化した目蒲線となった。社名を目黒蒲田電鉄としたことから明らかなように、「目黒~蒲田」を最重要路線として位置付け直したのであった。
結果、大井町から洗足(碑文谷)までの区間は目蒲線に次いで建設されることになったが、洗足地区は田園都市株式会社が土地買収をかけていたときから地価高騰が進んでいたこともあって、分譲地そのものも予定規模を大きく縮小せざるを得なくなっていた。さらに関東大震災による住宅地の展開が大きく進み、荏原郡平塚村(→平塚町→荏原町→東京市荏原区)内の大井支線計画予定地は、住宅が建て込んでしまい、路線計画の見直しを求められていた。
そこで、計画路線の分岐駅を洗足駅から大岡山駅に変更し、荏原郡馬込村の千束耕地整理組合、そして荏原郡平塚村の平塚耕地整理組合等の協力を得て、現在の東急大井町線の路線形としたのである。この線形としたことで、大井町~大岡山間の駅は、大井町、戸越、蛇窪、中延、荏原町、東洗足、大岡山と決定し、東洗足駅は洗足田園都市の東側、中原街道口であることを理由として設定された。
このような経緯から、東洗足駅は誕生したが、駅名の由来は洗足田園都市に由来するのは言を待たない。他線接続駅を除き、大井線の各駅の場所は、開業当時は以下のようになっていた。
- 戸越…東京府荏原郡荏原町大字戸越
- 蛇窪…東京府荏原郡荏原町大字下蛇窪
- 中延…東京府荏原郡荏原町大字中延
- 荏原町…東京府荏原郡荏原町大字中延
- 東洗足…東京府荏原郡荏原町大字中延
ご覧のように、戸越駅、蛇窪駅、中延駅は、駅の位置する大字名となっている。残る荏原町駅と東洗足駅については、既に中延駅を付けてしまったために大字中延から採用せずに、さらに広域名となる荏原町を採用し、残る東洗足は洗足田園都市の東に位置することで命名した。ちなみに同地域を走る池上電気鉄道は、目黒蒲田電鉄に先行開業を許してしまったため、駅名に大字名をそのまま採用できなくなっていた。以下に掲げると、
- 桐ヶ谷…東京府荏原郡大崎町大字桐ヶ谷
- 戸越銀座…東京府荏原郡荏原町大字戸越
- 荏原中延…東京府荏原郡荏原町大字中延
- 旗ヶ岡…東京府荏原郡荏原町大字中延
大字名を採用できたのは桐ヶ谷駅のみで、他は苦心の跡が伺える。戸越駅とするわけにはいかないので、新興商店街名である「戸越銀座」を採用した戸越銀座駅。同じく中延駅とするわけにはいかないので、荏原町大字中延の短縮形を採用した荏原中延駅。そして、けっして最寄り駅とは言えないが、近くにある著名な旗岡八幡宮に因んだ旗ヶ岡駅。もし、開業順が異なっていたなら、今とはまったく違った駅名が互いに付されていたと思われる。こうしてみると改めて昭和2年(1927年)に荏原町の1大字に過ぎない大字中延という狭い範囲に、両電鉄合わせて5駅が開業した事実に驚きを禁じ得ない。ついでにいえば、大字中延を含む荏原郡荏原町で見れば、目黒蒲田電鉄の武蔵小山駅(開業当初は小山駅)、西小山駅、戸越駅(現 下神明駅)、蛇窪駅(現 戸越公園駅)、中延駅、荏原町駅、東洗足駅(現 旗の台駅)の7駅。池上電気鉄道の戸越銀座駅、荏原中延駅、旗ヶ岡駅(現 旗の台駅)の3駅。合計10駅が数年の間に相次いで開業したのだから、一気に都市化したのも頷ける。
と、横道に逸れてしまった。
東洗足駅の話題に戻すと、タイトルにあるように東洗足駅の出入口(改札口)はどこにあったのか、という疑問については、時間がなくなってしまったのでまた次回(苦笑)。
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