さて、今回は古い官報を読み漁っているとき、気付いたことについて述べていきたい。内容は、タイトルに示したように東急目黒線不動前駅についてである。
不動前駅は、1923年(大正12年)3月11日、東急電鉄の前身である目黒蒲田電鉄によって目黒~丸子(現 沼部)間が開通した際、途中駅として設けられたが、開業当初は「目黒不動前」駅だったとされている。典拠は皆が信じてやまない「東京急行電鉄50年史」に掲載されているからだが、これより前に編まれた「東京横浜電鉄沿革史」にはまったくこのことはふれられていない(これだけでなく、確実に変わったと見込まれる小山→武蔵小山も未掲載だが)。ただし、「東京急行電鉄50年史」においても目黒不動前から不動前に変わった年月日は、1923年(大正12年)10月としか伝えず、日まではわかっていないとなっている。
無論、私は「東京急行電鉄50年史」の編纂過程を知らないので、決定的な証拠があるのかもしれないが(昭和40年代中頃はまだ目黒蒲田電鉄創業時の運転手等がご健在だった)、おそらくは客観的史料(資料)の一つとして「目黒蒲田間電気鉄道 目黒丸子間線路布設工事竣工監査報告」という鉄道省のお役人による報告書に、次のように記されているからだと考えられる。
目黒停車場 東京府荏原郡大崎町 0哩0鎖0節 本家、乗降場、上家、貨物積卸場、側線その他一式
目黒不動前停留場 荏原郡大崎町 0哩48鎖70節 乗降場、待合所
小山停留場 荏原郡平塚村 1哩20鎖00節 乗降場、待合所
洗足停車場 荏原郡平塚村 2哩12鎖00節 詰所、乗降場、待合所、貨物積卸場、側線
大岡山停留場 荏原郡馬込村 2哩56鎖20節 乗降場
奥沢停車場 荏原郡玉川村 3哩39鎖50節 詰所、乗降場、車庫、側線
調布停留場 荏原郡調布村 4哩09鎖00節 乗降場
多摩川停留場 荏原郡調布村 4哩66鎖00節 乗降場
丸子停車場 荏原郡調布村 5哩15鎖00節 本家、乗降場、待合所
目黒、洗足、奥沢、丸子の各停車場間には電話の設備あり。
もちろん、当時は手書きのものである。この報告書には他にも様々なことが記されているが、駅設備関連のものだけ抜き書きしている。ここには「目黒不動前」とあり、開業直前の監査報告書であるので、これが開業時の駅名であると考えて問題はないとしたのだろう。
ただし、この報告書には1か所、致命的な誤りがある。それは洗足停車場(駅)の所属が荏原郡平塚村(現 東京都品川区の一部)とあるが、正しくは荏原郡碑衾村(現 東京都目黒区の一部)である。まぁその他にも報告書名が「目黒蒲田間電気鉄道 目黒丸子間線路布設工事竣工監査報告」となっているが、「目黒蒲田間電気鉄道」と余計な「間」字が挟まっているなど、首を傾げたくなるようなものも見受けられる。鉄道技術には明るいが、それ以外のことにはあまり興味がなかったのかもしれない。
では、ここまで話を進めたことで今回確認した資料を示そう。
これは、大正12年(1923年)3月14日付官報14ページ左下に掲載されている記事で、以下に現在の漢字に置き換えたものを示す。
地方鉄道運輸開始
本月十日東京市京橋区南伝馬町三丁目五番地目黒蒲田電鉄株式会社ニ対シ目黒丸子間五哩二分運輸営業開始ヲ認可シタルニ同十一日営業開始ノ旨届出テタリ其哩程左ノ如シ(鉄道省)
目黒不動前間 〇・六
不動前小山間 〇・七
小山洗足間 〇・九
洗足大岡山間 〇・五
大岡山奥沢間 〇・八
奥沢調布間 〇・六
調布多摩川間 〇・七
多摩川丸子間 〇・四
ふりがなまでは振らなかったが、要はふりがなが付いたものが初出の駅名というのが、当時の官報における掲出ルールである。よって、最初の目黒~不動前以外はすべて二番目のみにふりがなが付く(○○~△△の場合、△△のみにふりがなが付される)が、最初の行だけは目黒も不動前も初出なので、どちらにもふりがなが付されているのである。つまり、目黒不動前間ということは目黒~不動前であることから、開業時における官報での表記は最初から不動前駅だったとなるのである。
果たして、この官報の表記は正しいのだろうか。早とちりな担当者が目黒不動前駅というのを目黒~不動前と勘違いしてしまい、それが官報に掲出されたのだろうか(実際、官報には訂正記事が多い)。あるいはこの官報を見た50年史関係者が「目黒不動前(めぐろふどうまえ)」としてかなが付されているのを早とちりして、最初は目黒不動前としてしまったのだろうか。
以上、古い官報をネタにあれこれ不動前駅の初出について語ってみた。ちなみに田園都市株式会社が目黒~大岡山間で申請した際の計画図では「不動寺前」と仮駅名が付き、それが目黒蒲田電鉄に移行した後は「目黒不動寺前」となっている。何か決定的証拠があればいいが、誤りが山盛りの「東京急行電鉄50年史」であるので、こういうことからして気になってしまう。といったところで、今回はここまで。
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