池上電鉄奥沢線（新奥沢線）の歴史を探る その16

さて、開業後半年程度で、一日わずか3,000人（往復換算では1,500人）では奥沢線の存続が危ぶまれるのはもちろん、そもそも奥沢線の建設目的だったはずの目黒蒲田電鉄線との接続すらできない状態では話にならない。特に、支援を仰いだはずの荏原郡調布村（当時は荏原郡東調布町と町制施行されていた）の期待に応えられていないことから、これに対する新たな、そして無謀な計画が出てくることになる。（前回までの続き）。

その無謀な計画とは！
その名も「東調布町地内鉄道敷設願」とされる「雪ヶ谷 丸子渡間路線計画」である。

残念ながらこの計画が、いつ鉄道省に提出（申請）されたかは確認できていないが（当初からこの願文どおりの標題、そして添付図面であれば、昭和3年10月以降の申請であるのは確実。調布村が町制施行して東調布町となったのは昭和3年であり、添付図面には奥沢線が開業済とされているため）、国立公文書館の資料によれば、

昭和6年（1931年）6月2日　東調布町地内鉄道敷設願却下の件

というものが残されており、ここには

池上電気鉄道東調布町内鉄道敷設願却下ノ件

理由
本出願線ハ客年十月却下セラレタルモノノ再出願ニシテ目下ノ交通状態ニ於テ敷設ノ要ヲ認メザルノミナラス目黒蒲田電鉄ニ相当悪影響ヲ及ホスモノト認メラルルニ付伺案ノ通其理可然

と、そのものズバリの理由が明記されている。「池上電鉄奥沢線（新奥沢線）の歴史を探る」シリーズでふれてきたように、もともと田園調布との接続を目指して計画された奥沢線（調布線）は、田園調布駅との接続を諦める代わりに奥沢方面への延伸を国分寺駅までとして認可された経緯を踏まえれば、たとえ調布田園都市の末端とはいえ奥沢線を持ちながら新たな短絡線など、鉄道大臣も替わってしまったことを考慮に入れれば認められるはずもなかった。だが、池上電気鉄道としてはこのような無茶とも思えるような計画線を申請することで、東調布町（以前の荏原郡調布村）の有力者たちに応えようとしたとも考えられる。

なお、上図に示したようにわずか1km足らずの東調布町内鉄道であるが、中間駅は下沼部駅（仮称）が一つ設けられていた。この場所は、当時の東調布町役場（現在の大田区嶺町特別出張所の位置にあった）に至近であり、このことからも先にふれた東調布町（以前の荏原郡調布村）の有力者たちに応えようとしたのではないかな、と。

結局、この路線は却下されることになるが、このような短絡線計画が出てくることからして奥沢線が苦境に喘いでいることの裏返しとも言えるわけで、池上電気鉄道はいよいよ奥沢線の処遇について真剣に考えざるを得ない状況になっていくのである。

次回（その17）に続く。

Comments

[投稿情報: 木造院電車両マニア]

京成電鉄立て直しの腕を買われて池上電鉄の専務となった後藤氏も、沼部迄手を伸ばすこと自体焦り過ぎの感が無きに下あらずと言う所ですか。所詮無謀な挑戦としか言いようがありませんね。

[投稿情報: XWIN II]

木造院電車両マニア様、コメントありがとうございます。

確かにこの時代（昭和初期）は、やたらと鉄道免許乱発時代に重なってはいますが、今日からの視点だけで無理、無駄という論点でバッサリというのはいかがなものかというのは、奥沢線の歴史を探っている「だけ」でもわかります。
ただ、それでもさすがにこの東調布町内線はいかがなものかと思いますね。
「挑戦」、確かにそうでしょう。

[投稿情報: 木造院電車両マニア]

後藤氏のご子息とは最近全く交流がありませんでしたのでその辺の事情を聞くことが出来ませんでしたが、やはり古傷に触れるようなことに躊躇いがあって話題にしなかったこともまた確かです。

[投稿情報: funamyu]

うーん、唸っております。
いや、失礼致しました。初めまして、funamyuと申します。
自由が丘徒歩圏、大井町線際に住んでおります。
女房は緑が丘で生まれ、私は1月に脳梗塞に倒れ、奥沢大脇病院に入院しておりました。
今は快方に向かっております。（介抱ではありません。解放でも。（笑））
さて、調べ物をしておりたどり着きました。
地域散歩と写真撮影が好きで、現在はリハビリ散歩中なため、興味深い話題が多く、
しげしげと読み進んでいます。
特に新奥沢線に関しては、昨日も友人と話題になったものですから参考になりました。
これからも探訪させていただきます。
私の写真日記にもぜひ遊びにきてください。
http://blog.goo.ne.jp/funamyu/

[投稿情報: 木造院電車両マニア]

funamyu様
写真日記拝見させて頂きました。洗足池駅近くのかがまないと通れないガードは今日に至もその意味がよく理解できません。戦前の日本人の身長が如何に低かったとしても、あまりにオーバーヘッドが低過ぎます。小生も荏原郡の当時から当地に住んでおりますが、よく分かりません。