電子書籍の普及が進めば、こんな感じで古い雑誌も読めるようになるだろうか。そう思わせてくれるのが、かつてソフトバンクから出ていた雑誌「月刊 C MAGAZINE」が電子書籍化されたことである(スキャナ取り込み版であるが)。各号揃っているが、とりあえず創刊号だけ100円で購入。懐かしさのあまり、ついつい読み込んでしまった。
創刊号には1989年10月号とあるが、この頃はまだWindows 3.0のデビュー前であり、PCといえばDOSマシンであった。我が国ではNECのPC-9800シリーズが全盛期を迎えており、DOS/Vなど影も形もない。日本の年号は平成になったばかりの年で、バブル経済が崩壊する直前。この年の東証日経平均株価は、今では考えられない38,915円87銭で年内の取引を終えたのだった。思えば消費税導入もこの年…、本当にすごい一年だった。
PCの世界でも東芝がDynabook J-3100SSをリリース、半年遅れでNECが中途半端な対抗機PC-9801Nを出したりもした。Intel社は、80486をリリース。UNIX SVR4のリリースもこの年(発表は前年)。PC-9800シリーズに欠かせないワープロソフト一太郎のバージョン4も、1989年だった。(きりがないのでこの辺でやめる。)
この創刊号は、当時もちろん購入したが、改めてこうして見るとデニス・リッチーへのインタビュー記事や主要Cコンパイラの徹底チェックと称して仕様等はもとより、はき出すコードまでチェックするなど、時間も手間もかかる記事が多く、本当に力が入っているなと実感する。それにしても懐かしいのが、C処理系の製品名である。徹底チェックに取り上げられている処理系を列挙すると、
- Microsoft C Optimizing Compiler Ver.5.1
- Quick C Ver.1.1
- Turbo C Ver.2.0
- Lattice C / DOS Ver.4.1
- LSI C-86 Ver.3.10
- Let's C
- Power C Ver.1.40J
- Advanced RUN/C Ver.1.02
- Visual C Ver.J1.01
といった感じで、大御所のMicrosoft社謹製のものの他に、飛ぶ鳥を落とす勢いだったBorland社のTurbo Cやそれに対抗するために用意されたQuick Cも懐かしい。最後のVisual Cは、Microsoft社のものとは無関係でコンパイラではなくインタプリタである。残念ながら、この処理系はさわったことがない。
この記事を読んでいて、当時はMS-DOSがアプリケーションソフトウェアにバンドルされていたことを思い出した。今ではOSはプリインストールされているのが当たり前になっているが、当時はHDDが搭載されていないPCがほとんどであり、フロッピィディスクにOSとアプリケーションソフトウェアが一緒に記録されていたのである。MS-DOSがバンドルされなくなったのは、1990年代に入ってからなので(正確に言えばMS-DOS Ver.2.11がバンドル禁止)、この時代には当たり前のようにMS-DOSのシステムソフトウェア(IO.SYS、MSDOS.SYS、COMMAND.COM)が入っていた。
また、ライブラリに別途使用料が必要というのも時代を感ずる。紙のマニュアルが8冊付いてる(そういえば、Microsoft Visual C++ 1.0にはWindows SDKのマニュアルまで含めると20冊くらいのマニュアルがあったなぁ)とか、ソースレベルデバッガが珍しい存在だったり、オンメモリの1パスコンパイラであるとか、メディアが5インチフロッピィディスクであるとか、低価格だといっても25,000円するとか、もう懐かしさに……(以下略)。
そして、メモリモデルも懐かしい。スモール、ミディアム、コンパクト、ラージ、ヒュージと64KBのセグメントに足を引っ張られ続ける8086。16-bitメモリモデルは、今となっては苦痛以外の何物でもないが、当時は必要性というキィワードから皆が喜んではいないものの使っていたのである。それに引き替え、32-bit、64-bitメモリモデルの何とリニアでフラットなことか…。
てなわけで、昔懐かしい想い出を、思い出すにはちょうどいい電子書籍。1冊100円ということなので、懐かしさに浸るにはいいのではないかとしつつ、今回はここまで。
懐かしすぎて、思わずコメントさせて頂きます。
ダンボールの何処かに埋もれてるはずで(笑)
しかし、当時読んでた人以外、これを電子書籍で買う人居るのかな?
投稿情報: わぴ | 2014/06/18 18:01
コメントありがとうございます。
おっしゃるように当時読んでた人は感涙に噎ぶでしょうが、最近の方は…。
とはいえ、古い情報というよりも歴史だと思って読めば、最近の方でも面白いかも(苦笑)。知らない方にとっては「もの」は古くても、知識としては新しい「もの」なので、興味のある方はワンコインで…。
投稿情報: XWIN II | 2014/06/18 20:11
当時はすごい参考になったんですよね、この書籍は。
LSI Cの評価版が付録で付いてたり。
投稿情報: わぴ | 2014/06/19 12:43
この頃は間違いなくC言語ブームでした。Borland社のTurbo Cがその牽引を担ったのは間違いないかと。低価格、Turbo Pascalライクの高速コンパイル・リンク、統合開発環境…。すべてがすごかった。日本語版ではTurbo C 1.5がサザンパシフィック版とMSA版がそれぞれ独自にあって、本にフロッピィディスクを挟み込んだ販売形態を思い出します。
こういう熱狂的なブームの中、創刊されたCマガですが、白眉はおっしゃるように試食版と称したフルセットのLSI Cが付いてきたことですね。既にMS-C、Turbo C、Latteice Cを使ってはいましたが、こういう太っ腹の企画には驚かされました。翻訳記事も今読むと訳が???なものがありますが、当時としてはよくできた記事だと感じました。
投稿情報: XWIN II | 2014/06/20 06:27