最近、本に関しては「読み始める」という記事ばかりで、読み終えた的なものは少ないが、単にこれはblog記事に書ききれない(書いている時間がないというよりは他に書きたいものがあるということ。例外あり)というほかに、読了後にblogに書くことを忘れてしまっているだけという場合もある(苦笑)。で、今回は読み始める、という記事は書かなかったが、読み終えたということで珍しく(久々に)書いてみようと思った次第である。
本書…というか原著「QUANTUM FIELD THEORY SECOND EDITION」は、数多ある「QUANTUM FIELD THEORY」(邦訳では「場の量子論」)とタイトルが付く書籍のうち、教科書(教育的配慮が行き届いた)として優れたものとして名高く(Mandl本、という通称というか愛称も付いたりして)、初版(1984年)本は私も現役学生時代に利活用したものである(なお、上写真に示した「An Introduction to Quantum Field Theory」は本邦訳版の原著ではない。後述)。無論、私がこれを学んでいた頃は、電弱統一理論に登場する力の媒介粒子ベクトルボソンであるW+そしてW-粒子やZ0粒子が発見されたばかりの頃で、まだまだ観測データも集まっているとは言えず、自明だが解析もまだまだであったので「理論はあるが中身がない」(言い方は悪いが超ひも理論みたいなもの)状況であった。あれから25年ほど年月を経て、今や確固たる理論と実験結果・分析の積み重ねによって、この分野は標準理論の一部(大部分)としてしっかりと位置づけられるに至った。それらの結果を踏まえて、1993年の改訂版を経て昨年(2010年)に「Gauge Theories(ゲージ理論)」「Field Theory Methods(場の理論の方法)」「Path Integrals(経路積分)」「Quantum Chromodynamics(量子色力学)」「Asymptotic Freedom(漸近的自由性)」を新たに新章として追加した第2版がリリースされた。その邦訳版が「場の量子論 第1巻 量子電磁力学」と「場の量子論 第2巻 素粒子の相互作用」なのである。
もともと1冊の本を分冊するのは我が国出版界の得意技で、本邦訳本もわざわざ2分冊化している。分冊化は1冊毎の重さを軽減する働きがあることは認めるが、相互参照(辞書ほどでないにしろ、前の方を参照したり後の方を追ってみたり等)するような書籍であれば百害あって一利なしで、残念ながら本邦訳書もそれに該当する。せっかく、通しページ(第2巻は267ページからスタートするが、これは第1巻が266ページで終わるため)を採用しているのに、索引では第1巻と第2巻で分離されている、つまり同じ索引項目であっても第2巻では第2巻に載っているページしか示されず、第1巻についてはふれられていないため(カレントとか伝播関数とかは両邦訳書にまたがっているが、それぞれの巻毎にしか載っていない)、1冊の本であるにもかかわらず邦訳書では分断されてしまっているのだ。これは、教科書として配慮された本書(原著)の素晴らしさの足を引っ張るような印象を受ける。分冊のメリットは、相互参照する場合に両方とも見開くことができるということになるが、それでは常時2冊必要になるので分冊化する意味を失う。
そして価格については、かつての輸入書籍価格がamazon.com等の参入によって価格崩壊したこともあって、邦訳書もべらぼうな価格設定ができなくなったことから、本邦訳書もそれほど驚く価格設定となっていない。第1巻と第2巻を合わせて本体11,800円なので、原著の定価(ただしハードカバー版)145ドルからすれば、まぁそんなものかとなるだろう。しかし、ソフトカバー版の定価は55ドルで、さらに米国(北米)では書籍の割引は当たり前に行われている(横道だが、我が国の電子出版が今いちなのは、紙の書籍が再販価格維持という一種の価格カルテルが存置されているためで、そういった蛸壺ルールを電子書籍(出版)にも適合させようという無茶な試みが世界の流れから思いっきり外れているからだと見る)。今日(25日)現在のamazon.com(日本版のco.jpではない)では41.25ドルとなっているので、円高基調の昨今では日本円にすれば3,200円程度でしかなく、いくら邦訳料を含めたとしても4倍近い価格差はいかがなものかとなってしまう。
それでも、邦訳する価値は高いと見る。というのは、場の量子論の教科書(自称するものも含む)は難解なものが多く、また複雑な計算を多用することもあって、私のように昔(学生の頃)はばりばりやっていたが、しばらく学究の世界から完全に離れてしまい、再び学習する必要が生じたような人(ケースとしては少ないだろうが)とか、あるいは他分野の方が、場の量子論を俯瞰して理解したいと考えている場合は、これだけのことが簡潔に、そしてこの1冊(邦訳版は2分冊)で済むということに価値があろう。もちろん、複雑で難解な計算過程は、学生時代であれば周りの人に聞くことで何とかなるが、そうでない場合や独学の場合などでは本書だけでは足りず、先の写真で確認できる白い本「An Introduction to Quantum Field Theory」(いわゆるPaskin本)などが欠かせないが、そこまでする必要がないのであれば十分だろう。
そんなわけで、ほぼ20年ぶりくらいに「QUANTUM FIELD THEORY」を邦訳版として読んだのだが、今さらだが学生時代に邦訳版がほしかった(苦笑)。無論、一定のレベルまで到達してしまえば英語必須なので、邦訳云々言っていられないのだが、やはり取っかかりとしては母国語であることが何より理解に大きなインパクトを与えるものである。そういう視点からは、やはり邦訳版というのは必要だと思う。とはいえ、本邦訳書には2011年発行にしては残念な点がある。それは採用されている字体(フォント)で、たまたま私の手にしているものだけかもしれないが、細明朝体なのはいいとして、ところどころ字がかすれてしまっている箇所があり、読みにくいということである。すべてのページでそうなっているわけではないので、たまたまなのかもしれないが、印刷技法に問題がありそうな印象である。部数が出ないからなのか、コスト削減なのかは定かでないが、こういうところは書籍の基本的な部分であるので、丸善さんには改善を望みたいところである。
といったところで、今回はここまで。
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