事故から約6週間。正確なところはまだはっきりしないものの、さすがにこれだけの時間が経てばそれなりの情報が出てきている。公式情報から、放射能がどれほど外部に放出されたのか見ていこう。
まず、おさえておくべき情報は、放射能漏れを続けている福島第一原発1~4号機がどれだけ核燃料棒(装荷燃料体)を持っていたのか、である。これは、東京電力発表の資料から以下のとおりとなっている。
福島第一原発は1~6号機まであるが、5号機と6号機については幸いなことに、原子炉及び使用済燃料プールへの冷却機能が生きているので致命傷とはなっていない。地震発生当初、一時的に冷却機能は失われたが何とか持ち直した。よって深刻な状況は1~4号機であり、これを表にしたものである。まずは、表をご覧いただく際のポイントを示しておこう。
1号機と2~4号機で核燃料棒(装荷燃料体)の数が大きく違っているのは、1号機の型式がBWR-3型、2~4号機がBWR-4型と異なっている、つまり原子炉としての発電能力に差があるからで、発電能力の高い2~4号機の方が数が多いとなるのである。そして、4号機の原子炉格納容器内の数が0となっているのは、定期点検中で稼働(運転)していなかったからだ。1~3号機は地震が起こった際は運転中だったが、これも幸いなことに自動停止機能(もしかしたら手動?)が働き、本当の最悪の事態は今のところ回避されている。
そして、核燃料棒(装荷燃料体)がどれだけ破損しているのか? については、誰も近づくことができていないので正確な情報はわからない。なのですべて推測となるが、外部に漏洩する放射線及び放射性物質、赤外線(発熱具合)の観測から、4号機は間違いなく使用済燃料プールが破損していること(核燃料棒は原子炉内にないため)。1~3号機については炉心(2号機は格納容器も)または(及び)使用済燃料プールの破損が疑われている。だが、先にふれたように本当のところは誰もわからないので、場合によっては格納容器も使用済燃料プールも破損している可能性も捨てきれない。この「読み方」一つとっても、予測漏洩量が大きく変わるのは論を待たない。
以上を踏まえ、数値を眺めていく。まずは、大気への放出量である。4月12日にレベル7と発表があった日、3月11日から4月5日までの間の大気への放出量は以下のとおりだとした。
- 3月11日から4月5日までの大気への放出量 = 370,000TBq(テラベクレル)「原子力安全・保安院」
- 3月11日から4月5日までの大気への放出量 = 630,000TBq(テラベクレル)「原子力安全委員会」
二つの公式数値(沃素換算値)は見解の違いなので、どちらが正しいというのは正確な情報を得ていない限りはわからない(試算すら厳しい)。続いて、原子力安全委員会では新たな試算として昨日(23日)、以下のとおりだとした。
- 3月11日から3月14日までの大気への放出量 = 50,000TBq(テラベクレル)未満
- 3月11日から3月15日午後9時までの大気への放出量 = 約190,000TBq(テラベクレル)
- 4月5日時点での1日あたりの大気への放出量 = 154TBq(テラベクレル)
これは、レベル7の判断基準となる50,000TBqをいつ超えたのか、つまり4月12日になってレベル7としたことが適切だったのかという指標にもなる試算だ(原子力安全委員会の意図が見え隠れするが)。また、一日あたりの大気への放出量は現在も同程度だとしているが、これは東京地方における放射線量等の観測値を見る限りは妥当な判断といえる。
続いて海洋への放出量。2号機のピットから漏水(流出)していたものと、自称低レベル汚染水を投棄したものと、である。推計は、東京電力によると以下のとおり。
- 4月1日から4月6日にかけての海洋への流出 = 4,700TBq(テラベクレル)
- 4月4日から4月9日にかけての海洋への投棄 = 0.17TBq(テラベクレル)
意外に少ないと思われるかもしれないが、これは試算というよりは推計に近いからである。大気への放出量はすべて考えられるものを試算に含んでいるはずだが、海洋への放出量は発見できたものと自ら捨てたもの、つまり確実に海洋へ流したもののみで推計している。地下経由で流れ出たものなどは含んでいないので、これだけで少ないと判断するのは早計だとなる。
公式の数値はこんなところだが、最初に示した核燃料棒(装荷燃料体)についてもふれておく。原子炉内にあった核燃料棒は1,496体あったわけだが、これをベクレル値で表すと3月11日時点では以下のとおりと試算されている。
- 3月11日時点で原子炉内にあった放射能量 = 660,000,000TBq(テラベクレル)
これは運転中だと想定してのもので、仮にすべて運転時に爆発して飛散したとなれば(つまりチェルノブイリと同等)、最低でもこれだけの放出量となっていた。これは最悪値の一つであってそもそも比較対象たり得ないが、無理矢理放水して(再臨界を抑制しつつ)冷やし続けている結果、もはやこの値は意味を成していない。それがもう一つの試算、4月11日時点のものである。
- 4月11日時点で原子炉内にあった放射能量 = 110,000,000TBq(テラベクレル)
試算が妥当であれば、という前提ではあるが事故から1か月で6分の1にまで減っており、仮に先月起こったような水素爆発があったとしても、放出される量は爆発規模にもよるが同じく6分の1程度にはなるだろう。なお、念のためにふれておくが、3月11日から4月11日までの間に550,000,000TBq減った分が大気中あるいは海洋などに拡散(漏洩)したわけではない。原子炉が運転中の状態と、完全な冷却ができていないとはいえ、放水あるいは注水している原子炉とでは核分裂反応の速度(熱中性子の放出量)は大きく異なる。この核分裂速度の違いが、ベクレル値に表れているに過ぎない。
Bq(ベクレル)という単位は「1秒間に1つの原子核が崩壊(核分裂)して放射線を放つ事象」をいい、この事象1つを1ベクレルという。つまり、ベクレル値は核分裂の頻度を指すのであって、同じ質量の放射性元素であったとしても様々な促進要素(熱中性子の供給とか)によって核分裂速度は変化する。よってベクレル値も変わるのである。自明のとおり、ベクレル値の減少は放射性物質のわずかな減少にも影響を受けるが、圧倒的な減少要因としては原子炉運転時よりも核分裂反応速度が抑制されている、と見るわけだ。なので、今後再び状況によってベクレル値が増大する可能性も否定できない、となる。
以上、原子力安全委員会や原子力安全・保安院、東京電力の公式発表から、環境中に放出された放射能量を眺めてきた。問題はこれがどの程度続くのかはもちろん、どこに滞留(降下、堆積)しているかであろう。もう一度いうが、まだ誰も原子炉内はもちろん、使用済燃料プールの状況を見たものはいない。これらの公式数値はすべて試算、推計でしかなく、この6週間ほどを見れば明らかなように試算・推計数値は置き換わる(正確?な値に近づく)ものでもある。そういったことを念頭に置きつつ、今回はここまで。
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