東京都心でたらい回しされた挙げ句、妊婦が死亡したとされる問題(マスコミ報道によれば…で本当にそうなのかは何とも言えない)で、面白いことに「医師不足」が声高に叫ばれている。「医師不足」といえば、いわゆる限界村落等に見られる絶対的医師不足(不足どころか存在しない)のことを指すものだと思っていたが、東京都心でも起こっているのはどういうことか?
YOMIURI ONLINEの10月27日付ニュース「産科医不足で墨田・江東・江戸川の3医師会などが東京都に要望」によれば、「墨東病院周辺の墨田、江東、江戸川の3区にある医師会など地元産科医らでつくる6団体が今年2月、東京都に対し、産科医不足に対応するよう要望書を提出していた」ということで、何と地元医師会が一部専門医としてではあるが、医師不足解消を訴えていたというのだ。
この動きは、実に不可思議だ。確かに、地域の中核医療機関である病院の医師充実は、地元住民にとっては欠かせないもので、こういった要望が地元住民から出るのならわかる。大変よくわかる。だが、要望しているのは地域の医師会(ほか3団体)である。医師会とは、地域に独占的に組織することができる団体(例えば、千代田区内に複数の医師会を設立することはできない。判例で示済)であり、日本医師会をトップに都道府県医師会、市区町村医師会というようにピラミッド型階層を成した組織である。公共団体ではないが、その性格はほとんど公共団体に準ずるといっていい組織である。
しかも医師会は、医師であることをもって会員とするもので、これは開業医であるかを問わない。病院に勤務する勤務医であれ、医師の資格を持ってはいるが、いわゆる医業を行っていない者であれ、本人の意志があれば医師会に加入することができる。つまり、地域の医師会とは地域の医師で構成されているだけでなく、日本医師会という、いわゆる大きな圧力団体の傘下組織であるということである。
東京23区に限ってみれば、医師不足なのかと思うほど医療機関の数は多い(ここで断っておくが、医師と歯科医師は異なり、歯科医師は医師ではない)。だが、よく言われるように開業医では、小児科医や産科医が少なく、あっても高齢の医師が担当していることが珍しくない。これは、リスクが高いにもかかわらず、報酬はそれほどでもないからである。建前上、医師はどんな科目でも標榜できる(例外は歯科で、これは歯科医師にしかできない。逆に歯科医師は歯科以外(関連するものを除く)はできない)。なので、小児科や産科は医師免許を取得すれば誰でも標榜できるのだが、裏を返せば誰も標榜しないこともあり得る。つまり、標榜科目の選択は、医師の裁量にすべてが委ねられているのである。
一方、病院の勤務医の労働は過酷である。しかも報酬は、開業医が恵まれているのが信じられないほど劣悪である。もちろん、金額を他業種と横並びで比較すれば高いのだが、やっている仕事(労働)密度、プレッシャー、リスク等を勘案すれば、ある程度高額でも問題はない。にも関わらず、勤務医を続けるくらいなら、大きな借金をしてでも開業医になった方がいい、と考える医師が多いのも頷ける。それほどまでに勤務医(特に大病院の多く)は大変なものなのだ。
(大学病院であれば、医師の卵は多いのでそこまで深刻ではないが、公立の病院は大変厳しいだろう。)
つまり、東京都心の医師不足問題の本質は、医師の絶対数不足にあるのではなく、リスクの高い科目を選択したがらない医師、勤務医から開業医に流れる医師、地域中核病院の医療体制に地域の医師会がほとんど協力できていない、という現状にある。医師会が要望すべき問題ではなく、自分自身の問題なのだ。言うまでもないが、こうなった現状は医師一人一人、医師会にすべての責任があるわけではない(分析はプロにお任せする)。もっと大きな問題は別にあるのだが、それは項を改めて展開していくことにしよう。
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