前回の続きです。
「いちばん ちいさい バイオ」というわかりやすいキャッチフレーズに示されるように、VAIO Uは画期的なPCだった。もちろん、当時はWindows XP搭載PCで世界最小・最軽量をうたっていたが、それ以上にインパクトのある製品だった。私にとっては、東芝のLibretto以来の期待度の高さで小型PCを待ち望んでいた私は、Crusoe搭載という物珍しさも手伝って、即購入したのである。主なスペックは以下のとおり。
- Processor……Transmeta Crusoe TM5800 867MHz
- 2nd Cache Memory……512KB(Processor on-die)
- HDD……20GB
- Memory……256MB(PC133 SDRAM)
- Graphics……ATI Mobility RADEON-M(VRAM 8MB)
- Display……6.4-inch TFT LCD(1024 x 768)
- Battery……2.5~4 hours
- Size……184.5mm x 30.6mm x 139mm
- Weight……0.82kg
- OS…Windows XP Home Edition
チップセットは、いわゆるNorthBridge部分はプロセッサに内蔵されるタイプ(今日のAMDプロセッサに通ずるものがある。実装は異なるが…)なので、いわゆるSouthBridgeだけが搭載されているので表から省いてある。VAIO C1シリーズの実績があるとはいえ、このサイズは衝撃であった。これは、ほぼ5年前の製品であり、VAIO十周年の折り返し地点にあたるものだが、デスクトップも含め、VAIOのコンセプトはここまででほぼ出尽くした感がある。今振り返れば、この頃がVAIOのピークだったような気がする。
しかし、VAIO Uはいきなり蹴躓いた。足を引っ張ったのは、Crusoe TM5800&Windows XPであった。初代505でも、パフォーマンス不足を痛感したものだったが、これはさらに輪をかけてひどいものだった。起動時間に数分かかるというのは、最初のうちはトラブルかと勘違いするほどだったし、Crusoeの仕様であるCMS(コードモーフィングソフトウェア)によるx86命令翻訳のワンクッションは、アプリケーションソフトウェアの実行の際、作業リズムを狂わせるものだった(時間にしてはコンマ何秒の遅延に過ぎないかもしれないが、印象としては最悪だった)。バッテリ稼働時は、省電力モードが働いて、さらにもたもた感が強く、VAIO Uには大きな失望を覚える結果となった。ただ、小さいVAIOというコンセプトは、それだけで意味のあるものであり、パフォーマンスを求めないユーザにとってはそれなりに意義のあったものと思われる。実際、VAIO Uは様々なところで見かけるPCであった。
Transmeta社のCrusoeは、VAIO Uでデビューした「ために」、パフォーマンス不足という烙印を押されてしまった。VAIO Uのパフォーマンス不足の多くはプロセッサ自身にも問題があったが、無論それだけではない。メモリやHDD等、省電力を重視するために最高のパフォーマンスをそもそも求めてはいなかった。だが、結果としてパフォーマンス烙印を押され、肝心のVAIO Uでも一年を待たずして登場したVAIO U101には、Crusoeの姿はなく、Crusoe対抗として生まれ落ちたBaniasコアを持ったCeleron ULV 600A MHzに取って代わられた。単純なプロセッサ比較とはならないが、コアクロックが低いBanias Celeronの方が2倍以上のパフォーマンスをたたき出したのは、Transmeta社の敗北そのものを意味していたのである。
と、ここで次回に続きます。
コメント