前回の続きです。
では、面白いと思った記事を紹介しよう。と、その前にこの号に記載されている「海外情報」とあるページの主な項目(見出し)を抜き書きしておくと、当時の様子が多少なりとも伺えるだろう。
(断わっておくのを忘れていたが、基本的に旧かなづかいや漢字の旧字体は、すべて現在のものに置き換えてある。)
「無人兵器の続出 使用方法に三種類」
「"V2号" ついに飛ぶ 速度は音速の九割か」
「威力は野戦重砲級 ロケット砲弾の将来」
「圧縮空気の効用 英で被雷油槽船の沈没を防ぐ」
「"黒衣の寡婦"の正体 敵米の新鋭夜間戦闘機P61」
「「レーダー」電波探知機 米、性能の一部を発表す」
いくら戦争中とはいえ、鎖国状態ではないため、海外の情報は比較的入りやすかったのかもしれないが、これとておそらく当局の検閲を受けたものと思われる。ただ、意図的に歪曲させられてと思われるところは少ない。科学技術を啓蒙しようという科学雑誌の宿命からか、日本の有利不利の情報とは関係なく、淡々とこの兵器はこう、あの技術はこう、といった具合に記されている。
では、続いて「国内情報」とあるページの主な項目(見出し)を抜き書きしてみよう。面白いと思った記事は、ここにある。
「空中窒素を食糧化 技術有功章に輝く戦果」
「輸血代用品の研究」
「手作業を機械作業化 日立製作所の創意工夫総動員」
「輝く陸軍技術有功章」
海外情報と異なり、国内情報はとても同じ編集方針とは思えない内容である。が、1944年(昭和19年)末の日本の置かれている状況を慮れば、何とも切実な内容だと思えるものばかりである。
まず、空中窒素を食糧化という記事。あとで面白い記事として取り上げるが、これが実現すれば食糧自給が実現されるどころか、下手をすれば光合成よりも優れたものといえる。しかし裏返せば、当時の日本の食糧事情がいかに厳しかったかということが読み取れるだろう。
輸血代用品の研究も痛々しい。多くの負傷者が必要とする輸血もままならない事情だったのだろう。食糧事情を考えれば、献血どころではなかったかもしれないが、人造血液ができればそういった心配はなくなる。だが、窒素を食糧化とか、人造血液の研究とか、まるで秦の始皇帝が不老長寿の仙薬を求めるような話で、いかに無謀であてのない研究に資金が投入されていたのか、と思うと空しくなる(無論、当時は無謀だと思っていなかった可能性はあるが…)。
では、「空中窒素を食糧化 技術有功章に輝く戦果」の記事の概要を紹介しよう。リード部分を引用すると次のように書かれている。
陸軍では別項の如く十月二十八日技術有功章を授与される発明考案を発表したが、その中で兵食はいうまでもなく一般食糧政策から見ても輝かしい光明をもたらすものに陸軍糧秣廠の小山榮二技師等の研究になる「空中窒素の食糧化」がある。無尽蔵の空気と若干の電力によっていくらでも蛋白質食糧が作り出されるという世界的発明であるが、これについて小山技師の解説を聴くことにした。
確かにこれが事実なら聞いてみたいものである。しかし、内容を読んでみるとこれがさっぱり意味不明で、理屈が通っていないばかりか、どういう実験によって成されたかもわからない。さすがにこれは当時の科学朝日編集部もまずいと思ったのか、記事末尾に「附記、以上は特に許された範囲を口述したので解せない点の多いことは勘弁願いたい。」とある。軍事機密だから、という理屈からは筋が通っているが、筋が通っているのはそれだけである(苦笑)。その後、この発明と事業成果がどうなったのか知る由もないが、小山技師の信用は大きく失墜したのではないかと思われる。
この他にも興味深い記事は多いが、今回はこれまで。
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