最近、巷間で話題のいわゆる「主婦の年金救済策」。端的に言えば申請漏れの話だが、制度周知が不十分というお役所攻撃の常套句により、届け出漏れがあっても年金受給可能なだけではなく、さらに一歩踏み込んで年金保険料未払いでも年金支給させてやるという大盤振る舞いに、公平の原則を著しく無視したものとして批判を受けているが、さすがはずぶずぶの生活保護制度の元締めだけあって、たかがこの程度と高をくくっているところが見られる。
民主党のこども手当への批判もすごいが、これを非難されている方々は、例えば後期高齢者医療制度や国民健康保険制度、介護保険制度といった厚生労働省がにらみをきかせている地方自治体あるいはそれに連なる広域連合が運営する保険制度においても、公平明朗会計となるよう運動してほしいと思いつつ、以下の点を指摘する。
そのターゲットは「高額療養費制度」(介護保険制度においては「高額介護(予防)サービス費」)である。「高額療養費制度」は一度でも大きな病気・怪我などをされた方はご存じと思うが、一定の医療費(保険適用のもののみで、いわゆる差額ベッド代等は含まない。他、様々な要件を満たす必要があるが高齢者ほど緩い)を超えた場合、その超えた額について還付(給付)される制度である。我々、サラリーマンの場合だと給与(報酬)内に追給されることが多いだろうが、かつてはこの制度は自ら領収書を集めて申請しなければならなかった。そのため、なかなか制度の利用が進まず、今では制度上においても自動償還(勧奨)という考え方=つまり申請がなくても一定の要件を具備すれば申請したとみなして高額療養費が支給されるという、合理的なものとなっている。
だが、この自動償還(勧奨)の運用にあたり、大きな問題が横たわっている。それが一度支給した高額療養費について医療費(利用者負担額)に変動が生じた際、それに従って追給をしなければならないが、これに従うと次のような事象が生ずる。
例1:
Aさんは2010年10月に入院し、保険適用の医療費として10万円支払った。Aさんの高額療養費の上限額が7万円だとするとその差額の3万円が高額療養費として給付される。
100,000 - 70,000 = 30,000(高額療養費)
その後、医療費の算定ミス等によって、実は保険適用の医療費として10万円から9万円に変更されたとする。すると、高額療養費の算定式は、
90,000 - 70,000 = 20,000(高額療養費)
となるので、既に給付された高額療養費3万円のうち1万円を返すこととなるが、大都市圏の多くがこれを行っていないのである。理由は定かでないが、以前、知人からの疑義(母の医療費を余分に1か月取られたとのことで、病院側の計算ミスとわかり医療費はまるまる戻ってきた。当然、既に受け取っていた高額療養費を返すべきと役所に行って相談したところ、その必要はないと迷惑そうに言われたという話)に応えた際に調査して確認したことだが、よほどのことがない限り(例えば二重給付といった致命的ミス)このような返還は実施していないし、もしあるのなら、医療費というのは請求後に変動することなど珍しいことではないのだから、多数の返還事例が見られるはずだろう。つまり、このことは公然の秘密ではないかと見るのである。
なお、次のような例ではきちんと対応しているようである。
例2:
Bさんは2010年10月に入院し、保険適用の医療費として10万円支払った。Aさんの高額療養費の上限額が7万円だとするとその差額の3万円が高額療養費として給付される。その後、医療費の算定ミス等によって、実は保険適用の医療費として10万円から12万円に変更されたとする。すると、
120,000(医療費)- 70,000(上限額)+ 30,000(既給付額)= 20,000(追加給付額)
となり、2万円が追給となるが、これは制度上実施するとなっているので、当然のように行っている。もうおわかりだろう。高額療養費は「ばらまき」なのである。
何のことはない。厚生労働省では「ばらまき」は常態化しているので、ちょっとした批判に対し、すぐにスジ(法令)を曲げて平気で「ばらまき」対応することなど何とも思っていないのである。たまたま「主婦の年金救済策」が目立っただけで、実際には国会の審議など一切通さずに相変わらず「通達もどき」で「ばらまき」を実施している一例に過ぎない。医療保険制度は破綻しているとか、破産状態にあるとか言うが、保険料(税)を値上げたり国税などを投入する前にやるべきことは無数にあるだろうと思いつつ、今回はここまで。(少なくとも、私が所属する某健保組合はきちんと返還請求=給与天引きしているが、こんなデタラメは国保など公的機関の行っているところだけだろうが…。)
最近のコメント