我が国には、なぜ民間病院が多いのか。そして、医療保険制度が定着したのか。ドイツを範とした近代医療並びに医療保険制度だが、今や個人のリスクのために導入されたものが、社会全体のリスクになってしまっている現在。かつては窓口負担が5割だったものが、老人医療費無料化によって「例外が一般化」する流れの中、いつしか長寿化と同時に超高齢社会が到来し、若者を大事にしないどうしようもない状況となっておよそ20年が経過した。2025年がピークとされる高齢者人口だが、若者は虐げられたままであり、高齢者が失う前に座っていた旨味のあるポストを数少ない若者が奪い合う格好となっている。
個人の意見は社会の意見ではない。個人一人一人が発しない意見こそが社会の意見であるはずだが、個人主義が蔓延って久しく、それが人口シェアの多くを占める、いわゆる団塊の世代が歪みの元凶であるのは言うまでもない。若い世代が子供を産み育てる環境でなく、裕福な老親から離れられないパラサイト成人。一方で老親の側も数少ない子供に自分の将来の面倒をあからさまに期待し、それを見透かされている飯櫃な関係。若い頃の成功体験を忘れられない高齢者は、高齢になっても浪費を重ねる。今の日本は、自分たちが頑張ったからという強すぎる自負。もう次の世代にバトンタッチしてもいいだろうに、アンチエイジングなどに無駄なコストをかけ続ける。このコストを若者に振り向ければいいだろうに、というのは関係ないと言わんばかりだ。(中には、自分は年金暮らしでまったく贅沢などとはほど遠いとか仰る方もあるだろう。だが、それは自分自身の若い頃と比べているだけで、現代の多くの若者と比べればはるかに裕福だということを知るべきだ。現金収入の多寡ではなく、税制・保険制度・各種減免などなど、高齢者に有利なものは圧倒的だということを。)
自分さえ良ければそれでいい、持っている者が手放す理由などない、ということなのだろう。さて、愚痴愚痴で気分が悪くなってしまい恐縮だが、今回取上げるのは「日本病院史」(著者:福永肇、出版:ピラールプレス )である。帯に「病院の歴史を整理して、今日に至る流れをわかりやすく説明。病院が設立された事実を把握し、理解することで、視野が広がり、目線が高くなり、今日の医療制度や病院を深く知ることができる。先達の苦労や努力の跡をまとめあげた渾身の1冊。」とあるように、どうして今のようになったのかを知ることができる貴重な書籍だ。
ピラールプレスという出版社は聞いたことがないが、医学書等を出版されているところのようで、このような歴史書を出すのは珍しいように思う。が、しかし、このような歴史書は前代未聞というか、今まで通史として書かれたことがない分野であるので、却って医学書を出す出版社の方が相応しいとなるだろうか。では、本書の目次を列挙し、概観を眺めてみよう。
第1章 日本での病院の萌芽 ― 仏教の病院
1 奈良時代 聖徳太子の「療病院」
2 鎌倉時代 日本最初の病院、忍性の鎌倉「桑谷病舎」
第2章 南蛮病院と小石川養生所
1 室町時代 日本第二番目の病院、アルメイダの「府内病院」
2 安土・桃山時代、江戸時代初期 南蛮医学・紅毛医学の伝来
3 江戸時代中期 「施薬院小石川養生所」
第3章 ポンペの長崎養生所
1 最初の本格的西洋式病院ポンペの「長崎養生所」
2 ポンペの門下生達と長崎養生所のその後
第4章 幕末の欧米病院
1 福沢諭吉の欧米病院見聞
2 東洋医学の「医学館」と西洋医学の「医学所」
3 新島襄と箱館のロシア海軍病院
第5章 明治維新と病院の開設
1 戊辰戦争と軍陣病院
2 衛戍病院(陸軍病院)・海軍病院
3 医学校(東大)構築
第6章 明治の病院
第7章 日本の医療システムの構築
1 岩倉使節団 米欧のホスピタル視察
2 「医制」の施行
3 疾病と病院の変遷
⑴ 梅毒
⑵ コレラ
⑶ 結核
⑷ 精神疾患
4 済生学舎と蘇門病院
第8章 民間病院主体の日本の一般医療提供体制
1 民間(個人)病院
2 公的医療機関の展開
3 日赤病院
4 済生会病院
5 厚生連病院
6 施療病院
第9章 大正・昭和(第二次世界大戦敗戦まで)の病院
1 大正・昭和の病院(第二次世界大戦開始まで)
2 第二次世界大戦中の病院① 「厚生省」、「国民医療法」
3 第二次世界大戦中の病院② 「日本医療団」
4 第二次世界大戦中の病院③ 新規病院グループの台頭・展開
⑴ 厚生年金病院
⑵ 社会保険病院
⑶ 鉄道病院
⑷ 逓信病院
⑸ 労災病院
5 第二次世界大戦中の病院④ 軍事病院
第10章 海外の病院
1 中国
2 関東州・満州
3 台湾
4 朝鮮
5 南方・南洋
6 樺太
7 南米
8 ハワイ
第11章 GHQの医療改革
1 GHQによる医療改革
2 陸海軍病院の国立病院への移管
3 国立病院の台頭と整備
4 GHQによる医育教育改革
5「医療法」、「医師法」の制定とその後
6 GHQの看護体制近代化とその後
第12章 戦後から今日までの病院史と、病院の将来展望
1 戦後〜昭和六十年の病院拡張時代
2 老人病院の増加
3 昭和六十年「医療計画」導入:病床規制の時代へ
4 医療法改正の歴史
5 日本の病院のゆくえ
ご覧のとおり、明治~昭和戦前までの歴史が中心で、この時期の蓄積が我が国の病院の多くを未だに占めているといっていい。しかし、戦後の記述となる第11章及び第12章もボリュームは大きく、ここでは国民医療費拡大の実態を垣間見ることができる。
本書を読んで今さらのように気付かされたのは、我が国の近代医療(と制度)は、オランダ(徳川時代)→ドイツ(明治~戦前)→アメリカ(戦後)と影響を強く受けてきたということだ。アメリカ(合衆国)では、オバマの医療保険改革が頓挫しつつあるが、そもそも国民皆保険制度は全体主義国家の産物であることを意識すべきだろう。最初に愚痴愚痴書いたように、とどのつまり高齢者の高齢者による高齢者のための政治にしかなっていない多数決原理で、高齢者が我が物顔で暴れさせている現状を改め、強い個人主義を廃した社会的態度なくして、若者の未来はないのだと思う。
これこそが、高齢者(戦中派ないしは団塊の世代あたり)が五月蠅い、若者の右傾化の源泉であることを強く思う。で、横道に逸れたので戻すと、本書は「なぜ高齢社会となったのか」ということを知ることもできる良書だと感じた。近代病院の歴史を知ることが、高齢社会の本質を知ることにつながる。そう愚痴愚痴考えつつ、今回はここまで。
「そもそも国民皆保険制度は全体主義国家の産物であることを意識すべき」アメリカに住んでみると、いかに日本の制度が優れているか判るでしょう。
投稿情報: デハ3300 | 2014/02/14 18:10