昨年末までに入手した積ん読本のうち3冊を読み終えた。
「飛行機技術の歴史」(著者:ジョン・D・アンダーソン Jr.、訳者:織田剛、出版:京都大学学術出版会)と「十字軍の歴史」(著者:A.ジョティシュキー、訳者:森田安一、出版:刀水書房)と「確率の出現」(著者:イアン・ハッキング、訳者:広田すみれ,森元良太、出版:慶應義塾大学出版会)の3冊。いずれも原著があって、それを邦訳したものである。
「飛行機技術の歴史」は、最初に成功したライト兄弟はもちろんだが、それ以前の歴史にも多くのページを割いている。言うまでもなく、ライト兄弟の成功はいきなり何の前ぶれもなしに行われたものではなく、先人達の数多の文字どおり試行錯誤があってこそのものだからである。最も力が注がれている(と思われる)のは、レシプロ機の歴史と解説で、エンジン開発等を除けばほぼこの時代に飛行機技術が確立されたことの裏付けである。何でもそうだが、真に技術を知るためにはその歴史と、どの時代に「本質」があるかを理解することから始まる。たとえば、コンピュータについて知るためには、現在の事実上1チップ化されたものを知るのではなく、半導体に回路が実装される以前にすべての基本ができているとわかれば、どこを学習すれば良いかは自明であるだろう。
「十字軍の歴史」は、帯に大きく「ヨーロッパ中世最大のテーマ」とあるように、今でも注目が大きいものだが、いかんせん題材が大きすぎて、どこからどのように知ればいいのかという根本的な問いも、なかなか答えにくいものである。だからこそ、数多の出版・著作があり、中世から現代まで様々に語られているのだ。そういった数多の書籍の中で本書の位置づけは、同じく帯に「戦いは繰り返し失敗したのに,懲りずに続いた魅力は何だったのか?」という、十字軍の根源的な問いに応(答)えるものとなる。よって、十字軍の戦い(戦闘)の中身がどうだったのかというような話はほとんどない。だが、そのような話は類書にいくらでもあり、本書の価値はそこにはないというだけの話である。
「確率の出現」は、哲学者イアン・ハッキングの初期の作品で、今まで邦訳されていなかったのかと軽くショックを受けたほどである。神が操るとされた事象が、いかに人知の及ばない……というか人知が推測可能となる「確率」という形で表れ、それがどのように受け容れられていったかを述べたハッキングの出世作。既に原著が世に出てから相当の年数を経ているが、それでもなお、古さを感じさせない良書である。本書のみ原著を読んだことがあるが、邦訳もよくできているのではないかと思う。
といったところで、今回は簡単にここまで。
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