前回、交差点名の「洗足橋」についてふれてみたが、今回から東京地方の主要幹線道路の交差点名についてあれこれ語ってみたい。最初に選択したのは、江戸期以前からの往還道であって現在も主要幹線道路として位置づけられている中原街道(東京都品川区~東京都大田区に限る)である。これを最初にした理由は、前記事のコメント欄に「平塚橋」がふれられていたためである。では早速、交差点名を都心側から列挙していこう。なお、カッコ内は交差する主要道路を記している。
- 中原口(第二京浜)
- 桐ヶ谷
- 星薬大前
- 荏原二丁目
- 平塚橋
- 荏原警察署前
- 昭和大病院前
- 旗の台
- 南千束(環七通り)
- 洗足坂上
- 洗足池
- 大岡山駅入口
- 石川台
- 雪が谷大塚駅前
- 田園調布警察前(環八通り)
- 田園調布本町
- 丸子橋(多摩堤通り)
以上が中原街道の交差点名一覧となるが、「○○前」とあるのが17交差点名中、5交差点名であり、内訳は警察署が2か所、病院が1か所、大学が1か所、駅が1か所と公共的なものが選択されている。また、地域名ではあるが住居表示後に町名として廃止された「桐ヶ谷」や、駅名として採用されてはいるが公式な地名とは言いがたい「石川台」も含め、その地域(町)名が採用されているものも6交差点名を数えることができる。品川用水に架かる平塚橋、多摩川に架かる丸子橋のように橋梁名が採用されたものもあって、その地域特性をよく表していると言えるだろう。
では、各々の交差点名について気になる点なり思うところなりを以下に示そう。
中原口(なかはらぐち)
中原街道の入口という意味から命名されているが、ローマ字表記が「Nakaharaguti」となっており、色々な意味で興味深い。おそらく近いうちに表記変更されるのではないかと見るが、それがいつかは定かでない。
桐ヶ谷(きりがや)
東京城南地区で「桐ヶ谷」といえば、やはり「火葬場」となるだろうか。埋立地に新規の火葬場ができるまでは、都内の火葬場のどこもそうだが、大変な混みようで知られる(今も十分に混んでいるが)。江戸期よりの村名から継承された地名であり、住居表示制度によって西五反田に塗りつぶされたが、今なお健在なのは、迷惑施設と言われるこの施設あってこそであろう。
星薬大前(ほしやくだいまえ)
星薬科大学に由来するが、旧中原街道側に入口があり、前とは名乗っているがそれなりの距離がある(敷地内を通って正門までは100メートル以上ある)。これは、現在の中原街道ができる前より星薬科大学がこの地にあったからで(1911年に前身と位置づけられる星製薬株式会社の本社工場ができて以降)、地域の拠点(シンボル)として長くあり、私学ではあるが交差点名として相応しいものと言えるだろう。
荏原二丁目(えばらにちょうめ)
住居表示後の町丁名を採用しており、交差する道路はそれほど広くないが戸越銀座商店街を構成する道路であることから、交差点名が付与されたと思われる。
平塚橋(ひらつかばし)
かつての品川用水に架橋された橋名から採用されたもので、平塚とはこのあたりの地域名、字名、村名、町名、そして住居表示後も生き残る古い地名である。なお、読みについては地域名の由来となった「平塚」と呼ばれる塚(小丘)は「ひらづか」と読むが、それ以外のものは橋名、交差点名含めすべて「ひらつか」と濁らずに読む。
荏原警察署前(えばらけいさつしょまえ)
ローマ字表記は「Ebara Police Sta.」で、英語圏の人にとって有意な表記となっている。ただし、最初からそうだったかどうかは定かでない(案外「Ebarakeisatusho」とか…)。交差点に面して警察署のほかに荏原郵便局もあるが、当然警察署が優先されるのは自明と言えよう。
昭和大病院前(しょうわだいびょういんまえ)
ローマ字表記は「Showadaigaku byoin」で、先の荏原警察署前とは表記ルールが異なる。単に「間に合っていない」可能性もあるが、いずれは英語圏の人に意味のあるものに変わると見込まれる。さて、昭和大学病院はこの地域の拠点と言える病院で、しかも幹線道路に面する救急医療機関でもあることから、シンボルとして、そして交差点名として相応しいものではある。だが、この交差点に近いのは昭和大学東病院であって、17階建てのこの地域初の高層ビルである病院棟はこの交差点ではなく、次の「旗の台」交差点に面している。
旗の台(はたのだい)
旗の台(旗ノ台)は、旧中延村の字の一つで、現在の旗の台四丁目あたり(旗台小学校の南側)の地名に過ぎなかったが、1951年に東急電鉄によって旗の台駅が開設(名称変更並びに統合)されてからは、この地域の主力地名になって、住居表示後は大きなエリアを持つ旗の台一丁目~六丁目を構成している。本来の旗ノ台とはまったく無縁の場所ではあるが、旗の台駅への入口となる交差点として考えれば、あながち外れたネーミングとはならないだろう。
南千束(みなみせんぞく)
環七通りとの交差点であり、ここは長原陸橋があるところだが、交差点名は長原陸橋ではなく南千束とされた。なぜ、南千束なのかはわからないが、長原陸橋ができる前から交差点名称が定着していたかと思われる。
洗足坂上(せんぞくさかうえ)
中原街道はここから洗足池方面にかけて下り坂となるが、この坂を洗足坂(せんぞくざか)といい、この坂上に位置するためこの交差点名となった。というが、洗足坂という名称はそれほど古いものではない。なお、読み方は「せんぞくざかうえ」ではなく「せんぞくさかうえ」と濁らない。
洗足池(せんぞくいけ)
江戸後期からの観光地である洗足池。もとは千束池(千束の大池)が正しいが、観光地として紹介されるのは専ら「洗足池」の当て字であったので、今では地元でも洗足池として定着した。
大岡山駅入口(おおおかやまえきいりぐち)
入口と称するが、ここから大岡山駅まで500メートル以上ある上、道路の突き当たりまで進んでも大岡山駅には着かない。そこから左折して50メートルほど進んでようやく大岡山駅前交差点となる。
石川台(いしかわだい)
町名の石川町ではなく、東急池上線の駅名である石川台が採用されている。「台」とはいいつつも、この交差点は呑川縁にあり低地である。周辺のマンション等は、石川台を名乗るものが多いが、石川町としないのは横浜市のそれと混同しやすいからだろうか…。
雪が谷大塚駅前(ゆきがやおおつかえきまえ)
名実共に駅前であり、かつて地上駅だった頃は線路を渡ってすぐにホームに着くほど近かった。
田園調布警察前(でんえんちょうふけいさつまえ)
かつては東調布警察署といった田園調布警察署。もちろん、交差点名はこれに因む。近くの消防署も東調布から田園調布に変更されたが、郵便局は雪谷郵便局と田園調布を冠していない。
田園調布本町(でんえんちょうふほんちょう)
このあたりは中原街道を境界として、田園調布一丁目と田園調布本町にわけられているが、田園調布一丁目でなく田園調布本町が採用された理由は定かでない。他に田園調布一丁目交差点があるわけでないが、近くにある田園調布二丁目交差点との混同を避けるためか。
丸子橋(まるこばし)
多摩川に架かる橋だが、旧中原街道が多摩川を渡るのは橋ではなく渡し船の丸子の渡しだった。中原街道が拡幅される際、この付近は既存の道路ではなく新規に拓かれた道路で、ここから多摩川を越えるのに造られたのが丸子橋である。交差点名はこの丸子橋に由来する。
以上、中原街道の交差点名について、あれこれふれてみた。道案内に欠かすことのできない交差点名は「わかりやすさ」と同時にこのあたりに何がある(何という地域)ということも、併せて説明するシンボルであり、安易なネーミングは避けたいところ。人それぞれ思うところはあるだろうなとしつつ、今回はここまで。
洗足橋でも触れたように、環七から至近距離にある洗足駅に曲がる洗足駅入り口に相当する信号機は「北千束五差路」となっているのに、「大岡山駅入り口」は御説のとおり感覚的にはピンときませんが、現在大岡山駅から洗足池駅経由で、このルートで患者送迎バスが運行されていますが、関係があるかないかは分かりません。
投稿情報: 木造院電車両マニア | 2013/12/23 19:38
南千束交差点近くで生まれ育った者として、この交差点の変遷は、他と比べても激しいと思っています。昭和30年代の環七は、夫婦坂付近の幼稚園に通う私が、信号のないところでも渡れる、狭い道でした(三間程度?)。当時は交差点付近に交番があり、時折、お巡りさんの手信号だった時もあった気がします。
それがオリンピックを契機に拡幅され、あれよあれよという間に、中原街道よりも広い道に。
かくして昭和30年代の狭い道から、昭和40年代は幹線道路の交差点となり、さらに長原陸橋の登場は、昭和50年代後半だったと思います。バス停の名前が「旗の台五丁目」から「長原陸橋」に変更されたのが昭和57年7月1日というので、長原陸橋完成もその少し前あたりだったのかな。
そして、側道ができました。これができたときは、最初どう渡るのかわかりませんでしたよ。
現在90歳になる伯母が、一昨年我が実家に長原からやってきたとき、交差点のあまりの変遷の激しさに(伯母の来訪はン十年ぶりでした)どこを歩いているのかわからなかったといいます。
投稿情報: りっこ | 2013/12/24 13:34
追伸:大岡山駅入り口
丸子橋方面から来た車が大岡山駅に行くには、手前の工大横の狭い旧道は一方交通ですので、このルートしかありませんので、あながち合理性が無いともいえませんね。五反田方面からですと、環七を右折して赤松小学校の前を通るルートもありますが、不案内の方々にはこの信号で右折した方が簡単かもしれません。
投稿情報: 木造院電車両マニア | 2013/12/25 08:41