Intel社が今月初めに発表した第4世代Coreプロセッサ(以下、コードネームからHaswellと表記)は、デスクトップ版の評判は今一つであるがそれは無理からぬことである。なぜなら、HaswellはMobile向けプロセッサとしての強化を行っており、デスクトップ向けの強化は大して行っていないからである。
そのMobileプロセッサも、今回はいくつか種類が分かれている。それはアルファベット1文字によって識別され、
- M-Processor
- H-Processor
- U-Processor
- Y-Processor
となっている。このうち、最も過去を引きずっているのは「M-Processor」で、rPGAパッケージで提供される。あまりMobile PCでは見ることはできないが、デスクトップ向けプロセッサのように換装を行うことが可能だが、次世代のMobileプロセッサではこのパッケージは採用されないという。そう、パッケージ形態自体がオールドタイプという位置づけなのである。とは言いながら、最もハイエンドクラス(高パフォーマンス)のMobileプロセッサはこの「M-Processor」となっている。裏を返せば、爆熱のMobileプロセッサは過去の遺物だと言いたいのかもしれない(何せTDPが57Wという代物まであるのだから)。
続いて「H-Processor」はBGAパッケージで提供される。「M-Processor」のところでもふれたように、PGAパッケージ形態での提供がMobileプロセッサにおいてはHaswellが最後であるので、今後はこのBGAパッケージ、つまり「H-Processor」がいわゆる通常電圧版のMobileプロセッサの主力となる。TDPも37W及び47WとIvy Bridge世代以前のものとほとんど変わらず、ゲーミングノートPCや2kg程度のノートPCには積極的に採用されるものであろう。
そして私が注目するのは「U-Processor」。残念ながらQuadコアではなくDualコアだが、いわゆる低電圧版(一昔前なら超低電圧版)レベルのTDP 15Wを実現(TDP 28W版もあるが)。それでいながら、そこそこのパフォーマンスを秘めている。今回は、これが話のネタなので詳しくは後述する。
残る「Y-Processor」はTDP 11.5Wと超低電圧版レベルだが、今回新たにSDP(Scenario Design Power)という指標を採用しており、SDPにおいては6Wであると主張している。SDPとは、Scenarioとあるように、このプロセッサが搭載される機器がどのように使用されるかをIntel社が想定したシナリオに基づいて算出したプロセッサ消費電力を表す。なのでどうしても低く見せたい(無論、ARM対策)ということでしかないのだが、ARM系プロセッサの消費電力の算出もいかがわしい部分がないと断言しにくいので、どっちもどっちとなるだろうか。どちらにしても、Atomの領域を「Y-Processor」に変えていく尖兵であるのは間違いないと思う。
以上、簡単にMobile版Haswellの種別を見たが、上でふれたように私の注目は「U-Processor」である。これまで散々Quadコアじゃないとだめとほざいていたのではと思われる方、正しいです(苦笑)。だが、Mobileにおけるパフォーマンス一本槍に疑問符を打つようになっているのも、また事実。理由は、昨年以来使用しているiPad並びにAndriod端末で、思い処理を行わない限り、このレベルでも事足りると気付いたこと。また、グラフィックスにしてもSandy Bridgeによってプロセッサと統合されたことは大きく、Ivy Bridge、Haswellと世代を重ねてきてパフォーマンスも底上げ(トップスピードではなく底上げによる全体的な使用感の向上)されてきたことも相俟って、よほど重い処理を行わない限り問題がなくなってきた。そうなると、たかだかTDP 15WでありながらDualコアであり、Haswellで大幅に強化されたグラフィックスGT3を搭載する「U-Processor」の存在が気になって仕方がない、という流れなのである。
では、Haswellで注目する「U-Processor」を一瞥してみよう。
「U-Processor」は大きく分けると3種類あり、その違いはTDP(28Wと15W)とグラフィックス(GT2とGT3)によって識別される。TDP 28W版とTDP 15W版の違いは、倍近い消費電力の差からわかるように、プロセッサの通常動作クロック(つまりTurbo Boostではない)に大きな差がある。具体的に製品名でいうと、Core i7-4558UがTDP 28WでGT3搭載に該当し、これはプロセッサ動作周波数2.80GHz(Turbo Boost時で3.30GHz)の製品である。ただし、TDP-Normal / HFM(High Frequency Mode)において2.80GHz定格動作であって、TDP-Normal / LFM(Low Frequency Mode)においては800MHzに大幅ダウンする。もっとも、昨今のプロセッサは重い処理を継続するような特殊な例(ベンチマークテストとかビデオエンコーダとか)を除けば、演算性能が高いためにトップスピードで走る時間は圧倒的に少なく、大半がLFMか、あるいはそれよりも低いLPM(Low Power Mode)で動作するため、HFMの恩典はかつてよりも少なくなっている。
一方、同じGT3を搭載しながらTDPが15Wと、Core i7-4558Uよりも半分ほどのTDPで動作する製品は、Core i7-4650U等がある。プロセッサ及びグラフィックスの動作クロックでCore i7-4558Uよりも劣るのに、型番はCore i7-4650Uと数字が大きいのは、無論 TDP 28WよりもTDP 15Wの方がプレミアだからである。「U-Processor」はいずれも動作電圧(プロセッサコア)は1.6~1.84Vであるので、定格動作時を除くと TDP-Normal / LFMもLPMもグラフィックスで100MHzの差しかないのに、TDPが倍違うわけだから、素性のいいコアが選別されていることもわかるだろう。
さらに興味深いのは、GT2を搭載するTDP 15Wのもので、製品としてはCore i7-4500Uなどがある。GT3を搭載したものは、プロセッサのTDP値がイコールTDP-Normal / HFMだったのだが、GT2のそれはTDP-Upというステータスが追加され、その名のごとく15Wを超える25Wが設定されている。これは、Ivy BridgeからサポートされたcTDP(Configurable TDP)と呼ばれる機能のうち、一時的に定格TDPを超えることができるものを指す。Intel社のデータシートを見る限りにおいては、「U-Processor」のうちGT2搭載のみとなっているが果たして…。
といったところで、次回に続きます。
遅いコメントで恐縮ですが、Core i7 4600U 2.1-3.3GHz Intel HD Graphics 4400 と Core i7 4550U 1.5-3.0GHz Intel HD Graphics 5000 ではどちらを勧められますか? これまでの記事を拝見しますと高解像度液晶(WQHD~)ですと周波数よりもグラフィックス(GT3)の選択のほうがレスポンスが良いのでしょうか?使用用途は、Officeでの作業、業務管理ソフト(WEB版)、現場写真の整理などです。
投稿情報: bridge | 2014/01/30 00:18
前編、としながら後編がない記事にコメントいただき、どうもありがとうございます。
さて、ご質問の件についてですが、第2世代Coreプロセッサ(Sandy Bridge)以降のMobileプロセッサは、いわゆるスペックだけではパフォーマンスを語るのが困難となっています。というのは、すべては熱設計電力(TDP)の枠内で何が行えるかであって、PCの放熱設計やユーザーの使用環境によって、パフォーマンスが大きく左右するためです。
第4世代Coreプロセッサ(Haswell)は、省電力性能が大きく向上したといわれますが、実際使用していてそれは間違いないと実感しているものの、一方ではトップスピードで走っている時間はきわめて短いと言わざるを得ません(重いベンチマークテストを実行すればすぐに息切れします)。このあたりはトレードオフと言っていいでしょう。
さて、4600UはGPUに使用しているトランジスタ数は4550Uの半分しかありません。したがって、まったく同じ条件でCPU、GPUをトップスピードで実行させれば、当然、トランジスタ数の多い4550Uの方が消費電力が高い=発熱量が多くなり、それぞれが同じTDPであったなら、4550Uが先に息切れします。もっとも、4600Uよりはグラフィックス関連処理は速くなっている可能性が高いですが…。
要するに、スペックはTDPによって制限され、同じTDPならゴージャスなスペックほど、早く息切れするということです。息切れ前に処理が完了するなら、スペックの高い方がパフォーマンスが高いという自明の結果が得られますが、そうでない場合は一概に言えない、ウサギとカメのようなことが起こりうるのです(CPUとGPUでTDPの食い合いが起こるため)。
では結論です。写真の整理はデータの容量や処理方法によりますが、それ以外の局面ではGT3である必要は限りなく低いと言って差し支えありません。一方で、CPUの最高クロックについてもそれほど拘る必要はないと考えます(私のようなプレミアム感に拘りを持つ場合は別)。というのも、Haswellは省電力機構が優秀、つまりはトップスピードで動作している時間は限りなく短く、普段は800MHzあたりをうろうろしているからです。レスポンス重視なら最高クロック数が高い方がいいのは事実ですが、多くの処理では2GHz程度で十分だからです。
投稿情報: XWIN II | 2014/01/30 06:52