世界のニュースの半分ほどが、イスラム教を冒涜したとされるつまらない映画をきっかけに各地で争乱が起こっていること、我が国周辺での領土問題でも同じようなことが起こっている、ということに鑑み、久しぶりにPSPの「タクティクスオウガ 運命の輪」を振り返ってみた。
「タクティクスオウガ 運命の輪」はスーパーファミコンでリリースされた「タクティクスオウガ」のリメイク版だが、基本線は変わらないものの、多くの追加要素がある。ROMカセットでは容量的に厳しかったためと思われるが、バトル内での台詞追加も興味深いものが多く、今回引用するのもそんなシーンの一つだ。
顔は汎用顔であるが、魔道士ジルドアはバトルで生かしておくと、かなり長尺な台詞を話すようになる。特にこの台詞「貴様の言うことは綺麗事ばかり! 人は理屈では動かないぞ!」を吐いてからは、主人公デニムとの掛け合いが結構続くのだ。
「貴様たちウォルスタ人はゴミだ、クズだ、害虫だ! この世にいてはならぬ存在なのだ!」と、かなりきつい物言いだ。ガルガスタン人(このジルドアさんが所属する民族)とウォルスタ人(主人公デニムが所属する民族。とはいえデニム自身はウォルスタ人ではない←このバトル時点では明らかとなっていないが)は父祖からの対立が続くのだが、内戦によって憎悪が募り、選民思想や相手を絶滅させる、いわゆるジェノサイド思想が蔓延っているという背景があっての台詞である。
なので、「貴様たちウォルスタ人がこの島からいなくなれば すべては丸く収まる、そういうことなのだ!!」となるわけだ。島からいなくなれば、というだけありがたいとも取れなくはないが…(「島から」が「この世から」とされたら厳しい)。
それを返すデニムの台詞は「僕らを抹殺したら次はどうする? バクラム人を殺すか? その次は誰を殺す?」と問い返す。ここに出てくるバクラム人とは、ガルガスタン人やウォルスタ人よりも少数勢力ではあるが、貴族や僧侶などといった高位の人達が属しており、外国部隊を駐留させることで今ではこの両民族を凌駕する力を持っている民族である。端的に言えば、ガルガスタン人とウォルスタ人の父祖からの争いを激しくさせることで、漁夫の利を得ているのはバクラム人というわけである。したがって、このデニムの台詞は暗にこのことを示唆すると同時に、虐殺をいつまで続けるつもりなのかという根源的な問いを発しているのだ。
しかし、デニムはこう続ける。「バクラム人を殺した後は 同じガルガスタン人同士で殺し合うんだろ?」と。そう、とどのつまり選民思想の行き着く果ては、わずかな違いで他者を蹴落とす無限回廊を進むようなもので、最後の一人になるまで終わることはないのだ。よって、
さらにデニムは続ける。「わずかな習慣の違い、宗教の違い、価値観の違い。そんな理由で弱者を殺しにかかる!」と。ここまで言われたら、と思うところだが──
とどめの「それがあなたたちだ!」。スーパーファミコン版のタクティクスオウガしか知らない(セガサターンやPlayStationの移植版も含めて)人からすれば、随分とデニムは能弁になったと思うかもしれないが、これがROMカセット(メガビット単位)と今やGB単位となったデータ容量の差となる。ここまで指摘されたジルドアは、無論、火に油を注がれたようなものとなる。
「なんだと!? クズの分際でその物言い、我慢ならぬ!!」と。クズの分際で、というほどに卑下している相手から、よもやそれ以下という扱いを受ければ激怒もしよう。しかし、憎悪は増幅した憎悪を生むだけで、この無限連鎖を断ち切らない限り未来はない。しかし、そう単純でないことは、中東の歴史を見れば自明ではある。これに対し、デニムは反論を続けさせない。
「僕の敵はガルガスタン人じゃない! あなたたちのような人間だ!」として、今まさにバトル中のガルガスタン人、魔道士ジルドアに対してそれを否定。
さらに続けて「そうやって詭弁で他人を欺き、不安をあおり、自分の優位性だけを確保しようとする。」と。嗚呼、この台詞。他にもぶつけたい人はごまんといるが、若者でなければこの台詞そのものが詭弁となりかねない。若者だけが許される特権なのだ。
「そんなあなたたちのような人間が 僕らヴァレリア人の敵なんだ!」と言い切る。言い切ったなデニム。要は、すべてのガルガスタン人が悪いのではなく、それを利用し、関係ない他人を煽動(先導)し、憎悪を増幅する人が悪いのだ、と。敵はガルガスタン人と、レッテルを貼られた属性すべてではなく、その中のごく一部であるとすることで、他のガルガスタン人は敵ではなく融和していく。まさに、現実の世界でも同じようなことが起こっていよう。
こうして振り返ってみて、ますます「タクティクスオウガ 運命の輪」は名作だと実感する。最初に登場してから既に20年弱、シミュレーションタクティクスRPGの祖にして、未だ本作を超えるものはないと言わしめるだけのことはある。世界のニュースを眺めながら、今回はここまで。
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