仏IRSN(Institut de Radioprotection et de Sûreté Nucléaire)は、我が国の公式発表に先駆けて、福島第一原発事故による海洋汚染影響予測図を公表した(「Accident nucléaire de Fukushima-Daiichi : l’IRSN publie une note d’information sur l’impact sur le milieu marin des rejets radioactifs consécutifs à l’accident」)。ここで公開されている文書の中から、三つの予測図をピックアップしておく。(なお、図からわかるようにSirocco大学Toulouse校が計算したもの。)
「Simulation de la dispersion en mer du rejet liquide à la date du 4 avril」とあるように、4月4日時点における海洋での放射性物質に汚染された水(液体)の分散予測である。単位はBq/l(ベクレルパーリットル。1リットルあたりのベクレル値)。かなり高濃度(1024Bq/l 超)のものが、かなり広がっていることがわかる。この値は、初期値(つまりどれだけの汚染水が流出したか)によって大きく変わるので参考値程度でしかないが、汚染の影響度の指標としては十分に意味のあるものである。
続いて「Simulation de la dispersion en mer des retombées atmosphériques à la date du 4 avril」とあるように、こちらも4月4日時点における大気中の放射性物質が海面に降下(フォールアウト)して分散する予測図。同じく単位はBq/l(ベクレルパーリットル。1リットルあたりのベクレル値)。汚染水よりも濃度ははるかに低いが、より広範囲に拡散していることが確認できる。先日、コウナゴが基準値を大きく超える放射線量が確認されたことで急遽、魚介類にも暫定基準値が設けられた(というか無批判に野菜と同値を採用しただけで根拠はない)が、コウナゴのように海面近くで生活しているものが汚染されていたということは、汚染水よりも大気中の放射性物質が海面に降下したものの影響を強く受けると思われるので、この予測図は驚きを禁じ得ないほど、である。間違いなく漁業は直撃を受けることだろう。
そして三つ目は「Simulation de la dérive de la pollution radioactive」とあるように、汚染された海水が3月29日以降、72日間にわたってどう海洋に広がっていくかの予測図である。九州が陸地扱いになってないのはご愛敬だが、汚染水が白い曲線より下に行かない点に注目である。この白い線は海流を表しており、日本列島に沿って走っているのが黒潮(Kuroshio)で、この強い海流の影響を受けてこれより南下することはないと予測しているのである。
福島第一原発事故以来、真っ先にこのような情報を提供しているのは仏IRSNで、大気への放射性物質の拡散シミュレーションも先んじていた。そして汚染水漏水問題が発覚してすぐにこのようなシミュレーションを行い、可能な限り早く発表していることも素晴らしいことである。それに引き替え、我が国はといえば「安全」というお題目を唱えれば極楽浄土に行けるが如く宗教っぽい対応しかできていない(こういったら宗教関係者に失礼だと思うがご容赦)。終わっているのは福島原発以前に……(以下略)。
2011年4月6日午後追記
参考記事:「放射性物質、海洋で沈殿の恐れ 原発事故で仏研究所」(日本経済新聞のWebサイト)
はじめまして。ニュースを見る視点がとても重要なところをおさえていらっしゃるので、感銘を受けました。
ミクシィというソーシャルネットワークで「福島第一原発事故を見守る」というコミュニティで書き込みをしておりますHirondelle と申します。3日間ニュースをチェックできない突発的な出来事が家族内にある内に4月4日付でこのようなIRSNの発表があったことを知りました。
もし可能であれば、くわしくはこのページを参考にして下さいとして、リンクさせていただければありがたいのですが、よろしいでしょうか?私自身もフランス語版ページを今夜できるところまで翻訳するつもりです。
それでは、よろしくお願いいたします。
投稿情報: Hirondelle | 2011/04/06 21:40
ああ、これを読む限り、我が国に原発が54基?もあるというのに事故防止策や緊急時の無策には肌寒い思いを通り越してしまう。
世界の警察を演じてる国の古いコピーで制作された原発が何基あるのか定かではないが、当時の行政の大失策と言わざるを得ない。
当時、このような原発では危険と主張していた3人の専門学者が東電他によって村八分にされて、徹底的な経費削減に走ったツケが回ってきたと思えます。
仏・独の原発先進国を手本にすべきでしたね。
正統派イングリッシュを話せない(米語オンリーと言っても過言でない)戦後の教育政策のかじ取りの誤謬と重なる事と感じます。
真似をされて「本物」なのです、もう世界はBRICS?体制と変貌を遂げているようであるが、そのインドに我が国からの全ての食品の輸入を拒否されたことは良い悪いは別として真面目に考えなければいけない。
世界から心配されてる日本がこれだけ「こと原発事故の対応が遅く」ては相手にされなくなるかもしれません。
詮無い事よのー。
東北地方初め日本に明るい未来が横たわっているとは到底思えないので、識者等の御反論をお受けするのも覚悟で素人の私が敢えて言わせて頂きました。
投稿情報: 自由人 | 2011/04/06 21:51
Hirondelle 様、リンク等許諾不要です。
投稿情報: XWIN II | 2011/04/07 07:00
有難うございます。私の翻訳したもの、遅まきながら別サイトgooのブログに載せます。ミクシィの方は、被災して福島に住んでいる方もいるので、なるべくシンプルな形にしたいので、あまり専門的すぎたり、煽る側面のある内容を載せたくないので。それでは、コメント欄に許可いただきありがとうございました。
投稿情報: Hirondelle | 2011/04/09 02:43
コメントがすばらしす。ほんっと、宗教っぽいっす。この国は。精神論とか。根性で放射能はどうにでもなるっすよ。
投稿情報: hoge | 2011/04/11 17:07
放射性物質の大気中の拡散シミュレーション同様、海洋での拡散も外国語のサイトでしか見れぬ日本人の不幸を痛感します。日本のスパーコンピューターはこの程度のシミュレーションもできないのでは、事業仕分けで大騒ぎした皆さんはそれを何に、誰のために使うのでしょう。
投稿情報: ちゅん | 2011/04/20 23:30
上のコメント欄に、海洋での拡散が外国語のサイトで見れないというのがありましたが、4月12日から日本でも出ています。スーパーコンピュータで計算されたものです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304938.htm
投稿情報: duket | 2011/04/22 21:37
申仕分け無い。スーパーコンピューターは作れるんですが。使い方がわからないので。。。
投稿情報: 毛仕分け無 | 2011/05/22 13:29