「京都の歴史を足元からさぐる」シリーズは、最初の「洛東の巻」が出た時から書店に並んだ直後に購入し、京都旅行のお供として連れて行くほどのお気に入りであるが、昨年秋に刊行された最終巻は最近まで手つかずにいた。理由は多忙に任せていたからというのはあるが、それ以上に最終刊は森先生以外の方がお書きになっている部分が半分程度あったことである。著者は、自分自身の得意分野でない等の理由を掲げてられるが、実際にはあえてふれないが別の理由があったと予想する(もっとも当たった試しは少ないが)。そんな感じで、しばらく放置状態だった最終刊「京都の歴史を足元からさぐる―丹後・丹波・乙訓の巻」を先週末読了した。
本シリーズを読まれた方であれば、著者の森先生が自身の蘊蓄を実際に足を運んで再確認された様子が言葉を選んで紡がれていて、単なる歴史読み物、ガイドブック等の範疇に収まらないことがわかるだろうが、最終刊の本書は残念ながら従来の5巻のようにはなっていない。それは、森先生以外の方が半分程度書かれていることが最たるものだが、それ以上に森先生の文章に何というか、冴えというか切れといおうか、これまでの5巻とは違った印象を強く受けるのである。
この理由は、本書のあとがきを読めば私なりに見えてきた。それは悲壮感である。森先生は大病を患われた後、復帰されてから本シリーズを著わされているが、そういう体験の中でいい意味での「余命」を与えられた余裕、運がよかった的な達観された見方があったのだが、最終巻は人の手を借りた上に、この本を読んだらすぐに手放すのではなく座右の書としてほしいと読者に要求するのである。気持ちはわからないではないが、このような気持ちが文脈に表れてきてしまっては読んでいて面白いはずがない。
まぁ、そんなことを言ったところで、本書は森史学の集大成であることに異論はないし、シリーズ6巻を通せば、京都の歴史を扱った中では間違いなく良書の一つに数えられる。私も本書に採り上げられた史跡を先生の視点を確認しながら再訪したが、やはり過去の歴史をしっかり関連づけてこそ、京都の史跡は面白いと実感したのだった。
そんなことを感じつつ、今回はここまで。最後に本シリーズの一覧を列挙して終わる。
- 2007年9月 洛東の巻
- 2008年3月 洛北・上京・山科の巻
- 2008年10月 北野・紫野・洛中の巻
- 2009年4月 嵯峨・嵐山・松尾の巻
- 2009年11月 宇治・筒木・相楽の巻
- 2010年9月 丹後・丹波・乙訓の巻
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