いきなりだが「日本人がこんな本を読んでおもしろいのか?」と思われるかもしれない。私も最初は、遙か遠い一地域(無論、スコットランドはグレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国=通称、連合王国=United Kingdom=UKからわかるように正確に言えば一地域などではなく連合王国を担う一つの国という認識が正しい。だが、多くの我が国の人たちはそう思っていないだろう。イギリスという通り名であるために)の歴史などあまり興味がないといった印象だった。しかし、最近オックスフォード大学から出版されている(そして慶応大学によって邦訳されつつある)ブリテン諸島の歴史シリーズを読み進めるに当たり、これはスコットランドの歴史もしっかりと押さえていかなければならないかな、と感じて読み始めたという流れである。
本書は、邦訳版が出てまだ半年程度しか経過していないが、原著はもう40年以上前に出版されている。だが、1830年までの歴史を語っているので、歴史的新発見等がない限りは問題なく、実際に根本的な部分での訂正はなさそうである。本書は500ページを超える大著であり、まだ読了していないことから、概要を示すには目次を示す程度でご容赦願いたい。
イントロダクション 中世 一〇五〇-一五六〇年
第一章 スコットランド国民の起源
第一部 改革の時代 一五六〇-一六九〇年
第二章 宗教改革
第三章 改革教会の社会に対する影響
第四章 政治改革
第五章 田舎 ―― 共同体と農業
第六章 田舎 ―― 土地保有と生活水準
第七章 自治都市
第八章 文化と迷信
第二部 変容の時代 一六九〇-一八三〇年
イントロダクション
第九章 政府と教会
第一〇章 経済の変遷
第一一章 人口問題
第一二章 ローランド地方の地主
第一三章 農業革命期の農民
第一四章 ハイランド地方 一六九〇-一八三〇年
第一五章 都市の中産階級
第一六章 産業労働力 一
第一七章 産業労働力 二
第一八章 教育
第一九章 スコットランド文化の黄金時代
著者は邦訳版出版にあたり、新たに日本語版読者向けへのまえがきを追記しているが、ここに次のような一文がある。
「歴史とは複雑でやっかいな代物である。その複雑さや二面性を示そうとしない歴史書は、歴史という学問領域において十分役割を果たしているとは言えない。これまで筆者が歴史の研究人生で味わってきたように、日本の読者が本書を読んで十分に楽しんでくれることを願っている」
何とも含蓄ある文ではないか。私は歴史学者でないのは言うまでもないが、ここにいうことが確かであることはよくわかる。つまり、歴史を学究的に記述するということはどちらか一方の視点だけでは足りず、それどころか一読してわかるような(明快な)結論を導出することなどできないのだ。だからこそ、歴史を語る書籍で「4時間でわかる」とか「すぐわかる」とか、こういう表現を用いているものは信用に足らないのはもちろん、それ以上に虚飾に彩られているのではないかとも思うのである。
本書は「国民の歴史」とタイトルに付されているが、よくあるようなナショナリズムを煽るような陳腐なものではない。大変慎重に、しかし大胆な記述の中に著者の含蓄ある知識が鏤められた良書だと思う。できれば原著が読みたいと手にしたが、私には難しかった。そういう意味で本書が邦訳されたことは素直にうれしいし、著者曰く「楽しんでいる」ところである。そんなことを思いつつ、今回はここまで。
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