初代VAIO type ZのWindows 7アップグレードが見捨てられたことを受けて、いよいよSONYを切り捨てるべく、次なるノート(Mobile)PCを物色し始めたところだが、Windows 7のリリースを受け、市場には数多くのメーカからそれこそ百花繚乱状態のように多くのノートPCがリリースされている。しかし、その大半は私の興味対象外である低品質低価格のものばかりで、VAIO type Zに代わるべきものがほとんど見あたらない。もちろん、Lenovo(Thinkpad)やToshiba等もいい機種は出しているが、なかなかそそられる機種がないのもまた事実である。
理由は、Core2シリーズの長い天下がなかなか終わらず、ここしばらくプラットホームの刷新がなされていないことが大きい。しかし、来年初めには大きな流れがやってくる。それはCalpellaプラットホーム。NehalemアーキテクチャがいよいよMobileにおろされてくるわけだが、私はNetBurstの悪夢を忘れていないので、Coreマイクロアーキテクチャの改良型とされるNehalemアーキテクチャだが、なかなか信用できないのだ。
その兆候は、ここ一年程度の流れを追うといくつも表れている。以下に列挙すると、
- Core i7 Mobile Processor(Clarksfield)はリリースされたものの採用例が激少。
- 45nmプロセスの2コア版がキャンセルされた。
- Arrandaleは、最初の32nmプロセス製品である。
- 32nmプロセスの4コア版が存在しない(キャンセルされた?)。
- CPUとグラフィックスコアはMCMで構成される。
- デスクトップ版のClarkdaleに比べモバイル版のArrandaleの情報がほとんど出てこない。
- 3Dグラフィックス性能はG45系と比べて1.5~1.6倍程度の性能向上にとどまる。
- TDPを45W以下に抑えこむため、Turboモードと標準モードのコアクロック差が大きい。
以上の8つを挙げることができる。では、一つ一つについて私が気になる理由を述べていこう。
Core i7 Mobile Processor(Clarksfield)はリリースされたものの採用例が激少9月23日に発表されたんだよね?というほどに静かなリリースとなったCore i7のMobile版。もちろん、採用例がまったくないわけではないが、いかんせん採用例のほとんどが重量級ノートPC(ノートというのも烏滸がましいか)なのでまったく興味の対象外。基本的にデスクトップ向けプロセッサを流用しているので、TDP枠がとても厳しかったと思われる。それが証拠に、最上位機種でも規程クロックは2GHzを超えることすらできず、無理矢理のTurboモードで3GHz前後まで水増ししなくてはならない。Core2系ですら、Mobile向けQuadコア(4コア)は厳しかったので、それを上回らなければならないという条件をクリアするには、Turboモードに頼るしかなかったのだろう。この例一つとっても、NehalemアーキテクチャがCoreマイクロアーキテクチャの進化形とは思えないのである。
45nmプロセスの2コア版がキャンセルされたいいように解釈すれば、32nmプロセスルールの製造工程が順調に進んでいるといえるが、単純な話でないのは明白である。Nehalemアーキテクチャのプロセッサダイは、様々なコア数でレイアウト可能なように設計されており、2コア版も4コア版の片側を使えば、それほど難しくなくできそうな印象である。にもかかわらず、45nmプロセスの2コア版がキャンセルされたのはなぜか。Mobile版に限ってかもしれないが、私はやはり消費電力面で難があったと考える。
デスクトップ版において、Core i7系がCore2系よりも最上位に位置づけることができたのは、コア数及び実行スレッド数が多いことに加え、コアクロックが高いことによる。そもそもハイエンド向けとしてリリースされたので当然と言えば当然だが、これが2コアでかつコアクロックを引き下げるとなれば、Core2系との差はどの程度まで縮まるだろうか。Mobile版においては、一定の消費電力枠内で一定の性能をキープできていなければならない。
つまり、45nmプロセスのまま2コアに減らしてしまうと、性能面でCore2との差を明確に示すことができず、さらに一定の消費電力枠内におさめることによってますます差が縮んでしまう。下手をすれば、Core2系の方が優れているとなる可能性も出てくる。このような理由から消費電力面で有利に働くであろう、プロセスルール縮小版である32nmプロセスのみにしたと考えるのである。
Arrandaleは、最初の32nmプロセス製品である45nmプロセスの派生品を使わず、いきなりの32nmプロセスを投入せざるを得ないのは、45nmプロセスでは消費電力等からCore2系よりも優位に立てないからではないかとしたが、この影響を受け、ハイエンド向けではないところから32nmプロセスという最新プロセスが投入されることになる。このようなケースが過去になかったか記憶をたぐり寄せてみると、180nmプロセス導入の際のCoppermineコア以来のような印象を受ける。
Coppermineコアは第二世代Pentium IIIとして、Intel社の汎用マイクロプロセッサコアとして初めてL2キャッシュメモリをオンダイしたもので(L2キャッシュをオンダイしたということでは、日本発のダイともいえるMendocinoコア(第二世代Celeron)が一般向けとしては最初。MobileプロセッサはDixonコア(第二世代Mobile Pentium II)が最初)、P6マイクロアーキテクチャの完成版として位置づけられていた。Coppermineコアは、XeonからCeleron、サーバからモバイルまですべての用途で利用される予定だったが、180nm(0.18ミクロン)プロセスが躓き、Coppermineコアの供給不足に陥り、AMD社の躍進のきっかけを与えることとなった(その後、Athlonの登場で性能面でも追い抜くことになる)。
Coppermineコアの例は極端なものかもしれないが、新しい製造プロセスに移行するにはアクシデントがつきものであるし、順調に推移した45nmプロセスでさえ、前プロセスからの完全な移行には1年から1年半を要している。その上、Arrandaleとデスクトップ向けのClarkdaleは基本的に同じプロセッサコアであり、しかもClarkdaleはデスクトップ向けとしてはハイエンドの位置づけではなく、メインストリーム向け(4コアではなく2コア。しかもグラフィックス統合)なので、いくらノートPC比率が向上しているとはいえ、間違いなくClarkdaleの方が需要が高いだろう。また、ArrandaleはMobile向けであり、おそらくClarkdaleの選別品であろうから、どれだけArrandaleに投入されるか疑問符がつく。Mobile Pentium 4-M時代のように、選別品をわざわざ低電圧で動作させ低いコアクロックで売るよりも、デスクトップ向けプロセッサとすれば通常電圧で高いコアクロックとして売ることができるのだから、ArrandaleにするくらいならClarkdaleとして売るだろう。いずれにしても、最新プロセスに対する不安というのは払拭しにくいものである。
32nmプロセスの4コア版が存在しない(キャンセルされた?)不思議なのは、45nmプロセスNehalemで存在する4コア版が、32nmプロセスでは存在しないことである。伝統的にプロセス微細化にあたっては、前プロセスで製造したプロセッサダイをシュリンクして適用するのがオーソドックスかつリスクが少ないはずだが、今回は例外なのだろうか。初代Core i7(Bloomfield)も二代目Core i7(Lynnfield、Clarksfield)も45nmプロセスのものは4コア版が基本構成となっているのに、32nmプロセスでは2コアのものか、4コアを超える6コアのものしかない。
45nmプロセスで2コアがキャンセルされた理由と、32nmプロセスで4コアが存在しない理由は、それぞれ関連があるのだろうか。それともこれといった関連はないのだろうか。単に2011年にSandy Bridgeが予定されているため、あとたったの一年程度でNehalemファミリーは引退するという判断から、既にある4コア以外の2コアと6コアを32nmプロセスで補完するというだけなのだろうか。様々な推測はできるが、本当のところはわからない。私の想像では、32nmプロセスを前倒しせざるを得ない状況(45nmプロセスの2コア版がいまいちだった)に追い込まれたため、あえて4コア版は45nmプロセス版を使うと言うだけのような気がする。
と、長くなってきたので、残りは次回に。
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