思いのほか好評だったようなので、前回の続き…というか関連した話題を続けていくことにしよう。
私が年金情報のいい加減さに気付いたのは、前回のはじめにもふれたとおり、介護保険制度の始まりに伴う、年金情報と住民記録情報のマッチング(突合)作業の過程にあるとした。突合率の低さ(60パーセント台。見方を変えればそれ未満)は目に余るものがあり、インデックスがあてにならないデータベースは、いくら内容が正しくても役に立つものではない。
一方、内容が正しくない、という事例も漏れ伝わってきている限りにおいてだが、何年か分をまとめて納付した記録が失われているという話が多いように思う(ことはそれだけ重大なので、少ない事例が膨張している可能性は否定できないが…)。未納部分をさかのぼって納付することで、不足分を補い年金給付が可能となるようにという、年金被保険者の当然の気持ちの発露として行われる行為が無になっているとしたら、事は重大である。
このことは、介護保険制度が構築されていく過程で、給付制限という、介護保険料が未納となった期間に応じて、介護保険給付の一部あるいは全部を制限する方式(要は支給せず、全額自己負担とすること)が出てきたとき、システム上、どのようにしてこれを実装していくかという議論の中で、いかにこれが困難な問題であるかを実感した。
どういうことかというと、一番の問題は納付記録を永年管理できなければ、法令にいう給付制限は実現できないからである。言葉でいえば単純だが、このデータベースを管理するだけでも大変な労力を要する。また、これに異動が伴うと、全国一律のデータベースがない限りは、本当の意味での給付制限を達成することができない。つまり、現時点における給付制限とは、どんなに介護保険料の未納を続けた場合でも、地方自治体間の異動(例えば東京都港区から神奈川県横浜市に転出する等)を伴えば、リセットされるようなもので、新たな地方自治体の介護保険サービスを受ける際、給付制限は一切かからない、というかかけることができない。
地方自治体間でデータのやり取りをすれば済む問題ではあるのだが、異なるシステムであること、未納の管理は金融機関等との収納タイミングの遅延等もあり、実装及び実現には多くの困難を伴う。よって、現在では要介護度等、一部の情報のみを紙でやりとりする程度にとどまっており、介護保険者(地方自治体あるいはその広域連合)が変われば、事実上資格情報を始め、すべての被保険者情報はリセットされるようなものとなっている。
年金情報は、社会保険事務所をたばねる社会保険庁が一元管理しているが、一元管理する以前は、介護保険制度と同様、納付記録は個々の年金番号で管理され、異なる社会保険事務所間でのやりとりは、年金手帳の情報が引き継がれない限り、まったく別個のものとして存在していた。オンライン化する・しないの問題以前に、データの継承が行なわれるきっかけがなければ、どんなに優れたシステムがあろうとどうにもならない。
このため、基礎年金番号が導入されたわけだが、これについても、もともとある個別の年金番号を突合できなければ無意味である。最初にふれたとおり、インデックス情報といえるであろうカナ氏名等があてにならないのでは、突合したくてもやりようがない。膨大なアンマッチ情報から、どれとどれが関係した情報であるかを見つけ出すのは、一度釣った魚をマーキングも何もせずに海に放し、再度釣った魚と同じであるかを判定するようなものである。
納付記録が完全でない理由も、たどっていけば資格情報の曖昧さに直結することがわかるだろう。実際、膨大な納付記録の管理は困難である。それに加え、インデックスとなるべき資格情報があてにできないのでは、困難を通り越して不可能だとわかるはずだ。結局のところ、頼るのは本人の記憶となるが、実はこれにも落とし穴がある。それは、厚生年金未加入問題を取り上げてみればわかるだろう。
と、長くなったのでここで小休止。次回に続くとします。
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