前回の続きです。
だが、ニュースリリースでは「SED搭載テレビの発売は、計画どおり本年第4四半期に日本国内において開始する予定ですが、SEDパネルの本格量産については、キヤノンが計画を見直すこととなります」と、形だけの販売には固執するものの、肝心の量産体制については、その本丸のはずの姫路工場の扱いも含めてまったくふれられておらず、単に『見直すこととなります』とだけで具体的年次も定かでない。これは、これまで東芝が散々空手形を出してきたため、これ以上、狼少年状態にしたくないという姿勢と受け取ることができるが、形を出せないというマイナス効果でしかないだろう。
そして、ニュースリリースではこう断言する。「今回の合意によってキヤノンと東芝の関係は大きく変わります」と。無論、本当に大きく変わるわけではなく、先にふれたNano-Proprietary社との特許紛争を意識しており、キヤノンだけのライセンス契約で問題はないという主張である。間違っても、東芝がSEDに三行半を突きつけたわけではないだろう。それは、それに続くプレスリリースの「今後、両社はそれぞれ“SED”の高画質を活かしたテレビ事業の円滑な立ち上げに努めていきます」という社交辞令的な表現ではあるが、これが本音であろう。
よって、株主構成はキヤノン単独となるが、SED社の構成社員は、ニュースリリースの最後を飾る「なお、SED株式会社の現社長である福間和則は、出身元である東芝からキヤノンに移籍の上、引き続き社長を務めます。 また、東芝から出向している技術者については、キヤノンによるSEDパネルの単独事業化に向けての引継ぎ期間中は新たに締結する契約に基づいて出向を継続させる予定です」とあるように、基本的に何ら変更はない。つまり、あくまでこの方策は、特許紛争回避のためだけのものとなるわけである。
以上、ほとんどプレスリリース(ニュース)を引用する形でお送りしてきたが、これを最初に目にしたときは、「すわ、東芝撤退か!」と思ったが、よくよく状況分析をすれば、単に特許紛争回避のためだけの方策であることがわかった。そんなわけで昨年末以来のSED危機説は、少なくとも報道内容のレベルにおいては杞憂に過ぎないことが確認できた。しかし、問題の本質はそこにはない。SEDの量産体制確立は、相変わらず不透明のままであるし、液晶テレビ及びプラズマテレビに価格面で太刀打ちできるのかという問題もある。昔のノートPCにおけるSTN(またはDSTN)液晶とTFT液晶くらいの差があれば、十分に高価格でもSEDテレビに移行するとは思うが、今のままでもそこまで違いがわかるユーザがどれほどいるかは疑問であるし、さらに量産が進む来年以降ではどうなっているのかという心配は、むしろ大きくなっていると思える。それだけ、液晶もプラズマも画質については明らかに向上しているからだ。
SEDテレビを占うには、来年の北京オリンピック前しかない。これを逃せば、もう後はないのではないか。そんな感じにさえ思えてしまう。
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