道案内に欠かせないものはシンボルである。そのシンボルは特徴的な建物であったり、著名な店だったり、あるいは駅やバス停などであったり、様々なものがある。そういった中、重要なものの一つが「交差点名」(交叉点名と表記するのが正しいが、通用される交差点名で今回は話を進める)であるのは疑いないところであるだろう。高速道路における出入り口も含め、分岐点というのは道案内上、重要なポイントであり、そこでの選択を誤れば結果は悲惨なものとなる。なので、的確なネーミングが求められるとなるだろう。
さて、ここで次の写真をご覧いただこう。
「洗足橋」(SEN ZOKU BASHI)とある交差点名(名称標識)が掲げられているが、この場所は東京都目黒区洗足二丁目、東急目黒線洗足駅前の交差点である。今夏、来訪したときにはこのようなものは掲出されていなかったが、先日、新たに設置されていることに気付いたので、おそらく今年(2013年)秋頃に掲出されたと思われる(ご教示いただいた情報によれば、2013年12月に設置されたとのこと)。なお、ゼンリンの電子地図で示せば、以下のとおりだ。
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まさに洗足駅前といっていい場所なのだが、なぜか「洗足橋」。古くからの方なら言わずもがなだが、洗足橋は東急目黒線を跨ぐ陸橋であるものの、橋としての形態は外見上からは大変わかりにくい。ここが橋(陸橋)であることは一見さんはもとより、ある程度慣れた方であってもわからないだろう。よって、これが交差点名に採用されること自体、首を傾げるというわけである。
交差点名は、通常、公安委員会、警察、道路管理者の協議によって定められるが、この交差点においては東京都公安委員会、碑文谷警察署、目黒区(当該場所は区道であるので道路管理者は目黒区となる)が該当し、推測だがこの三者によって定められたと思われる。
この三者にとって、相応しいと考えたのが「洗足橋」となるのだろう。交差点名として「橋」名が採用されるのは珍しくない。近くを通る環七通りの交差点名を見れば(ただし、大田区から世田谷区までに限る)、
- 春日橋(東京都大田区)
- 松原橋(東京都大田区)
- 柿ノ木坂陸橋(東京都目黒区)
- 駒沢陸橋(東京都世田谷区)
- 駒留陸橋(東京都世田谷区)
- 若林陸橋(東京都世田谷区)
- 宮前橋(東京都世田谷区)
といったように、かなり多いことが確認できる。なので、ありがちなネーミングであるが、興味深いのは河川を渡る橋としてのものは「宮前橋」ただ一つで、残るすべては鉄道または道路を跨ぐ陸橋である。まぁこれは環七通りの多くが尾根道をベースにしたものなので、河川を越える場所が少ないということ。そして、幹線道路は立体交叉が求められることもあって、どうしても交差点が陸橋となるというのも大きい。
(例えば、大田区等を流れる呑川に架かる橋を交差点名としたものは、呑川新橋、夫婦橋、あやめ橋、堤方橋がある。)
とはいえ、ここを「洗足橋」とするのはかなり苦しい。洗足橋が架橋されたのは、東急目蒲線(現 目黒線)洗足駅付近地下化工事に伴い、1960年代に最初の橋が架橋され、20世紀末に現在の橋に造り替えられたが、駅前広場ができる以前は「橋」としての存在感はあった。しかし、駅前広場が駅ホームの拡張に伴って作られてからは、橋としての存在感は失われた。橋の欄干が残っているので、注意深く見れば「橋」であることはわかるにしても、「洗足橋」とするよりは「洗足駅前」とした方がいいのではないかと思うのだ。
だが、交差点名が道案内のためのものであって、それが最初に訪れる方をメインとするのであれば「洗足駅前」とするのはいかがなものか、とするのはわかる。当blog記事「洗足か千束なのか 前編(シリーズ「池上電気鉄道 VS 目黒蒲田電鉄」)」をはじめとして数多とりあげているように、洗足駅前というのは相当に混同するネーミングなのである。上掲記事から一部引用すると、
桜の花見の季節になると、東急目黒線洗足駅には恒例の注意書きが表れるようになるという。それは「当駅は洗足池駅ではありません」(笑)という、わかったようなわからないような説明板で、要は桜の名所でもある洗足池畔(洗足池公園ほか)は洗足駅からはやや離れた場所にあり、東急池上線の洗足池駅が実際の最寄り駅なのだが、よくご存じでない方(そして早とちりな方など)は洗足駅で降りてしまうのだというのだ。地元の方には唖然とするような話らしいが、毎年出ていると言うことなのでそういうものなのだろう。私も実際、今春に洗足田園都市調査のため、洗足駅近辺を散策していたら、乗用車の運転席から「洗足池にはどちらの道を行ったらいいですか?」と声をかけられたが、この方はカーナビを頼りに「洗足」をキィワードとして目黒区洗足に来てしまったらしい。私が運転手に対して、洗足池は目黒区洗足ではなく大田区南千束にあり、そこの環七通りまで出たら中原街道との交差点を丸子橋方面に方面に進みながら坂を下りきった辺りで右手に見えてくると伝えたものの、「千葉」ナンバーの方には難しかったようでしばらく悩んでいた。
──というような事例から、「洗足駅前」としてしまうと「洗足池前」あるいは「洗足池駅前」と混同する危険性が高まる。なので、「洗足橋」としたとなれば、それはそれで得心できるとなるだろう。
なかなか難しい問題ではあるが、地元の方の「想い」とたまたま訪れる人とのギャップは計り知れないものがある。その差を埋めるのが「案内板」の役割とするなら、地元の想いはある程度犠牲にせざるを得ないと考えるか、それとも地元の想いを一般人に定着するよう努力を傾けると考えるか。ケースバイケースだとは思いながら、今回はここまで。
交通信号の名称は中立的な町名などが多いようですが、ガイドラインがあるのかもしれません。しかし洗足橋には些か違和感を禁じ得ません。近所には平塚橋がありますが、私事で恐縮ですが、品川用水の光景が目に浮かびます。ここは目黒区ですが、大田区にある環七との交差点に洗足駅入り口のバス停がありますので、公安委員の方々も悩まれたのでしょうが、では代案があるかといえば思いつかないのが正直なところです。
投稿情報: 木造院電車両マニア | 2013/12/22 22:40
実家に行くのに、「洗足駅」を使うので、しょっちゅう使っているのですが、看板がついたのは12月でしたか。新しいな、とは思ったんですが。
ここは「洗足五差路」がいいんじゃないですかねぇ。
投稿情報: りっこ | 2013/12/24 13:52
りっこ様
奥沢駅南側と同様に「洗足五差路」の方が洗足田園都市の放射線道路の名残として適当ではなかったかと思います。しかし公安委員のメンバーーも代替わりして思い入れも少なくなって洗足田園都市はサステイナビリティーを失っているのではないでしょうか、
投稿情報: 木造院電車両マニア | 2013/12/28 09:01