現地時間13日、ヴァチカンにて開催されていたコンクラーベの第2回投票で、第266代法王が選出された。我が国の各メディアは速報でこれを伝えたが、いわゆるカナ表記で各社のゆらぎが見られるようである。以下に主なものを抜粋すると、
朝日新聞デジタル
「新法王はアルゼンチン人 「フランシスコ1世」名乗る」
ローマ法王庁(バチカン)は13日午後7時(日本時間14日午前3時)すぎ、ベネディクト16世の退位に伴う法王選出会議「コンクラーベ」で、アルゼンチン人でブエノスアイレス大司教のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(76)を、266代目の新法王に選出した。「フランシスコ1世」を名乗る、初の米州大陸出身の法王となる。(以下略)
YOMIURI ONLINE
「新法王にアルゼンチン出身のベルゴリオ枢機卿」
ベネディクト16世の退位に伴う新法王選出会議「コンクラーベ」は2日目の13日夕(日本時間14日未明)、4~5回目の投票を行い、アルゼンチン出身でブエノスアイレス大司教のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(76)を、第266代法王に選出した。「フランチェスコ1世」を名乗る。(以下略)
日本経済新聞
「新ローマ法王にベルゴリオ氏 初の中南米出身 」
ローマ法王庁(バチカン)は13日の法王選挙会(コンクラーベ)で、新ローマ法王にアルゼンチン人でブエノスアイレス大司教のホルヘ・ベルゴリオ枢機卿(76)を選出した。中南米出身者が法王に就くのは初めて。欧州以外からの法王が選ばれたことは、カトリック教会の変化を世界に示すことになりそうだ。法王名は「フランチェスコ1世」。(以下略)
NHKニュース
「新法王はフランチェスコ1世」
新しいローマ法王を選ぶ選挙、コンクラーベでは、日本時間14日午前3時過ぎに法王が選出されたことを示す白い煙が上がり、アルゼンチン出身のホルヘ・ベルゴリオ枢機卿が第266代のローマ法王に選ばれ、フランチェスコ1世と名乗ることになりました。(以下略)
朝日新聞デジタルだけが「フランシスコ」表記で、ほかはすべて「フランチェスコ」となっている。他メディアは見ていないのでわからないが、大きくこの二つに表記がわかれているようである。で、原典というべきヴァチカン公式サイトの新法王紹介ページでは、「FRANCISCUS」とある。基本、ヴァチカンはラテン語なので表記は「FRANCISCUS」でいいのだが、問題はこれが各言語ではまず異なる。英語では「Francis」(フランシス)、仏語では「François」(フランソワ)、独語では「Franz」(フランツ)、イタリア語では「Francesco」(フランチェスコ)、スペイン語では「Francisco」(フランシスコ)と表記し、ラテン語表記とは異なる。今回、各ニュースが伝えているのは、フランシスコがスペイン語表記で、フランチェスコはイタリア語表記のカナ読みだとわかるが、ヴァチカンがローマ市に囲まれている(=イタリア語圏)ことを考えれば、主流がこうなるのも自明というものだろう。ただし、歴史書などではラテン語読みがカナ表記されることが多いので、フランチェスコとはならない可能性も高い。なお、「FRANCISCUS」であって「FRANCISCUS I」でないのは、わざわざ1世だと名乗らずともこの名前は一人しかいないため区別する必要がないからである。
といったところで、今回はここまで。
2013年3月15日追記
今朝(15日)のNHKニュースでは「フランシスコ」と表記されていた。我が国に馴染みの深いフランシスコ・ザビエルを慮れば(そして新法王がスペイン語圏であることも)、フランシスコに流れていくと思いつつ、追記はここまで。
2013年3月20日追記
多くのマスコミでは、単に「フランシスコ法王」と表記・呼称されることが多くなってきたようだ。まだまだ「フランシスコ1世」という表記も見られるが、このまま行けば「フランシスコ法王」で決まりのような…。
2013年3月25日追記
今朝(25日)付の朝日新聞によれば、今後は「フランシスコ」と表記すると紙面に掲載した。
「1世」使うのはどんな時? という標題で、「朝日新聞はこれまで「フランシスコ1世」と表記してきましたが、「1世」を外します。」とある。他新聞等は確認していないが、テレビ報道とかはおおむね「フランシスコ」と聞こえているので、揺らいだ表記も落ち着いたか…。
FRANCISCUS
本件からはいささか逸脱した話題かもしれませんが、ドイツ人はフランスをFRANK REICH と呼ぶようですが、ゲルマン諸族の中のフランク族が立てた國と言う意味だそうです。新しい皇帝を次から次へと暗殺する魑魅魍魎の輩が跳梁跋扈した帝政末期のローマ人からみれば、率直なゲルマン人が文字通りフランクな人間と写ったのではないかと何かの歴史書で読んだ記憶がありますが、真偽の程は兎に角今日の情勢を見ると一理あるような気がします。
投稿情報: 木造院電車両マニア | 2013/03/14 11:18
バチカンの公用語はラテン語です。法王名の日本語表記は、ラテン語の奪格を用いるのが原則とのことです。ベネディクト16世もラテン語主格 Benedictus の奪格 Benedicto を基にしています。(出身地であるドイツ語の Benedikt を基にしたのではない)。以下のページでは、ヨハネ・パウロ2世の表記はラテン語でもイタリア語でも出身地のポーランド語でもない、と書かれていますが、ラテン語 (Ioannes Paulus) の奪格 (Ioanne Paulo) であれば、ぴったり一致.... かと思いきや、ちょっとだけ違いますねぇ。ヨハネではなくヨアネまたはヨアンネになってしまいます。慣用も影響しているようですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ノート:フランチェスコ1世_(ローマ教皇)#.E6.97.A5.E6.9C.AC.E8.AA.9E.E8.A1.A8.E8.A8.98
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q113701236
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q137098638
ラテン語の名詞は固有名詞も含めて格変化をします。Franciscus は主格(〜が、の形)です。奪格だと Francisco となります。読み方は、教会ラテン語でフランチスコですが(古典ラテン語ではフランキスコですが、教会ラテン語は後の時代の俗ラテン語をもとにしていてイタリア語に近い発音が定められています)、日本ではなじみのない呼び方になります。日本のカトリック教会では聖人名をフランシスコと呼び習わしてきたようですから、この慣用に従って法王名もフランシスコとしたようです。出身地アルゼンチンのスペイン語での発音と(ある意味偶然に)同じですが、それを基にしたわけではないようです。
さて、Asahi.com も、記事初出時にはフランチェスコと表記していました。以下のページでわざわざ「日本のカトリック中央協議会は、新しく選出された266代法王の日本語表記を「フランシスコ1世」とすることに決めた。」と書かれているのはその名残です。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201303140003.html
それから、3月14日の時点では、カトリック中央協議会が「教皇フランシスコ1世」としていましたが、今日15日になって、「教皇フランシスコ」に変更されています。法王庁大使館から通達があったようです。ラテン語でも、欧米言語でも、助数詞を使った表現は正しくないとされていますから、日本語もそれに合わせることにしたのでしょう。これから日本のメディアも「1世」を抜いた表現になることが考えられます。ただ、「〜世」というのが一種の敬称のように響く日本語では、それがつかないとちょっと落ち着かない印象はありますね。「教皇フランシスコ」または「ローマ法王フランシスコ」だと、最後が呼び捨てのように感じられます。いっそ、順番を変えて「フランシスコ法王」としてしまうのも解決策の一つかとは思いますが、信者でもない私が決めることではありません。
それから、Frankreich(1単語)ですが、フランク族のことをフランス語では les Francs(最後の s は複数形)と言うので、Frank(独) = Franc(仏)です。西フランク王国がフランス (France) 王国へとつながって行くわけですから、語源的にも同じものだと推察します。脱線しますが、邪馬台国も大和朝廷につながる名称なのだろう(ヤマタイ→ヤマト)と個人的には推察していますが、確証はありません。
投稿情報: macarth | 2013/03/15 16:08
日本人にとってはサンフランシスコ条約というようにスペイン風のフランシスコのほうが馴染み易いのも事実ですので日本の教会でもそのように決定したのでしょう。ラテン語自身時代や属州により異なっており、フランスでさえ最近は喋る人が激減しているとはいえロマンス語の生き残りが存在しているようです。私自身ドイツ語はよく知りませんがストラスブルルグで喋られているドイツ語はアレマン語だそうで、ドイツ語圏のスイス人でさえ北部ドイツ人のドイツ語は全く分からないと言っていました。
投稿情報: 木造院電車両マニア | 2013/03/15 21:44
コメントありがとうございます。原語のカナ表記というのは、なかなかに決めがたい問題ではありますが、本件のような将来著名な一般(固有)名詞足りうるものでも、最初のうちは「ゆらぎ」が見えますね。こういう些細なものでも、関心をお持ちいただく方があるというのはうれしいものです。
投稿情報: XWIN II | 2013/03/16 18:52