発売されたのは確か先々月だったかと思う。これだけの労作を読まないわけにはいかないだろうとは思いつつも、積んである本を眺めるたびにこれらを読了した後でなければ買うわけにはいかないとも考えた。およそ2か月ほど逡巡したが、ついに購入に踏み切った。それが、大著「哲学原論 自然法および国家法の原理」(著:Thomas Hobbes。訳:伊藤宏之・渡部秀和。柏書房)である。
Hobbesといえば、一般的には「リヴァイアサン」がよく知られるが、これ自体、なかなか読み進めるには難物であるが、リヴァイアサンの思想、言い換えればHobbesの思想を知るには訳者曰く、
ホッブズといえば『リヴァイアサン』、これが通説となって久しいが、ホッブズ思想の全体像を知るためには彼の哲学的主著にあたらなくてはならない。ホッブズは『哲学原論』において、社会契約という近代政治思想の基本概念のベースとなる、物体論・人間論を展開した。社会科学・法哲学などを学ぶ人々にとっては、学問の基礎となった哲学的概念を知る上では欠かすことのできない古典文献だといえる。
という。また、本書の帯にも、
トマス・ホッブスの三部作、第1巻「物体論」第2巻「人間論」第3巻「市民論」を『哲学原論』Elements of Philosophyとしてまとめた本邦初翻訳本(市民論のみを除く)
社会契約論の重要性が見直される中、その現代的意義を際確認する
とあり、書店で見かけた際にこの帯に惹かれたということも告白しておこう。もちろん、興味を惹くものでなければ帯にどんなことが書かれていようが無関係ではある。で、帯にあるようにこの大著はHobbesの三部作を1冊にまとめ、さらに「自然法及び国家法の原理」を追加。さらにさらに資料として、書簡や諸著作比較表などもあり、まさにHobbes哲学事典と言ってもいいほどの内容である。
本書は広辞苑よりも厚く全1,708ページに及び、これだけ厚く思い本は読みにくいという意見もあるだろう。だが、私は1冊であることに意義があると考える。通読するのもありだろうが、先にもふれたようにこれはHobbesの哲学思想をあらわした辞典であり、分冊すればその価値は損なわれると考える。読みやすさよりも1冊であることの意義を尊重した各位に敬意を表しつつ、本書の目次(ただし、分量が多いので適宜省略した)を以下に示し、今回はここまで。
訳者序文
凡例
哲学原論第一巻 物体論
第一部 計算もしくは論理
第二部 哲学の第一基礎
第三部 運動と大きさの比について
第四部 自然学、もしくは自然の現象
哲学原論第二巻 人間論
第一章 人間の起源の生成
第二章 視覚線と運動の知覚について
第三章 対象の見かけ上の位置について、つまり、直接視覚を通した心象の位置はどうして多数現れるのか、すなわち、どこにも本来ないものがどうして反射も屈折もなしに現れるのかについて
第四章 遠近法において対象を表すことについて
第五章 平面鏡と凸面鏡からの反射による対象の見かけ上の位置について
第六章 凹面鏡からの反射を通した対象の見かけ上の位置について
第七章 単一の屈折を通した対象についての視覚の見かけ上の位置について
第八章 二重屈折後の視覚について、もしくは凸面鏡、もしくは凹面鏡などの、通常の光線屈折物について
第九章 二重屈折光学、もしくは望遠鏡と顕微鏡について
第一〇章 話すことと科学について
第一一章 欲望と嫌悪、快と不快、そしてそれらの諸原因について
第一二章 感情もしくは心の混乱について
第一三章 気質と態度について
第一四章 宗教について
第一五章 擬制的な人間について
哲学原論第三巻 市民論
自由
第一章 政治的社会のない人間の状態について
第二章 契約に関する自然法について
第三章 その他の自然法について
第四章 自然法は神の法である
統治
第五章 国家の原因と生成について
第六章 国家において主権的権力summma potestateを持つ、議会もしくはただ一人の人間の権利について
第七章 民主政、貴族政、君主政という三種類の国家について
第八章 奴隷に関する主人の権利について
第九章 子ども達に対する両親の権利について、そして世襲的な王国について
第一〇章 各々の不便さによる三種類の国家の比較
第一一章 前述の事柄を補足する統治の権利についての聖書における箇所と例文
第一二章 国家を解体に向かわせる国内的な原因について
第一三章 主権を執行する者達の義務について
第一四章 法と罰について
宗教
第一五章 自然による神の王国について
第一六章 旧約聖書による神の王国について
第一七章 新約聖書による神の王国について
第一八章 天の王国へ入るために必要な物事について
自然法および国家法の原理
第一巻 人間本性論
第二巻 政治体論
資料Ⅰ 書簡
資料Ⅱ 諸著作比較表
資料Ⅲ トマス・ホッブズ略年譜
訳者注解
訳者解説
哲学原論/自然法および国家法の原理 全目次
参考文献
人名索引
事項索引
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