私は学生時代、高エネルギー物理学(いわゆる素粒子物理学)を専攻したが、コンピュータの世界同様、日進月歩、というか秒針分歩の世界であるので、いつの間にやら知らない世界になってしまうことも珍しくない。そこで、その手の書籍を定期的に読んでみたりもするが、両極端(専門的すぎるか、初学生向け)なものがほとんどで、どちらをも満たしてくれるような書籍にはなかなか出会うことができない。だが、そういう仕事がいかに難しいものであるかは自分自身、そういうものを書こうとすればたちまち自ら気づくことになる。無理だ…と。しかし、世の中にはそういうことができる人もいる。そう感じたのは、「素数からゼータへ,そしてカオスへ」(著者 小山信也、出版 日本評論社)を読み始めたことで、である。
本書は、まえがきにもあるように「リーマン予想のこれまでとこれから」という共著の反省点に立って著されたというだけあって、なかなかに読みやすさに考慮が行き届いているが、それ以上にわずか(というべきかは微妙だが)200ページ程度で、小学生レベルから大学専門課程レベルまで一気に貫いている点にある。これはなかなか、数学という学問においては簡単であるようで困難な仕事であり、著者に脱帽だ。
というわけで、本書の目次は以下の通り。
まえがき
第1部 素数はどれだけたくさんあるか
第1章 素数が無数にたくさんあること
第2章 大きな無限大と小さな無限大
第2部 ゼータ入門
第3章 そしてゼータへ
第4章 ディリクレのL関数
第5章 ラマヌジャンのL関数
第6章 ラマヌジャン予想
第7章 関数等式とゼータの正規化
第8章 マース波動形式
第9章 高校生のための素数定理
第10章 リンデレーフ予想と近似関数等式
第11章 セルバーグ・ゼータ関数
第3部 数論的量子カオス
第12章 保型形式の存在理論
第13章 数論的量子カオスの概要
第14章 量子エルゴード性
第15章 ランダム行列理論
あとがき
第1部、第2部、第3部と進むにあたり、高校レベルの数学知識ではついて行けないとなるのは仕方がない。だが、数学に興味を持つ方であれば、読み進むことは可能だろう。ただ、わかった気になっただけでは済まないのが数学であり、そこから先はまさに読者の力量で測るしかなくなる。そんなことを思いつつ、今回はここまで。
確かに、最初の読みやすさはまさに郡を抜いていますね。知らず知らずに吸い込まれ、
読み進みました。そして、難解なことも現れ始めました。私は、ラマヌジャンを好きなので、どうしても2次のゼータ関数が出てくると興奮してしまうのですが、とてもいい本です
投稿情報: 三井孝美 | 2012/08/30 19:37
コメントありがとうございます。
私はこれに続いて読んでいる本が著名な「Riemann's Zeta Function」の邦訳版「明解 ゼータ関数とリーマン予想」(H.M. Edwards 著、鈴木治郎 訳)です。レベルの高い本ですが、丁寧に書かれているため、私的には読みやすいです。ラマヌジャンも当然ながら丁寧に書かれていますよ。
投稿情報: XWIN II | 2012/09/02 08:29