前編、中編を継ぐ後編。
MobileにおけるNehalemアーキテクチャを信用できない理由として8つの項目を挙げ、そのうち6つまでを説明した。まずは、残り2つについて述べていこう。
3Dグラフィックス性能はG45系と比べて1.5~1.6倍程度の性能向上にとどまる
Intel社のグラフィックスの歴史は、Chips and Technologies社を吸収したことから始まったが、時代が3Dをより指向するより以前だったこと。加えて、Chips and Technologies社が得意とするところが、Mobile向けのグラフィックスチップだったこともあって、ぱっとしない状況が続いている。無論、チップセット内蔵としては健闘している方だとは言えるが(使用しているトランジスタ数等から見ても)、リッチで高解像度のグラフィックスを取り扱うには厳しいものがある。その理由で大きなものは、メモリ帯域幅の広いグラフィックス専用メモリを持たないことだが、ArrandaleになってMCM方式とはいえ、これまでのGMCH(Graphics Memory Controller Hub)と比べれば、圧倒的にメモリアクセス速度が向上しているので、同じグラフィックスコアだったとしてもパフォーマンスは向上していると考えられる。
さらにG45系と比べて、3D性能等もハードウェアレベルで向上させており、今までが今までだったので手放しで喜べないが、メモリアクセス速度も相まって相当パフォーマンスアップが期待される。だが、予想外にパフォーマンスは伸びていない。Arrandaleではないが、事実上同等コアのClarkdaleのグラフィックス性能は、2Dでは目を見張るほど伸びず、3Dでも1.5~1.6倍程度の伸びを示すにとどまっている。
無論、数字だけを見れば、1.5~1.6倍というのは大きな伸びと言えなくもない。しかし、メモリアクセス速度の向上(CPU、グラフィックス、メモリサブシステムの距離がこれだけ近づいたことはこれまでになかった)やグラフィックスコアにかけたトランジスタ数を考慮に入れれば、どうしてこの程度にとどまってしまうのかという疑問も出る。その疑問を払拭できない不安定要素は、グラフィックスドライバの開発能力にある。いかに優れたハードウェアを作っても、それを活かすソフトウェア(デバイスドライバ)がなければ意味がない。これまでもIntel社は、グラフィックスドライバの開発に手こずっており、今回もDirectX11に関しては事実上ペンディング状態。デスクトップ向けのClarkdaleでこれであれば、それよりも消費電力面でパフォーマンスを落とさざるを得ないArrandaleでは、なおのこと厳しいだろう。いくら、グラフィックスもTurboモードを持つといったところで、それを発揮できるだけの熱処理性能を伴わなければ絵に描いた餅でしかない。
幸いなことはグラフィックスは切り離し可能で、外付けGPUもサポートできることだが、そうなると何のためのグラフィックス統合かとなる。何となく、であるが、デバイスドライバが安定した頃にプロセッサの世代交代が完了して出番がなくなっている、ような気がする。
TDPを45W以下に抑えこむため、Turboモードと標準モードのコアクロック差が大きい
これまで7つの信用できない要素を挙げてきたが、最後の8番目はTurboモードと標準モード(規程)とのコアクロックの差が大きいことである。さすがに最高クロックのみを表記するようなインチキを行ってはいないが、TDP枠の厳しいMobileプロセッサにおいては、どのような時に最高クロックに到達できるのだろうか。DOSのようにシングルコアしかサポートしていないのであれば、常にスレッドも1本(そもそもシングルタスクにスレッドもないが)だけなので、こういう時には最高クロックに達するのかもしれない。しかし、WindowsをOSとしているならば、いくらアプリケーションソフトウェアがシングルスレッドのみでCPU時間を占有しようとしても、マルチコアそしてマルチスレッドをサポートしている限り、必ず2つのコアを使用する。設定でCPUコアの割り当てを一つのコアに強制的に行っても、OSがDOSのようなものでない限りは、絶対に1つのコアだけに処理を集中することなど不可能である。
また、昔と違ってCPUコアはかなり遊んでいる時間(いわゆるIdle時間)が長くなり、トップスピードで動作する時間はほとんどなく、可能であれば低いコアクロックにすぐに遷移する(SpeedStep系の仕様)。つまり、規程クロックを超える動作よりも規程クロックを下回ることの方が多いのだ。思いっきり解像度の高いビデオのエンコード処理などを長時間行う等、例外はあるが、必要なときだけすぐにトップスピードが出せ、必要がなくなればすぐに低クロックに移行するのが、Mobileプロセッサとして優れたものであり、Turboモードで高クロックを出せるという仕様はMobileプロセッサの仕様としては、私としては疑問符を付ける。おそらく、マーケティング的に低いコアクロックでは商売にならないので、Turboモードを設けたに違いないが、これを規程コアクロックにできないところに難がある。特にTDP枠の制限が厳しいMobileプロセッサであれば…。もう言うまでもないだろう。
以上、8つの項目を挙げ、Nehalemアーキテクチャを持つMobileプロセッサが信用できないということを述べた。来年頭、Arrandaleのリリースと共に各メーカから搭載ノートPC(Mobile PC)がリリースされることだろう。しかし、それは現行のPenrynコアを持つCore2系プロセッサ搭載のものと比べ、どこまでアドヴァンテージを持つのだろうか。
と、今回はここまで。後編で終わることができなかったので、次回は総括編としてこれまで3回にわたってお送りしてきた「次のノート(Mobile)PCを選ぶ条件」を示したい。
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