前回の続きです。
ここでは、16-bit環境から32-bit環境への移行について見ていこう。過去の歴史であるので、見解はともかく事実としては歴然としている。
32-bitマイクロプロセッサは、IA-32の元祖である「80386」(i386、i386DX)が最初のもので、リリースは1985年。何と、24年ほど前のできごとである。未だにIA-32は主流であることに驚かされると同時に、ソフトウェアの寿命というものは想定しているよりも長くなると言うことを思い知らされる(メインフレームの世界はさらに長い)。しかし、IA-32をフルサポートする最初の市販OSは、Windows NTだった。実に80386の登場から、6年の歳月が流れていた。もちろん、Windows NTよりも前にIA-32をサポートしているものはあった。例えば、Windows/386(VMM=仮想マシンマネージャと仮想86モードによるDOS互換ボックス等が利用)であるとか、仮想EMS等を実現するためのDOSに付属していたEMM386ドライバ、DOSエクステンダ等々、いわゆる32-bitモードを利用するソフトウェア群である。しかし、基本的な部分をすべて32-bit環境に対応させたのは、Windows NTが最初である。
だが、ご存じのようにWindows NT 3.1(バージョンは3.1からスタート。当時、Windows 3.1との互換性をアピールするため、バージョンナンバが異例の3.1から始まっている)は、ハードウェアリソースの過大な要求やパフォーマンスの悪さから、ほとんど普及することなく、32-bit対応のアプリケーションソフトウェアが出揃い始めたと言えるのは、Windows 95(1995年リリース)以降のことで、80386のデビューから約10年が経過、Windows NT 3.1のリリースからは約4年が経過していた。しかも、Windows 95(後継バージョンのWindows Meまで同様)は32-bit環境をうたいつつ、実際は32-bitの皮を被った16-bit/32-bitハイブリッドOSであった。これが真の32-bit OSとなるのは、Windows XPのリリース時であり、2001年のことである。つまり、すべてが32-bit環境に移行したのは、2001年からなのであった(もちろん、しばらくの間はWindows 9x系OSが現役であろうから、2001年以降と言うべきかもしれないが)。80386のリリースからは約16年を必要としたのである。マイクロプロセッサも、80386は遙か昔の存在で、80386 → 80486 → i486DX2 → Pentium → MMX Pentium → Pentium II → Pentium III → Pentium 4と世代交代を重ねていた。
では、64-bit版となるx64プロセッサの嚆矢は何だろうか。IA-64ならItaniumとなるが、x64はAMD社が最初である(計画発表は2000年。搭載プロセッサは2003年リリース)。その後、Intel社もほぼ同じ仕様で登場させたが、今年でまだ6年しか経過していない。幸いにして、16-bitから32-bitへの移行よりも、32-bitから64-bitへの移行の方がはるかに簡単(AMD64策定者に感謝)なので、OSのリリースは早かった。しかし、データベースサーバ等、メモリアドレスが枯渇、逼迫していたものはともかく、多くのユーザは32-bit環境で困っておらず、64-bit環境が普及しているとは言い難い。このことは、x64対応アプリケーションソフトウェアが少ないことを裏付けており、アプリケーションソフトウェアの32-bit移行へ大きく貢献したMicrosoft Officeが、未だにx64対応版を出していないことからも伺える。Microsoft社の言い分は、64-bit Windowsの32-bit互換モードでMicrosoft Officeは問題なく動作するということだが、真に64-bit環境への移行を促すのなら、真っ先にx64対応版を出すべきだろう。Windows 95と32-bit版Microsoft Officeは同時リリースだったことを思い起こせば、やる気のなさは伝わってくるというものだ。
(それだけ32-bit環境で困っていないという裏付け。)
このように歴史を振り返ってみると、64-bitへの移行のターニングポイントが最初の対応OSが出てから、4年後あたりにあることがわかる。もちろん、16-bitから32-bitへの移行とまったく同じではないが、当たらずとも遠からずだろう。しかし、ユーザ層の厚さは約15年の間に雲泥の差があることから、すべての層がとなるとさらに時間はかかるに違いない。現に、Windows最初の64-bit対応と言えるのがWindows Server 2003と考えるので、その4年後となると2007年にあたり、もう過去の時代となっている。2007年と言えば、往時のMicrosoft社のプランによれば、64-bit「専用」OSとなるWindows Vistaを出荷するはずだった。タイミングとしては悪くはなかったが、Windows Vista開発のどたばただけでなく、市場が64-bit化を求めていないことから、わざわざWindows Vistaの32-bit版まで用意したにもかかわらず、Windows XPから移行してくれないという現実にぶつかった。XPからVistaへの移行すらままならないのに、32-bit環境から64-bit環境への移行など、夢のまた夢となるだろう。
では、いつ頃が移行期となるのだろう。以前、当Blogでは2011年あたりではないかと予想したこともあったが、UMPCの爆発的普及とWindows 7の32-bit環境重視というスタンスから、さらに遅れるのではないかとも予想する。ただし、ハイビジョン放送を始めとしてPCで扱うデータ量が飛躍的に増加しているのも一方ではあり、これを梃子に64-bit環境の必要性が出てくる可能性は高い。そうなると、やはり2011年というのはターニングポイントとなるのは確かだろう。私としては、Vistaで仕切り直しとなったMicrosoft Officeの64-bit対応版が、移行への大きな布石になるのではと見ている。
三回にわたって「64-bit時代はいつ到来するか」を見てきたが、最後にもう一度、私の64-bit時代の定義を確認しておこう。
64-bit時代とは、PCに搭載されるOS、主要アプリケーションソフトウェア等がすべて64-bit(ここではいわゆるx64)環境をサポートし、32-bit互換環境をほとんど必要としなくなる状態、かつ32-bit環境よりも確実に高速化することをいう。
ハードウェア、ソフトウェア、過去の歴史から見てきたが、64-bit時代を迎えるには、まだまだハードウェアリソースは不足(特にメモリバススピードとメインメモリ容量)しており、ハードウェアをサポートするデバイスドライバもまだまだ、快適な操作環境を実現する64-bit専用アプリケーションソフトウェアはさらにまだまだ、と言えるだろう。32-bit Windowsよりも64-bit Windowsの方がシステムが堅牢だというのは事実だが、だからといってコンピュータウィルスの類に感染しにくいというのは単に64-bit環境が普及していない証左である。普及するには、移行させるにはそれだけのユーザメリットが必要であり、仮にハードウェア環境が64-bit環境に相応しいものになったとしても、ソフトウェアの対応がまだまだなら、32-bitプロセッサを搭載しながら高速なDOSマシンとしていたのと同じことの繰り返しである。
この話は、そもそもVAIO新春モデルにおいて多くが64-bit Windows専用マシンとなったことに端を発していたので、最後の最後にこれについてふれておくと、一言で「勇み足」と結論づけられる。こうせざるを得ない事情は、安価なノートPCと一線を画す必要からだとわかるのだが、多くのユーザに対して一線を自ら画してしまったような印象を受ける。おそらく、それほど遠くない時期に32-bit OSの選択肢が登場(復活)するのではないだろうか、と予想して三回にわたった「64-bit時代はいつ到来するか」を終える。
Macも同様みたいです。Z1/PからiMac に移行して6ヶ月、最近やっとUniversal binaryのファイルには、PPC7400(32bit)、PPC64(32bit)、i386(32bit)、x86_64(64bit)の4種類のコードが入っていて、iMac(intel-mac) では、OS Xのカーネル、driver共に32bitで動作している事を知りました。
投稿情報: josef | 2009/01/18 08:35
josef様、コメントありがとうございます。
Macは、ハードとソフトの両方ともApple社が提供しているので、互換性問題はPCよりも少なくて楽だなんて言われていますが、Universal binary等のような工夫(努力)があって成立しているんですですよね。確かに、PC(Windows)上で実現するよりは云々という理屈はあれど、それを実現できているかどうかと言うのが大事なこと。
しかし、Macの64-bit対応もなかなか進んでいかないようですね。もっとも、680x0、PowerPC、IA-32、x64とマイクロプロセッサアーキテクチャの根幹を変えてきながらも互換性の維持に努められてきたので、今回も優れたものになるとは思っていますが…。
投稿情報: XWIN II | 2009/01/18 13:06