前回の続きです。
ハードウェアの問題はこのくらいにして、続いてソフトウェアの問題について見ていこう。ソフトウェアと言っても、大きく分けて3つのカテゴリに分けることができる。一つめはOS、二つめはデバイスドライバ(ハードウェアを使うためのアプリケーションソフトウェアを含む)、三つめはアプリケーションソフトウェアである。
このうち、一つめのOSについては、64-bit版Windowsはリリースされているので問題はなし。二つめのデバイスドライバ(ハードウェアを使うためのアプリケーションソフトウェアを含む)は、今まで使っていたハードウェアが使えないという致命的欠陥を抱えることから、移行できるかできないかはデバイスドライバ等のリリースにかかっている。大手メーカであれば、システムソフトウェア開発部隊がいるのでいいが(人材によるという条件有)、そうでない場合は厳しい。三つめのアプリケーションソフトウェアについては、32-bit互換モードで動作すればいいとしつつも、64-bit専用アプリケーションソフトウェアとしてだけでなく、確実に32-bitアプリケーションソフトウェアよりも差別化できるだけの要素を必要とする。多くのユーザはアプリケーションソフトウェアを操作するユーザなので、たとえハードウェアやOS等が64-bit環境をサポートできるものであっても、肝心のアプリケーションソフトウェアにそれほど差異がない(32-bit互換モードではフルに3GB割り当てられると言われても喜べるユーザは少ない)のであれば、同じく厳しい。これは、16-bitから32-bitへの移行の際にも、顕著に示されたものである。
ハードウェアとソフトウェアの関係は、鶏と卵の話に比喩されることが多いが、悪循環に陥るとハードウェアはソフトウェアの少なさを嘆き、ソフトウェアはハードウェアの少なさを嘆くという嘆き合いになってしまう。これを打破するには、間違いなく優秀なソフトウェアの投入が必須である。32-bit時代への移行に大きく寄与したのは、間違いなくMicrosoft Office 95だろう。Windows 95と同時リリースされたOffice 95は、32-bit専用アプリケーションソフトウェアがほとんどなく、また新しいWindows 95のユーザインタフェースに対応したこともあって、競合ソフトウェアを一気に駆逐した。Windows 3.x時代においては、Windowsアプリケーションへの移行に手間取っていた有力なDOSアプリケーションソフトウェアメーカは、32-bit化への波に呑み込まれてしまったのである。無論、これは反トラスト法訴訟においても問題視された(OSとアプリケーションソフトウェアの密接な関係を疑われた)ものであり、両手を挙げて賛同すべきものではないのだが、Office 95のインパクトはWindows 95のインパクトと同等、あるいはそれ以上のものだったのである。
Office 95は、32-bit Windowsアプリケーションだと言うことを喧伝はしたが、使うユーザ側はそんなことよりも、以前のバージョンよりも快適に使えることを重視した。このことは換言すれば、64-bitへの移行は、64-bit Windowsアプリケーションだということよりも、現行のOffice 2007以前のものより快適に使えることの方が重要だとなる。まったく自明のことなのだが、煮詰まってくると忘れがちになることでもある。当たり前だが、移行させるよりも移行していただく方がよほど簡単なことなのだ。
Windows 95とOffice 95の強力なタッグで、32-bit Windowsアプリケーションは好循環となった。一方で寡占も進んだ。不公正な競争という意見もあるが、それ以上に拡大する市場に適用できるだけの開発力とマーケティング力が必要になり、独りで牧歌的なプログラム開発は一部を除けばホビー化した(というか戻った)。しかし、32-bit Windowsアプリケーションの普及はとどまるところを知らず、これがWindowsの完全32-bit移行への重要な布石となった。
小結としてまとめると、ハードウェアとソフトウェアの関係はデバイスドライバも含め、ソフトウェアがなければ始まらないというソフトウェア優先指向に位置づけられる。もちろん、ハードウェアの普及が前提であることは「鶏と卵」の比喩からも明らかだが、決定的に重要なことはキラーソフトウェアのリリースである。つまり、対応ソフトウェアの登場が普及を大きく進めるための原動力となる。16-bitから32-bitへの移行では、Office 95がキラーアプリケーションソフトウェアとなった。新OSとの同時リリースはそれだけでもインパクトがあったが、Windows 95のリリースそのものも大きく注目されたものだったので、その効果は絶大だったのである。では、64-bitへの移行は何がキラーソフトウェアとなるだろうか。まさにそれこそが一番の注目と言えるだろう。
コメント