今年もあと一日を切った。Intel社のマイクロプロセッサは、Core i7という新顔はあったものの、Coreマイクロアーキテクチャ充実の一年だったと言えるだろう。ライバルAMD社は、Core 2系に圧倒されてしまい、メモリコントローラ内蔵とHyper-Transport採用のメリットはどこに行ってしまったのか?と思えるほど。アーキテクチャとしての美しさは、AMD社の方が圧倒的に上なのは言うまでもないが、x86命令をいかに効率よく実行するかを眼目とし、改良に改良を加えられて生まれた泥臭いCoreマイクロアーキテクチャと、最新の45nmプロセスルールの最強タッグで製造されたCore 2系プロセッサは、まさにIntel Israelの成果が結実したもの。Timna → Banias → Yonah → Meromの系譜からわかるように、一朝一夕でできたものではなかったのである。
しかし、今年一年を振り返れば、いわば当然の結果であるCoreマイクロアーキテクチャの勝利よりも、当然の帰結とは言えなかったAtomプロセッサの躍進である。Eee PCに代表される安価なノートPCの席巻によって、Atomプロセッサは一気に普及した。しかし、本来のターゲットであったMobile Internet Device(MID)はまったくふるわず、わざわざCentrino Atomというブランドまで用意したにもかかわらず、風前の灯火となってしまっている。
では、Intel社のマイクロプロセッサがらみの事項を日付順に一覧にしたものから見ていこう。
- 2008/1/7 45nmプロセスルールで製造されたCore 2 Duo及びQuadの計16モデルを発表。
- 2008/2/25 「INTEL ITANIUM 2」の表記を「INTEL ITANIUM」に変更すると発表。
- 2008/3/3 コードネームSilverthorneの正式名称を「Atom」に決定。同時にMID向けプラットフォームを「Centrino Atom」と定義。
- 2008/3/4 コードネームMontevinaのブランド名を「Centrino 2」に決定。
- 2008/3/26 TDPが50Wのサーバ・ワークステーション向け低消費電力クアッドコアプロセッサ「Xeon L5410」及び「Xeon L5420」を出荷開始。
- 2008/4/2 IDF Spring 2008で「Atomプロセッサ」とAtomベースのプラットフォーム「Centrino Atom」を発表。
- 2008/4/2 Pentium Dual-Coreの最上位モデルとしてE2220、Core 2 Extremeの上位モデルにQX9775及びQX9770を追加。
- 2008/6/4 Atomプロセッサを正式発表。
- 2008/7/16 「Centrino 2」プラットホームを発表。45nmプロセスのCore 2 Duo、Mobile Intel 4シリーズチップセット、WiFi Link 5000シリーズのワイヤレスLANチップで構成。
- 2008/8/11 コードネームNehalemのブランドを「Core i7」に決定。
- 2008/8/19 45nm Core 2 Duoに、TDP 10~25W動作品を追加。低電圧版等もCore 2 Duoブランドに統合。
- 2008/9/8 初のハロゲンフリーとして製造された、45nmプロセスのXeonプロセッサ4モデルを発表。
- 2008/9/16 45nmプロセスルールで製造された6コアのサーバ向けプロセッサ「Xeon 7400」(コードネームDunnington)を発表。
- 2008/9/19 ネットトップ向けデュアルコアプロセッサ「Atom 330」を出荷開始と発表。
- 2008/11/17 Core i7プロセッサを発表、出荷開始。
昨年11月に顔見せだけだった45nmプロセスルールで製造されたCore 2系プロセッサが、年明けに一斉リリース。一気に普及が進んだ。一方で、唯一のIA-64系の事項となったItaniumブランド変更については、近いうちに「INTEL」も外されてしまうのではという印象。XScaleのような扱いになりそうな感じである。そして、MID向けとされていたAtomプロセッサは、期待のSilverthorneではなくPC向けのDiamondvilleの普及の方が、これも一気に進んだ。Atomプロセッサといえば、小型ノートPCに搭載されているものという認識であり、WILLCOM D4のようなMID的なものは今ひとつ、いや眼中にも入らない状態と言えよう。
一方、AMD社のOpteron対抗として、既に優位にあったCore 2系Xeonをリリースしていたが、アーキテクチャ上のみならずダイの美しさまでも二の次のDunningtonを投入し、もたつくAMD社を突き放しにかかった。Xeonの欠点と言えば、そのラインナップのわかりにくさで、モデルナンバだけで区別するのは限界を超越しているように感ずる。もっとも多くがエンタープライズ向けなので、それはそれで問題ないというのかもしれないが…。
Nehalemマイクロアーキテクチャを持つCore i7のデビューは、一般層には全く無縁の出来事であったものの、Itaniumのようにまったく相手にされないことはなく、しっかりいわゆるマニヤ層にはアピールした。安定こそ力のCore 2系よりも、スリリングなCore i7の方が面白いという意見は頷けるものがある。プラットホーム刷新により、ほとんどすべてを調達(入れ替え)しなければならないが、そんなことよりもCore i7。私も数年若ければ、間違いなく突っ込んでいたに違いない(苦笑)。ただ、Core i7そのものは、私は好きになれない。なぜなら、ってまぁ機会ある毎に語っているので、ここではやめておこう。
こうしてみるとIntel社のマイクロプロセッサは、45nm普及の一年だったことが改めて確認できる。そして、来年の焦点はNehalemマイクロアーキテクチャの普及がどの程度まで進んでいくか、という点になるだろう。来年に限れば、ライバルAMD社の動向よりもIntel社内部の二つのマイクロアーキテクチャ、Core系とNehalem系の争い・共存がどうなっていくかに興味が移る。しかし、来年以降までを視野に入れれば、マイクロプロセッサ内の争いよりもGPUとの主導権争いがどうなっていくかが重要で、そうなってようやくAMD社の出番がやってくる。だが、ソフトウェア、特にOSが現在のような停滞状態が続くようだと、最終的な勝者はAtomプロセッサとなるかもしれない。そんなことを思いつつ、よいお年を。
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