いきなり結論めいたものだが、Windows XP以来の広範なPCの普及により、いわゆるライトユーザ層が激増した結果、PCに求めるものが相対として変わってきている。というのが、大きな要因だと思うが、私のように古いユーザにとってみても、Windows Vistaが移行するだけの魅力があるかといえば、残念ながら移行する「必要性」を感じないということも要因の一つだと考える。振り返ってみれば、OSのバージョンアップというものは、新しい何かができるということよりも、今の不便な状況を脱却したいというのが、その要因であるように思う。
Windows Vistaの前バージョンであるWindows XPは、最近のユーザの方はご存じないかもしれないが、Windows Vistaが登場した頃と同じように評判は芳しいものではなく、「Luna」と呼ばれる新ユーザインタフェース(及びルックアンドフィール)も「ださい」ものとして片付けられていた。パフォーマンスを悪化させるだけのものとして、わざわざ古いユーザインタフェースに戻して使っていたユーザも多かったのである。
しかし、登場して2年余り経った頃には、そのような酷評はほとんど消え失せ、Windows XPを当たり前のように受け容れるようになっていた。もちろん、これは新規インストールやバージョンアップというよりも、新しいPCを購入することでプリインストールされているOSがWindows XPだからという理由でしかないが、この間のPCのパフォーマンスアップが登場時には重いといわれた「Luna」でさえも、問題なく動作できるレベルまで引き上げられていたことも大きい。
そのパフォーマンスアップは、インターネット回線経由等で進入するのいわゆるコンピュータウィルスなどを監視・撃退するという、昔のPCでは考えられないような重い割り込み処理も、エンドユーザに余りストレスを感じさせないくらいに実行できるようになってきた。つまり、有り余るパフォーマンスは、それなりに有効に使われてきたのである。
移行に関していうなら、Windows XPはWindows Vistaよりも重い使命を背負わされていた。それは、Windows 9x系OSというまったく異なるアーキテクチャベースからの移行という問題である。もともと、Windows 2000(Windows XPの前バージョン)によって移行する予定だったものが、より確実に移行を行うという慎重な判断の下で、Windows XPに託されることになった(このため、Windows Meという蛇足が生まれもしたが…)。つまり、バージョンアップというよりもアーキテクチャレベルでのOS変更という荒療治をユーザに促さなければならなかったのである。
一方、ユーザ側から見ても、Windows 9x系OSにいつまでもしがみついているわけにはいかなかった。無論、今でも現役のWindows 9x系OSが働いているPCがあるにはあるが、まっとうに使っていくためには、システムリソース問題やセキュリティ対応問題に対処せねばならず、Windows NT系OS、つまりWindows XPへの移行は必須というべきものだったのである。
移行する側もさせる側も、Windows XPへの移行は必要なものだった。では、Windows Vistaへの移行は、それだけのもの、「必要性」があるだろうか。
Microsoft社によれば、Windows Vistaへの移行は「必要」だと言っている。しかし、セキュリティの向上(悪評高いユーザアカウント制御も含めて)など確かに見るべき点は多いが、それらはWindows XPではできないことなのかといえば、けっしてそんなことはない。
また、カーネルを見直し、パフォーマンスアップにも努めた形跡(Windows SuperFetchやWindows ReadyBoost等)はあるのだが、エンドユーザの操作感としてはそれほど感ずることはできなくなっている。ウリが余りに地味ということもあってか、Windows XPの時と同じくユーザインタフェースの変更(Windows Aeroの採用)も前面に打ち出してもいるが、これも時が解決するとは思うのだが、バージョンアップ対象であるあまりパフォーマンスの高くないPCでは、「遅い」と酷評を受けるお決まりのパターンに陥っている。
要は、PCのパフォーマンスが不足しているため、それを克服するだけの魅力があるかどうかが、OSのバージョンアップを行うか否かの分水嶺といえるだろう。つまり、Windows VistaにはWindows XPの時のような「必要性」をエンドユーザがほとんど感ずることができないというわけである。機能追加となるメジャーバージョンアップであるなら、なおさらに「必要性」を感じなければ、誰が遅くなるというリスクを抱えるバージョンアップなど行うだろうか。
だからといって、Windows Vistaが64-bit版のみになることもできない。当初はそういう計画だったようだが、64-bit環境への移行の「必要性」はさらに低いため、32-bit版が残された経過があるが、実際にリリースされた数を見れば、64-bit版は1割にも満たず、まだまだ32-bit時代が続いている。おそらく、16-bit時代から32-bit時代への移行にかかった倍以上の時間(=10年以上)はかかるだろうから、2012年あたりが移行期となるだろう。だが、大容量のメモリをストレスなく扱うためには、マイクロプロセッサのパフォーマンス以上にメモリサブシステムやグラフィックスシステムのパフォーマンスアップがまだまだ足りない。カセットテープからフロッピィディスク、そしてハードディスクを次ぐ、高速(跳躍するくらいの)な外部記憶装置及びインタフェースも必要だろう。すべてがネットから供給されるとなれば、それらのバックボーンも必要になる。つまり、多くのエンドユーザにとっては64-bit環境への移行は時期尚早なのである。
キラーアプリケーションも求められている、といわれる。もし、仮に高速インターネット回線を今よりも10倍程度快適(曖昧な表現だが)にできるWindows Vistaなるものがあれば、おそらく大きく普及したに違いない。起動時間やスリープまでの移行時間の短縮というのも、悪くはないのだが、そういった類のものだけでは普及は厳しい。頼みの企業ユーザがWindows Vistaへの移行を躊躇っていることは、何のためにVistaを早期リリースしたのかと思わせるものがある。Windowsは軸足を大きく企業ユーザに移しているとはいえ、もともとは個人ユーザが育ててきたものである。Vistaのリリースはこの原点を無視し、企業ユーザを大事にし過ぎて個人ユーザの足を引っ張るようなものを提供したように思える。
(スタートダッシュでは、個人ユーザの力が大きいことはこれまでの歴史から自明。)
徒然なるままに書き殴ってきたが、今まさにWindows Vistaを使っている私でさえも、もしこれがWindows XPだったとしたら不便になるだろうか、といえば残念ながらそんなことはない。職場ではWindows XPを使っているので、ユーザインタフェース(及びルックアンドフィール)の違いは感ずるものの、やっぱりVistaではないとだめだな、と思うケースは皆無に等しい。これまでであれば、古いバージョンを使っていると、やっぱり新しいOSに移行しないとだめだなと思うことが当たり前のようにあったのだが、Vistaに関していえばそれがない。これこそが、まさに「なぜ移行しないのか」の回答となるだろう。
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