先日、資料探しの最中、かなり古い雑誌を見つけた。2000年12月に休刊(廃刊)となった科学朝日(休刊時名称「サイアス」)のバックナンバである。2604年、という表記だけ見れば、今から600年ほど先の未来となるが、これは西暦表記でなく、いわゆる皇紀表記であり、皇紀2604年とはつまり昭和19年、西暦でいえば1944年にあたる。まさに、戦時中に発行されたものである。
科学雑誌は、今では「ニュートン」や「日経サイエンス」など、もはや数えるほどしか残っておらず、多くの科学雑誌は出版不況を迎える前に消滅した。理科教育の先行きが危ぶまれて久しいが、意外なことに戦前は、というか太平洋戦争前後には、科学朝日をはじめとして多数の科学雑誌が創刊されている。
- 「科学朝日」1941年(昭和16年)11月
- 「科学史研究」1941年(昭和16年)12月
- 「科学文化」1941年(昭和16年)12月
- 「図解科学」1941年(昭和16年)12月
- 「科学日本」1942年(昭和17年)4月
この創刊ラッシュに、何らかの意図が働いていたかどうかは定かでないが、同じようなジャンルの雑誌がほぼ同時期にいくつも創刊されることは珍しいことではない。なので、この時期に科学に対する興味が国民の間に広く求められていたのかもしれないが、やはりその時代に属した人でなければ、その時代の雰囲気はわからないので何とも言いようがない。何にしても、科学朝日はこの時期に創刊され、約3年ほど経過した時期の2604年12月1日号を手にしているというわけである。
さて、この表紙をご覧いただくとおわかりのように、時局柄、科学とはいってもほとんど兵器関係の内容一色である。戦闘機に火炎放射戦車に戦艦(駆逐艦かも)、陸海空の兵器揃い踏みである。そして、この表紙をめくると特集記事(グラビア)という、今も変わらぬ雑誌のスタイルだが、これがすごい。
「V2号の発射基地か」という記事である。どういう経路で入手したのかわからないが、連合軍(雑誌表記上では、反枢軸軍)が撮影したというドイツ軍の基地・工場らしきものの写真を中心に、その解説記事が書かれている。1944年6月6日より開始されたノルマンディー上陸作戦によって、ノルマンディー地方が連合軍の手に入ったのを皮切りに、フランス諸地方は次々と連合軍の手に入っていくが、その過程で発見されたものだろう。
記事を逐次引用しないが、面白いと思うのは、昭和19年(1944年)末という時期でありながら、鬼畜米英的なスタンスで記事が書かれておらず、あくまで「V2号の秘密基地か?」みたいなノリで書かれていることだ。そして、戦時中のイメージとして敵性語の使用を避けることもあったのだが、記事中の表現はコンクリートやロケット、ランプ、トンネル等と、意外に使われていた。
(本文中にはロケットのことを巨人流星弾と「らしく」表記もしているが…。)
その他の記事も興味深いものは多いが、広告も時局を映しだしているものが多数ある。中でも、これは時局に無理やり絡めてあるのが面白い。
疲労防止と作業力振起。後の方は、戦時中でなければ付くことがないセールストークだろう。ネーミングもすごい。男性の「エナルモン」はたぶんエネルギーにひっかけているのはいいが、女性の「オバホルモン」はやはり…。いや、あえて言うまい。「生理不順 頭痛・腰痛 下腹痛 逆上・不眠等」と何に効用があるかをうたっているが、「逆上」というのは何だろうか。個人的には十分思い当たる節はあるが(苦笑)、これもあえて言及しないでおこう。
というわけで、60年以上前の科学朝日を読んでみた。今、読めば面白いと思うことが当時では当たり前だったり、あるいは当時は画期的だったことが今では歯牙にもかからないものもあるだろう。過去を知って今を知る。懐かしむだけでなく、常にこういう態度で臨みたいものだ。
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