というわけで、今回も前回の続きとなります。また例によって、最初に年表を示しておきましょう。
OS/2からの離脱準備の完成版となったのが、1990年5月22日リリース(PC向けOSとして最も盛大な発表会だった)のWindows 3.0によって、Windows 1.0xベースのリアルモード、Windows/286ベースのスタンダードモード、Windows/386ベースの386エンハンストモードが一つに統合される(スタンダードモード及び386エンハンストモードは、前バージョンと比べて大きく飛躍していたが…)。時代としては、80286がまだ主流だったこと(日本は例外的に80386SXが主流となりつつあったが)やWindowsアプリケーションの実行速度がスタンダードモードの方が速かったこともあって、386エンハンストモードのありがたみを実感することは少なかったが、ようやく見た目はMacintoshに太刀打ちできるレベルに上がり、北米では大きく飛躍することとなった。
Windows 3.0は、初めて大きく普及したバージョンだったため、これをブラッシュアップしたWindows 3.1と合わせて、実に5年近い年月がWindows 3.x、いわゆる16-bit Windowsの時代となった。もちろん、後継となるコードネームChicago(のちのWindows 95)のリリースが一年以上遅れたことも理由の一つだが、これは32-bit版WindowsとなるWindows NTとの互換性も考慮にいれる必要があったためで、大きく普及したWindows 3.xをいかに32-bit Windowsに移行させるかという重大な使命をChicagoは担うこととなる。結果として、これは大成功となった。
Chicagoが遅れたことの副産物は、16-bit Windowsと32-bit Windowsの混載という困難な問題を部分的に解決したバージョンのリリースという形になって表れた。それがWindows for Workgroups 3.11の登場である。この前版として、Windows for Workgroups 3.1があったが、バージョンナンバがわずかに0.01しかあがっていないだけで、中身のある部分はまったく変わるものとなっていた。
それはDOS時代からのファイルシステムであるFATファイルシステムの変更である。DOSのFATファイルシステムの歴史は古く、DOSよりも古い歴史を持っている。そもそもFATは、Microsoft Disk BASIC(BasicではなくBASIC)のファイルアクセスのために作られた(Marc McDonald氏が1977年に開発)。これがDOSに採用され(CP/Mのパクリ同然であったものをそう見せないためにFATファイルシステムに置き換えたといわれている)、クラスタ識別子が12-bitから16-bitに拡張されたFAT16も、DOS 3.xから採用されるなど数多の拡張が施されたが、基本的なところはあまり変わらなかった。これが大きく変わったのは、FATファイルシステムがリアルモードでなくプロテクトモードに対応となったからである。
単にリアルモードからプロテクトモードに移行しただけでは、大きく変わったといえないのではないかと思うかもしれない。しかし、見た目は同じように見えても、プロテクトモードとリアルモードでは決定的に異なる。それは、DOSはリアルモードで操作するものであり、プロテクトモードで動作するそれは既にDOSではない(DOS窓もDOSではなく、DOSを模倣したもの)。ファンクションコールやシステムコールは同じであっても、その呼び出しの内部ではまったく異なったものとなっている。それまでのWindowsでは、DOSのFATファイルシステム(及びシステムのBIOS)を呼び出すため、プロテクトモードで動作しているものをわざわざリアルモードに遷移させ、ファイル操作を終えた後、再びプロテクトモードに復帰させていたのである。言うまでもなく、このような処理は大きなボトルネックを抱えているのは明らかだが、断続的にファイルアクセスをしない限りは問題が表面化することは少なかった。だが、ネットワークをサポートするようになったことで、このリアルモードのFATファイルシステムがボトルネックとなってしまったのである。
それは、当時のWindows自身でネットワークシステムをサポートしておらず、DOSのそれを利用していたからである。ファイルシステムがDOSのものを利用していたのだから、DOSに明るい方であれば言わずもがなであろう。DOSのネットワークへの対応は、CD-ROMのサポートと同様、ファイルシステムの拡張という形で実装されていたため、ネットワークへのアクセス頻度は一般的なファイルシステムへのアクセスと比べ物にならない(少量だが頻度が高い)。このため、プロテクトモードからリアルモードへの移行、そして復帰が間断なく繰り返され、これがボトルネックとなり、最初のWindows for Workgroups 3.1の評判は惨憺たるものとなっていた。汚名挽回、いや名誉挽回のため、Windows for Workgroups 3.11ではFATファイルシステムをプロテクトモード対応とし、ネットワークのみならず一般的なファイルアクセスも格段のスピードアップ(10倍程度高速)が図られることとなったのである。そして、これこそがChicagoの成果の一つ、プロテクトモードで動作するVFATファイルシステムの先行デビューとなった。
長くなってきたので、次回に続きます。横道に逸れつつあるので、少し短めに書くことを予定しています。
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