■ マイクロプロセッサ Core i7-4650U PCHの部
順番が本来なら「固定記憶装置(SSD)」の前に来るべきものだが、古い感覚が抜けていないため(本機のマイクロプロセッサの構成は後述するようにかつてのチップセットを内蔵している)、結果的に後回しとなってしまった。と言い訳を述べながら、今回取り上げるのはかつてのSouth Bridge(そしてICH)に相当するPCH(Platform Controller Hub)についてである。
Haswellのうち、U及びYプロセッサは別名Haswell-ULTと呼ばれ、上に示したようにマイクロプロセッサパッケージ上に2つのダイを実装(MCP=Multi-Chip Package)し、大きい方がマイクロプロセッサ本体(CPU、GPU、メモリコントローラ等)、小さい方がPCHである。デスクトップ版Haswellやモバイル版HaswellのH及びMプロセッサは、このような実装となっておらず、PCHは別チップとなっている。
このように実装形態が異なるということは、プロセッサとPCH間を接続するDMI(Direct Media Interface。こんな名前だがメディア云々とは直接的関係はない。NetBurstマイクロアーキテクチャのネーミング同様、10年ほど前のIntel社のセンスの問題)はどうなったのかという点が気になるところで、Haswell-ULTでは、DMIに代わりOPI(On Package Interface。DMIと異なり何て素直なネーミング)で2つのダイをつないでいる。そして、OPIに代わることと併せて、以下のインタフェースが廃止された(Haswellになって廃止されたものも含む)。
- DMI(Direct Media Interface)
- PECI(Platform Environment Control Interface)
- FDI(Flexible Display Interface)
- CPU and OP-DMI Overclocking(CPU Overclocking)
- 8237 DMA Controller(Legacy and LPC DMA)
- SATA IDE mode(Including AHCI with AE="0")
廃止はされても、エミュレーションレベルで事実上引き続きサポートされ続けるものもあるが(DMIほか)、レガシーインタフェースとして完全に廃止されるものもある。中でも「8237 DMA Controller」の完全廃止は、ようやくの感が強い。DMA(Direct Memory Access)コントローラの機能そのものは今でも十分現役であるが、8237のエミュレーションを必要とするものは基本的にリアルモードのみである。現役プロセッサのほとんどは、x64(AMD 64及びIntel 64)つまり64-bitプロセッサであるのだが、64-bitプロテクトモードの前の32-bitプロテクトモードの前の16-bitプロテクトモードのさらに前の16-bitリアルモードの時代のもので、8237チップそのものはi8086、i8088、そして8-bitのi8085をサポートしていた。要は、初代IBM PCからサポートされ続けていた伝統あるレガシーだったのだ。
そして、SATAをIDEとしてエミュレートするモードも廃止された。原則としてチップセットまで1チップ(パッケージ)化したプロセッサを搭載するPCでは、今更IDEについて考慮する必要がないと判断されたのだろうが、保守的なPC仕様の歴史を眺めていけば、いずれも低消費電力の実現のためにはレガシーを切り捨てていくという積極的仕様変更の姿勢が見える。互換性も大事であるが、昨今のスマートフォンやタブレット等との競争においては、切るべきレガシーは切る(Kill)ということが重要であり、私もこの姿勢に問題はないと考えている。
Core i7-4650Uに搭載されているPCHは 32nmプロセスルールで製造されており、HaswellをサポートするIntel 8シリーズのPCHと同等のものである。ただし、先にふれたようにDMIとFDIに代わってOPIが採用されているため、一部仕様は異なっている。とはいえ、USB 3.0、Integrated LAN、SATA 6Gb/s等のサポートは、ポート数の違いはあれど基本的に同じである。
■ マイクロプロセッサ Core i7-4650Uの統合度
以上、Core i7-4650Uに搭載されるものを一瞥すると、PCを構成する基本的機能はすべて搭載されていることが改めて確認できる。CPU単体を見ても、かつてのPentium時代ではL2キャッシュメモリすらマザーボード上に実装コネクタが用意される外付けメモリ(Pipelined Burst SRAMを覚えていますか…)だった。それがPentium ProでMCP化され、第2世代Celeron(Mendocino)でようやくプロセッサダイに統合された。すべての系列でL2キャッシュが統合されたのは第2世代Pentium III(Coppermine)であって、さらにその外側のL3キャッシュ(LL=Last Levelキャッシュ)までが完全統合されるのは、Xeonで用意される特別版を除けば第1世代Core i(Nehalem)まで待たねばならなかった。その間、CPUコアはCore DuoでダイレベルでのDualコアを実現し、これもNehalemでCPUコアのモジュール化が実現され、スケーラブルなマルチコア対応となった。
一方、GPUの統合は、最初はチップセットへのものだった。i740というグラフィックスチップの機能をi815チップセットを担うi82815(GMCH=Graphics(and)Memory Controller Hub。いわゆるNorth Bridge)に統合したものが最初で、これ以降、長期間にわたってチップセットに統合される時代が長く続いた。この形態が大きく変わったのは、メモリコントローラがプロセッサ側に統合される第2世代Core i(Sandy Bridge)からで、L3キャッシュ(LL=Last Levelキャッシュ)はCPUに加えGPUにも使われるようになる。そして、第4世代Core i(Haswell)になってGPUもモジュール化がなり、Core i7-4650Uには2つのGPUモジュールが実装されている。
そして、チップセットを構成していたSouth BridgeはメモリコントローラやGPUがプロセッサ側に統合されたことで、South Bridgeに相当する機能のみ1チップでチップセット(1つなのにセットというのもヘンだが)を構成し、I/O周りとレガシー系を担当。ICHからPCHへと名称を変えて今日に至るが、このPCHをMCPでプロセッサに統合したものが、本機搭載のCore i7-4650UことHaswell-ULTなのである。
ダイレベルで統合してはいないが、これも近いうちに統合される可能性は高い。かつてはプロセッサとチップセットは進歩のスピードや必要とする動作速度等も異なり、別チップ(ダイ)で開発した方が効率的とされた。だが、Nehalemでメモリコントローラを統合し、Sandy BridgeでGPUを統合したときも、統合したときとそれ以前とでは言うことが違っていた(苦笑)。マーケティング的にはこういうのは当たり前ではあるのだが、鵜呑みは禁物であるのもまたしかり。同一ダイでも、現在では可変クロック動作はもちろん、部分的にほぼ完全に停止させることも可能(ほぼ、というのがミソではあるが)なので、動作電圧の部分さえ何とかなれば十分にPCHの統合は可能となるだろう。
というわけで、Core i7-4650Uの統合度は、統合プロセッサの嚆矢であるCyrix社のMediaGXと同等となった。だが、x86(x64)プロセッサの中だけの戦いではない今日、統合しているのが当たり前のARM系プロセッサと比べれば、統合度はまだまだだといえる。ライバルはPC以外であるのだから、それは自明という流れだとしつつ、今回はここまで。次回はこちら。
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