■ はじめに
さて、今日で半月ほど利用したことになる「VAIO Duo 13 | red edition」(以下、単に本機という)だが、久々に買ってよかったと思えるマシンであることに疑いなし、と断言していいと感じている。理由はやはり、当たり前のことであるが利用していて不満がないことに尽きる。もちろん、ありとあらゆることに対して全く不満がないとはあり得ないわけで、そこには我慢できるものや自分の使い方にはかかわりがないものなど、他者から見ての不満までないというつもりは毛頭ない。まぁ、屁理屈はともかく、半月使っていて不満を感じないのであれば、今後何年か使っていってもそうそう不満が出るものではないということである。
ただ、不満がないというだけでは、何をもってそうなのかということはなかなか客観視しにくい。そこで今回から(おそらく数回にかけて)レビュー総括編と称して、本機の特徴やスペックなどを語りつつ、どこがどう気に入りあるいは気に入らないかをふれながら最終的に満足しているというところにもっていければと思う。というわけで、まずはPCである以上、その心臓部であるマイクロプロセッサから見ていくことにしよう。
■ マイクロプロセッサ Core i7-4650U CPUの部
本機に搭載されているマイクロプロセッサは、Intel社のCore第4世代プロセッサ(コードネーム Haswell)に列せられるIntel Core i7-4650Uである。第4世代とは言うが、あくまでIntel社公式の数え方に過ぎず、マイクロアーキテクチャとしてみれば第4世代という言葉は相応しいとはならない。Core i ブランドとしては第4世代(Nehalem → Sandy Bridge → Ivy Bridge → Haswell)であるが、Coreマイクロアーキテクチャの発展型として捉え直せば、
- P6 → P6改(Banias)→ Core(Yonah = Banias × 2)→ Core改(Nehalem)→ Core改+GPU統合(Sandy Bridge)
であり、HaswellもSandy Bridgeの改良型と位置づけられる。そして、Banias(初代Pentium M)以来の発展型としても位置づけられるわけだ。
そしてHaswellは、Sandy Bridge以降にモジュール化によるスケーラビリティへの取り組みがさらに一層進んだものとなっている。上に示したダイ写真は、本機に搭載されているCore i7-4650Uのものだが、多くのWebサイトに公開されているそれと異なっていることが確認できるだろう。それは右側に位置するCPUコアが4つから2つに減っていること、そして左側に位置するGPUコアが1つから2つに増えていることである。
ちょっと縮尺を合わせることができなかったが、これが通常のHaswellで細かい部分に差はあるものの、CPUコアとGPUコアは両者変わらず、その数だけが異なっている。モジュールの組み合わせによって、派生プロセッサを作る形がHaswellによって大きく歩を進めたことが、このことからもわかろうというものだ。
とはいえ、基本機能は前のIvy Bridge以前とほとんど変わっていない。コア毎に、L1キャッシュは命令・データ共に32KBとPentium M(Banias)以来変わっていないし、L2キャッシュも256KBとP6以来の多くのプロセッサに差はあるが、最初期のPentium Proと同じである。L3キャッシュ(ラストレベルキャッシュ)は唯一差が設けられているところで、本機搭載のCore i7-4650Uは4MBとなっている。
命令セットは、新たにAVX2がサポートされており、それにあわせて若干のマイクロアーキテクチャの改良はあるが、基本線は何ら変わるところがない。しかし、それは基本スペック部分であり、HaswellにはIvy Bridgeまでになかった機能が追加されている。これは、Intel社自身が言っているように、
- 待機消費電力の削減
- 統合GPUの強化
で、特に「待機消費電力の削減」については大きな努力が払われている。まずは、CPUコア及びパッケージレベルにおけるCステートの拡充である。Haswellはデスクトップ向けとモバイル向けと大きく2系統あり、モバイル向けもM系・H系並びにU系・Y系とさらに細かく分けられているが、Cステートが大きく拡充されているのは、モバイル系のU・Yプロセッサのみである。
- C0 …… Active mode, processor executing code.
- C1 …… AutoHALT state.
- C1E …… AutoHALT state with lowest frequency and voltage operating point.
- C3 …… Execution cores in C3 state flush their L1 instruction cache, L1 data cache, and L2 cache to the L3 shared cache. Clocks are shut off to each core.
- C6 …… Execution cores in this state save their architectural state before removing core voltage.
- C7 …… Execution cores in this state behave similarly to the C6 state. If all execution cores request C7 state, L3 cache ways are flushed until it is cleared. If the entire L3 cache is flushed, voltage will be removed from the L3 cache. Power removal to SA, Cores and L3 will reduce power consumption.
- C8 …… C7 state plus voltage is removed from all power domains after required state is saved. PLL is powered down.
- C9 …… C8 state plus processor VCC input voltage at 0 V.
- C10 …… C9 state plus VR12.6 is set to low power state, near shut off.
同じHaswell(Intel社公式では、Intel Iris Pro Graphics 5200を搭載するプロセッサのコードネームはHaswellではなくCrystal Wellとある)でもデスクトップ系並びにモバイル系のM・Hプロセッサは、C8からC10までをサポートしていない。つまり、U・Yプロセッサのみが深いレベルまでCPUを眠らせることができるのであるが、単にステートレベルのみならず消費電力の点からも違いを見いだすことができる。M・HプロセッサとU・YプロセッサのどちらもサポートしているC7ステート時の消費(待機)電力を比較すると、
- Hプロセッサ(すべて) …… 2.4W
- Mプロセッサ(すべて) …… 2.4W
- Uプロセッサ(28W版) …… 1.5W
- Uプロセッサ(15W版) …… 0.95W
- Yプロセッサ(すべて) …… 0.85W
ご覧のとおり、Core i7-4650Uが属するUプロセッサ(15W版)の消費電力は0.95Wと1Wを切っている。これはYプロセッサの0.85Wとはわずかに0.1Wの差であり、M・Hプロセッサとは半分以下、同じU系統の28W版と比べても0.55W低いという優秀さである。そして、M・HプロセッサがサポートしないC8ステートでは0.12W、C9及びC10ステートに至っては驚異の0.052W(52mW)まで下がる。以上のC0からC10ステートは、ACPIにおけるS0ステート(アクティブモード)での状態であり、S0でここまで消費電力が引き下げられていることで、以下に示す重要な機能が意味を持ってくるのだ。
それは、CPU単独の機能ではないが、システムレベルでACPIを拡張したS0ix(S0i1及びS0i3)をサポートしていることである。ACPIがS0からS5までの6段階をサポートするが、このうちS0はスリープ状態ではない、つまりアクティブ状態を指すのだが、驚くべきことにS0の派生モードでありながら消費電力をS3(いわゆるスリープモード。Suspend to RAM)ないしS4(いわゆるハイバネーションモード。Suspend to Disk)と同等の消費電力を実現しているのである。これは、スマートフォンレベルのスリープ状態からの復帰レスポンスをPCでサポートするには必須のもので、S0と同等のレスポンスを実現しながら消費電力はS3ないしS4という、言い方は悪いがインチキとしか思えない機能なのである。既存のPCにこのような芸当はできるはずもなく(Atom搭載機はできたが例外)、マイクロプロセッサとOS、そして周辺ハード・ソフトウェア群の協働作業で実現しており、PCにおける最適な組み合わせがHaswellとWindows 8という組み合わせなのだ。そして、Windows 8ではこの機能を使って、Connected Standbyが実現されている。さらにそして、これを現時点で実現しているのはVAIO Duo 13のみ(くどいがAtom搭載機以外で)。正直、S0ixが実現されてしまうと、S3そしてS4の存在意義は失われると感ずる(HDDでなくSSDならなおのこと)。
この機能によって、本機はスリープモードからの復帰が速い。そしてスリープモードに見えたのは正確に言えばスリープモード(ACPIにおけるS3ステート)ではなく、S0ixにより実現されているConnected Standbyモードだったのだ。OS(Windows 8)は眠っていないにもかかわらず、眠っているのと同等の消費電力。当たり前だが、OSが眠っていなければ復帰が速いように見えるのも自明であって、そもそもOSレベルからすれば復帰などではなく、最初から起きていたのである。どうもやっぱりインチキのように見えてしまう(苦笑)。
また、省電力だけが本機の特長ではなく、cTDP(Configurable Thermal Design Power)がサポートされており、キーボードモードでは通常15WのTDPが25Wにまで上がり、最大3.30GHzまでの動作速度が実現されている。もっとも、常時このような状態が維持されることはなく、熱設計電力という言葉どおり、排熱等の問題から一定の温度を超えてしまうとスローダウンするようになっている。とはいえ、超重いベンチマークテストを何分も行うのならともかく、通常の利用形態においてこのようなシーンは少ないので、一時的にトップスピードになって処理速度の体感が上がれば文句はない。よって、SONY自身が説明する「VAIO Z21よりも高速」とする説明(下図参照)は、あくまで条件の整った短い時間においてということを忘れてはならない。
本機は、上図を見ると右から2番目に位置し、クアッドコア搭載のVAIO Z21+PMDよりもわずかながら高い性能だとしているが、まぁそういうことである。
といったところで、今回はここまで。次回はこちら。
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