続・東急池上線の高圧線（鉄塔）はいつ頃から背が高いものになった？

「東急池上線の高圧線（鉄塔）はいつ頃から背が高いものになった？」の続き。

前記事のコメント欄に情報を頂戴しているが、確かに昭和10年代前半（1935年以降）には背の高い高圧線鉄塔であることは、古写真から確認できているが、初期になかったことも古写真から明らかである。

これは昭和7年（1932年）に撮影された石川台駅の写真（「池上町史」より）であるが、現在の石川台駅をご存じであれば、ここまで基本構造が変わっていないことに驚かれるだろう。駅本屋の位置、乗降車ホームまでの勾配はほとんど変わらない。蒲田方面ホーム側に改札がなかったため、駅構内には線路を渡ることができるようになっていた。さて、この写真には背の高い高圧線鉄塔は見えない。

石川台駅付近の背の高い高圧線鉄塔は、昭和22年（1947年）の航空写真に写っているものを確認すると（今回は掲載していません）、現在とほぼ同じ場所にあることがわかる。五反田方向（上写真では手前側）にあるものはこの写真の範囲外だが、蒲田方向（上写真では左奥方向）のものは車両の後方あたりに見えていて不思議ではない位置にある（写真では低い電柱らしきものが見えるあたり）。よって、昭和7年（1932年）にはまだ背の高い高圧線鉄塔はなかった可能性が高い。

高圧線については、意外なことに1万分の1地形図に掲載されている。東京圏の1万分の1地形図は明治後期より作図されるようになるが、当時は高圧線は珍しかったのか、あるいは地図掲載に欠かせないものとしてなのかは不明だが、これを参考に探ってみると──

昭和4年（1929年）の1万分の1地形図の洗足池駅～石川台駅間。高圧線に色を付けてみた（洗足池駅付近の変電所左から伸びているものは塗り損ねた）が、中原街道を越えて池上電気鉄道線（現 東急池上線）を跨ぎ、下方（南側）に伸びていることがわかる。なお、鉄道を跨ぐ手前（北側）の高圧線は今でもあり、高圧線を支える鉄塔も健在である。

そして、昭和12年（1937年）の1万分の1地形図の洗足池駅～石川台駅間。比較するまでもなく、池上線を越えておらず記載されなくなっている。建物がたて込んできたので消したという見方もあるだろうが、他の場所でさらに市街地化が進んでいるあたりの記載も残っており、高圧線が池上線を越えて南方へ行かなくなったとなるだろう。

参考までに昭和11年（1936年）撮影の航空写真も掲載。さすがにこの解像度では、高圧線はもちろん、背の高い高圧線鉄塔もはっきりしないが、1万分の1地形図の正確性を確認できよう。

さて、これだけで結論は出せないが、一定の範囲を示すことは可能だろう。高圧線は、池上電気鉄道線ができる前はこの一帯を南北に走っていたが、池上電気鉄道線ができてしばらく経過した昭和10年（1935年）前後に鉄道の架線を兼用した高圧線鉄塔が線路沿いに建設され、戸越方面から千鳥町方面まで続いた。千鳥町駅付近からは線路を離れ、再び南下し多摩川を越える、と。

よって、背の高い高圧線鉄塔は、昭和7年（1932年）以降、昭和12年（1937年）の5年間につくられた、と見るが果たして。

Comments

[投稿情報: 木造院電車両マニア]

旗が岡に住んでいた友人はあっと言う間に高圧線鉄塔ができたと私に言っていましたので、少なくとも物心ついた後だとすると昭和7年頃ではないかと思います。残念乍ら去年故人となられましたので確かめることができませんが私の憶えている高圧線は地図の通り永久橋あたりで東京工大の構内を横切る高圧線に接続されていました。昭和4年の地図の南に伸びていた高圧線の古い木の柱の根っこが永久橋の横にまだ残っています。
余談ですが、松永安左衛門の必死の反対にもかかわらず、昭和14/5年頃の国家総動員体制に移行した時期に電力は国営化され、今日もまだ議論の的になっていますが、国家管理か、市場原理かまだ結論は出ていないようですね。

[投稿情報: りっこ]

どうもありがとうございました。

大変参考になりました。
木造院電マニアさまにも、感謝申し上げます。　m（_ _）m

[投稿情報: サルマルヒデキ]

　木造院電車両マニアさま 送電鉄塔ファンのサルマルヒデキと申します。
　記事で取り上げられている送電路は、「千鳥線」というルートで現在は洗足変電所から千鳥町、そこから地下で池上変電所へとつながっています。洗足池から北のルートは駒沢線で、洗足変電所から和田堀変電所まで行きます。

　歴史的には東京電燈の東京内輪線という有名な環状送電ルートで、六郷から足立区花畑までぐるっと東京を一周するルートです。これが成立したのは大正15年ですが、この辺りのルートはもともとは桂川電力の谷村線六郷分岐で、大正2年に遡ります。

　なお、コメントで「掛川電力」となっているのは桂川電力の間違いではないかと推測します。桂川電力は発足後すぐに東京電燈に合併されていますね。

　古い地図を確認すると、昭和7年頃を境に久が原～千鳥町辺りの送電路がなくなっていることが分かります。木造院電車両マニアさまのご指摘のようにその時期に鉄道上へルート変更があったのでしょうね。
　千鳥町から先は現在送電路がありませんが、東急多摩川線と環八の交差付近から安方線というルートが六郷変電所まで現存しています。

　私の好きな路線のことゆえ長々書いて申し訳ございません。大変参考になりました。

[投稿情報: 木造院電車両マニア]

サルマルヒデキ様
貴重なる情報有り難う御座います。ついでといっては恐縮ですが、長原や大岡山の先の地下化された部分は送電線も地下に埋められたのでしょうか？　高圧線を地下に埋めても電気が逃げないのでしょうか？　開発途上国で無理に大電流を流したために電線が伸びて地上に近づき電気が逃げてロスが大きくなるという話を聞いたことがありますので、簡単で結構ですのでシールドの方法を教えて下さい。

[投稿情報: りっこ]

サルマルヒデキさま

詳しい解説、ありがとうございました。
とても参考になりました。

桂川と掛川を間違えたのは、私のミスです。全くの勘違いです。
ご指摘、ありがとうございました。
そして、高圧鉄塔について、私が不思議に思っていたことを丁寧に教えていただき、本当に感謝申し上げます。

世の中には、いろいろな識者の方がおられるのだなぁと、サルマルヒデキ様のコメントを読んで、感銘した次第です。
これからもよろしくお願いいたします。　m（_ _）m

[投稿情報: サルマルヒデキ]

木造院電車両さま：
> 長原や大岡山の先の地下化された部分は送電線も地下に埋められたのでしょうか？

　さて、代替する経路をどうするかですね。送電路をそのまま地下に埋めてもいいし、別系統から引いてもいいわけです。古い時代のこの辺りのことですから、地中化するほどの必要はないような気がします。

　地中送電はとても古くから行われているようです。ちょっと資料がでてこないので正確ではありませんが、大正には技術ができていたと思います。
　地中送電ではオイルを絶縁材として使います。今はいろいろ進歩しているらしいです。