この本を高校あるいは大学時代に出会っていたら、今の私ではなかったろう。そんなことを思わせる本が出た。それが講談社基礎物理学シリーズの別冊扱いとなる「現代物理学の世界 トップ研究者からのメッセージ」(編者 二宮正夫、発行 講談社)である。帯に、
- 物理学のあらゆる分野の、最新の知見と課題がわかる
- 一線級の物理学者19名によるエキサイティングな構成
- 最先端の現場から、研究のおもしろさを伝える一冊
- 物理の将来をになう若者のために最適のガイダンス
とあるように、正味180ページほどの中に19項目、つまり一つにつき10ページ程度と適当な長さでよくまとめられており、まさに最先端の物理学界の現状が伝わってくる貴重な書籍と言えるだろう。もちろん物理の本なので、専門用語は多数あるが、数式の類はほとんど出てこない。これにより、一般読者の手にはもちろん、いわゆる文系と称される方々にも興味深い内容ではないかと思われる。
私自身、学生時代は物理学科に属していたので、高校時代には物理を専攻しようという気持ちはあったわけだが、もし、当時この本と出会うことが叶っていたとしたら、間違いなく将来の進路に大きな影響を与えたことだろう。それほどまでに面白い本、いや素晴らしい本だと感じた。
それぞれ、現在の最先端のトピックが簡潔にまとめられているので事柄(事象)がつかみやすく、また何が問題となっているのかという論点もわかりやすい(これは自身が専攻していたからかもしれないが)。それ以上に面白いのが、各先生方の考え方やいかにしてこの道に進まれたか、あるいはどんな困難があったかなどの等身大の話題だろう。これが実に面白く、また将来を切り開くことのできる若者であるならば、大変勇気づけられることだろう。
「その時々の課題に対して、これは将来役に立つとか立たないとかを考えずに、また課題の大小にかかわらずに、常に徹底的に追求することが重要である。」(21ページ。鈴木厚人先生)
「常日頃から、流行に流されずに、自らが面白いと思う事象について、自らの頭で考える。」(110ページ。吉川研一先生)
「それに関する限り自分は誰にも負けないという「余人をもって代えがたい度合い」を高めれば、おのずから優れた研究者として迎えられるはずだ」(152ページ。須藤靖先生)
特にこの3つの言葉は、小手先ばかりで安易なノウハウ(5分でわかる!とか、これだけで大丈夫!とか)を求める新入社員(及びベテラン社員)に向けたい(笑)。
なかなか物理学の、しかも基本大学生初学年向けに書かれた本を一般に薦めることは難しいが、知的好奇心を持つ方々には一読することをお勧めしたい。といったところで、今回はここまで。
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