2010年を迎える前に、2009年を振り返ってみる記事を一本くらい書くつもりだったが、いかんせん間に合わなかった。とはいえ一本くらいは書いておきたいと思い、正月休みにキーボードの進むまま書いていこうと思う。
で、振り返ってみようという話題は、Mobile x86プロセッサについてである。いわゆるx86系に限定しなければ、ARM系も考慮に入れねばならないが、Mobile PCをターゲットとすれば「事実上」x86系プロセッサに限定(いわゆるWindows PCのみならず、Macですらそうなっている)され、しかもこれも「事実上」と振るが、Intel社とAMD社の二社に「事実上」限定される。そして、圧倒的な出荷数という視点では「事実上」Intel社独占状態にあると言っていいだろう。
しかし、「事実上」Intel社が独占状態にあると言っても、Intel社の中ではCore2系とAtom系に二分化され、その使われ方もIntel社の目論見とは異なった方向に進んできているのが現状である。
Atom系は、一昨年の2008年にデビューして以降、最大のヒットともなったいわゆるネットノートPCに採用されて、大きくそのシェアを拡大した。MID(Mobile Internet Device)向けとしてリリースされたAtom系プロセッサは、ウィルコムのMIDであるWILLCOM D4としてデビューを飾るはずが、様々な理由で遅延し、結局ASUSのネットノートPCというMIDとは異なる使われ方、安易に言えば低価格ノートPCとしてデビューするに至った。しかも、MIDよりもネットノートPCの方が遙かに多く出荷されたことからもわかるように、MIDは所詮MIDでしかなく、鳴かず飛ばずの状況は2009年末に至っても同様である。
2009年に入ってからのネットノートPCは、初心者向けPCという位置付け以上にPCのベテランが二台目以降の持ち運びできる安価なPCとして利用されたため、Atom系では処理速度等で厳しい側面が確認されるにいたり、さらに性能を上げつつも汎用品の利用を拡大させて価格を下げたUMPC(Ultra Mobile PC)が多数登場し、これがネットノートPC需要の受け皿となる。UMPCに採用されるMobileプロセッサはカテゴリ的にはCeleronあるいはPentiumブランドを採用するが、コアテクノロジはCoreマイクロアーキテクチャを採用しているので、もともとが低消費電力指向であることもあり、Intel社の独壇場となっている。
一方、ハイエンドMobile PC向けプロセッサとして、Coreマイクロアーキテクチャを改良したとされるNehalemアーキテクチャを搭載するCore i7系プロセッサが登場したが、ハイエンドであるばかりか、そもそもがMobile指向アーキテクチャでないこともあって、まったく普及するに至っていない。無論、ハイエンドという視点においては全体に占めるシェアは低くてもいいのだが、形態だけがノートPCといったものにしか採用されていない実情を鑑みれば、Mobile Core i7系はまだまだだと言って過言ではないだろう。もうすぐ正式発表されるArrandaleの採用、そして実力如何によっては、SandyBridgeのリリースまでCore i系は振るわない可能性もある。
ロゥエンドとハイエンドの現状を見れば、ミッドレンジクラスはまたしてもCore2系の勢力が圧倒的なまま、つまり、プロセッサコアの違いはあるが、2006年以降続くCoreマイクロアーキテクチャの天下が2009年も続いたという結論になる。ということは、マイクロアーキテクチャレベルで言えば、Banias(初代Pentium M)より続いていることを意味し、かれこれ6年以上が経過している。Mobile専用プロセッサとして設計されたBaniasだが、裏を返せばMobile専用プロセッサとして設計された、新たなパフォーマンス指向のプロセッサ(マイクロアーキテクチャ)がないとも言える。現在のCore2系も、Baniasの「事実上」の後継(Dualコア版)となるYonah(Core系)の改良であるわけで、こうした流れから見てもCore2系の利用が長く続くのも無理からぬことだとわかる。
以上を踏まえ、2009年にリリースされたIntel社のMobile x86プロセッサを眺めていこう。AMD社等のものは影響力が低いので割愛させていただく。
Nehalemアーキテクチャ- Core i7 -920XM(2.00GHz / max 3.20GHz)
- Core i7 -820QM(1.73GHz / max 3.06GHz)
- Core i7 -720QM(1.60GHz / max 2.80 GHz)
- Core 2 Duo T9900(3.06GHz)
- Core 2 Duo P9700(2.80GHz)
- Core 2 Duo P8800(2.66GHz)
- Celeron T3100(1.90GHz)
- Celeron T3000(1.80GHz)
- Atom Z550(2.00GHz)
- Atom Z515(1.20GHz)
- Atom N450(1.66GHz)
たったのこれだけ?といった感じだが、数え漏れがあってもそんなに変わるものではないはずで、関連するプレスリリースも以下の3つ程度しかめぼしいものがなかった。
2009年9月23日
Intel Unveils Fastest Laptop Chips Ever With the New IntelR Core i7 Mobile Processor
Leading OEMs including Asus, Dell, HP and Toshiba began shipping laptops today based on Intel Core i7 mobile processors, with additional systems from OEMs available in the coming months. 1ku pricing for the Intel Core i7-920XM, Intel Core i7-820QM and Intel Core i7-720QM mobile processors is $1,054, $546 and $364, respectively.
2009年12月21日
Intel Announces Next-Generation Atom Platform
First Intel Chips to Integrate Graphics and Memory Controller in CPU; Enables Power Reduction, Smaller Systems and Performance Improvements.
まったく新規のものは、Nehalemアーキテクチャを採用したCore i7系だが、先にふれたようにハイエンド過ぎるというか昔のMobile Pentium 4-Mと同類なので、はっきりいってMobileとは言い難い。一方、Atom系は年末にグラフィックスを統合したマイクロプロセッサが登場したが、製品のリリースは今年に入ってからとなるので2009年と言い難い。そうなると、プレスリリースにすら出てこないCoreマイクロアーキテクチャ採用の高クロック版のリリースのみが新製品となってしまう。要はニッチな製品を除けば、ほとんどすべてが既存製品の、それもほんのわずかな延長線でしかなかったのである。
Intel社のことなので、対抗するAMD社等が強力なMobileプロセッサを出してきていれば、こんな悠長な製品計画で終わるはずがなく、結果的にこれがMobile x86プロセッサのすべてと言っても過言ではない。こうして見ると、やはり「強いなIntel」となる。あのApple社のJobs氏が、アーキテクチャ変更を覚悟の上で導入したCore2系だけのことはある、といったところで今回はここまで。2010年のMobile x86プロセッサの動向も、Arrandaleの成否とAMD社の逆襲はあるのか、古いコア(Intel曰くCore2系のこと)の時代はまだまだ続くのか、などなど目が離せそうにない。
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