この記事は、もともとコメント用に書いたものだが、長くなったので一本の記事として扱うために加筆・修正したものである。
年金問題はここ数年、社会問題化しているが、なぜこのようなこととなってしまったのかという根本的な原因については、広く知られていないようである。もちろん、私が知っているはずもないのだが、一つ思うこととしては話を単純化するための「二元論」や、何か一つを悪者にしてスケープゴートよろしくとされているような印象を強く受けるのは確かである。
杜撰な管理の根本に、社会保険庁があるというのは間違いない。しかし、社会保険庁がすべて悪いのかといえば、必ずしもそうではない。そもそも年金制度は、一定の労働人口(年金保険料納入人口)が一定の非労働人口(年金受給人口)を養う(支える)という大前提の元に、公費等が投入されているものである。このバランスを維持するために保険料率や年金支給額が決定されるものだが、ここには単純な計算結果が反映されることはなく、政治(選挙)の思惑に左右されてきたことは言を待たない。このバランスが崩壊すればどうなるか。年金特別会計が破綻し、借金体質(必要以上の公費投入。つまり人によっては年金保険料の二重払い)となってしまう。
このバランスを維持するのは、社会保険庁ではない。今の組織名でいえば厚生労働省年金局である。要は、年金制度の根幹は年金局で作られ、それを手先として執行していたのが社会保険庁に過ぎないのである。この年金制度の管理問題がゆらぐベースとなっているのは、住所異動の多発、夫婦共働きの一般化、労働市場の流動性、等々の制度発足当時から想定してなかった条件が次々積み重なっても有効な対策が打てず、年金資格・収納管理が困難になったことが起因である。そして、すべての責任を国民一人一人に押しつける格好で、年金手帳のみで資格管理を行い(社会保険庁や機関委任事務として執行していた地方自治体等もそれぞれ台帳は持っていたが、あくまで照合ベースは本人の持つ年金手帳である)、しかも同じ国民年金であっても地方自治体間を異動するだけで年金番号が変わることもあったのだから、人によっては年金手帳そのものを何冊も持っていたりもした(紛失再発行も然り)。それをベースに情報管理したところで、根幹が狂っていればどんなに優れた管理を実行したところで無意味だろう。
時代が下って、住民基本台帳制度などの併用や、基礎年金番号の導入、住民基本台帳ネットワークといった「通し番号」での管理を目論んだが、根幹が狂っていれば意味がない(いわゆる名寄せには限界がある)。加えて、企業等からの不正申告(従業員給与から年金保険料を徴収していながら、社会保険庁等に納入していない、あるいは少額納入)という、社会保険庁側では想定外のことを実行されてしまえば、それが社会保険庁としては正確な情報であったとしても、年金被保険者としては不正確という解決できない矛盾も出てきた。
なぜこうなったのか。理由の根幹は、年金保険料を預かる側と預ける側双方の関心が低いことである。市中金融機関の預金のような意識があれば、とても杜撰な管理などできないし、預ける側もすぐに使えるものならば、そこまで無関心ではいられないはずだ。しかし、一般的に預金のようにすぐに引き出されることはないので、双方の関心が低くなるのは仕方のないことかもしれない。これは社会保険庁のみならず、生命保険等を扱う保険会社も似たり寄ったりのレベルだったことを思い起こせば十分だろう。
また、年金は貯蓄ではなく保険なので、積み立てた金額が戻ってくるものではない。よって、いくら積み立てたのかというのは、従来明らかにされてこなかった歴史がある。なぜなら、年金受給前に死ねば年金は支給されないし、120歳まで生きたとすれば50年以上も受け取ることが可能で、単純に考えれば年金保険料よりも受給金額の方が多いことから、ある程度まで年金を受給すれば貨幣価値の上下を考慮に入れる必要はあるが、長生きすれば得するのが年金(老齢年金)なのである。つまり、いくら積み立てたかを明らかにしてしまうと、このあたりの損得勘定がわかりやすい上に、場合によっては「返金しろ!」とか、もう長く生きられないから年金保険料は払わない、等という騒ぎに発展しかねない。だからこそ、制度上のタブーとしてもともと積立金額を曖昧にしておきたかったというのが年金制度上の欠陥であって、そういう後ろ向きな姿勢が年金管理問題の根幹にあったと考える。
そして、年金問題そのものに関しても、年齢別人口構造の変化を見れば、20~30年前には年金が破綻することはわかっていたはずで(諸外国からの若者の移民を認め年金被保険者にするという手を使わない限りは)、その場しのぎの対応は採られてはいるものの、従来与党の票に直結する国民年金にはほとんど手を付けず、他年金(特にサラリーマン)からの搾取ばかりが行われているのは、まさに政治主導によるものだろう。別例として、最近、野党からあれこれいわれている後期高齢者医療制度についても「悪い面」ばかりが強調されているが(どんな制度でも見方を変えれば両面ある)、これを廃止するというのは、これまでどうしてそうなったかの総括が必要だ(古くは昭和40年代の老人医療無料化からの検証が必要)。単に、政治主導というだけでは、あまりに朝令暮改に過ぎる。
と、このままでは横道に逸れそうなので年金全件照合作業についてふれておくが、上に述べたように決定的に年金情報管理を行うことが困難(不可能)な事例に対し、どう決着を図るかが注目である。照合作業を完全に行うことは無理なので、照合ができなかったものに対し、どう判定するか。少なくとも私は、性善説に立つ立場に与しないだろう。
毎度うまい言い回しでうまくまとめてあって関心ばかりさせられます。
おかけで、この問題に対するとらえ方が自分の中で少しかわったような気がします。
たしかに年金を払うだけで関心のない自分達も悪いよなぁ・・・。などなど。
マスコミの方々には、こういう客観的事実を並べつつ、きちんとした意見を述べてもらいたいですw
もうそろそろ視聴率を取るための人気取りの報道や煽るだけの報道は辞めて欲しい。
投稿情報: 有夏 | 2009/08/03 23:01
有夏 様、コメントありがとうございます。
マスコミも売れてナンボの世界なので、人気取りでしかならないですし、また権力へ靡く性質も持ち合わせているので、自分で考えられるだけのアタマを持たねばならないかと。
難しいですが。
投稿情報: XWIN II | 2009/08/06 07:43