翔泳社さんのIT Architects' Archiveシリーズは、以前ASCIIさんからよく刊行されていたコンピュータサイエンスの王道ともいえる書籍を継承するような感じで、これまでも「C++プライマー」や「オブジェクト指向入門 第2版」等を刊行してきている(きっと売れ筋ではないと思うが、こういう書籍を刊行することはその会社の良心の表れだろう。日経BP社もビジネスライクのみではなく、こういう書籍を積極的に出してほしいものだ)。このシリーズの最新刊となる「コンピュータアーキテクチャのエッセンス」が刊行されたので、早速購入した。
タイトルどおりコンピュータアーキテクチャのエッセンスが書かれたもの(原題もそのものずばり「Essentials of Computer Architecture」)だが、コンピュータアーキテクチャといえばはずすことのできない、いわゆるヘネペタ本とはかなり趣向の異なった論旨で展開されている(このヘネペタ本の第4版の翻訳版も翔泳社さんから出るとのこと。日経BP社がだめだめなのは、この話からも明らかだ)。一言で言うならいい加減、だが悪い意味ではない。お風呂でいういい加減的な意味合いである。厳密な定義をしてから話が始まるのではなく、重要なポイントのみをつまみ食いし、それらを横断的に論ずると言っていいだろうか。それほど長くはない(A5サイズで400ページ程度)ので、通しで読んでも苦にならないし、厳密な定義を展開しないので、気楽に読み進めることができる。
だが、私自身にはほとんど得るものは少なかった。この本の位置づけは「学部生向けのコンピュータシステム論」と自身で定義しているように、昔(ソフトとハードが密接な時代、つまり低レベルプログラミングが当たり前の時代)からのユーザあるいは開発者(プログラマ)などから見れば、わかりきったことしか書かれていないからである。ハードウェアが複雑になり、ソフトウェアも高級言語を用いたプログラミングしか経験がない最近の(とはいってもここ10年程度の)開発者には、ハードウェアを知ることでソフトウェアもさらなる理解を得る手助けになるだろう。最近流行り?の「プログラムはなぜ動くのか」的な本と同傾向だが、それらよりもはるかに有意義な内容が書かれている。
そんなわけでせっかく購入したのだが、一度通しで読んだだけで後輩にプレゼントすることにした。
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