新年度に入って業務多忙の中、家の中でも多忙となっている(苦笑)。家人から整理整頓指令が出、大量の書籍を片付けるという肉体労働を強いられているのだ(自業自得)。そんな中、気がついたのは「アストロ球団」というマンガコミックス。既に40年近く前の作品だが、懐かしさのあまり読み返してしまい、結局、家人にどやされたのであった。
そんなわけで、今回はかつてのXWIN II Web Pageに掲載した記事(巻頭言)を再現しておおくりする。タイトルは『巻頭言 274 「野球マンガ史上最も長い試合とは?」』。14年ほど前の2000年5月3日付けのものです。
巻頭言 274 「野球マンガ史上最も長い試合とは?」
日本プロ野球史上、もっとも長い試合といえば延長28回まで戦われた試合ですが、もっとも長い試合時間という言い方になると、この延長28回まで戦われた試合ではなく、最近のセ・リーグに見られる延長15回までの試合が多く入ってきます。というのは、延長28回という途方もない試合も、戦前作られた記録であるため、実際の試合時間は4時間程度だからです。投球間隔も短ければ、長いサイン交換も行われなかった時代ですから、当然といえば当然のことです。
では、野球マンガの世界で、もっとも長い試合、つまりページ数の多い試合はというと、何が思いつくでしょうか。私は、何をおいても「アストロ球団」におけるアストロ球団 VS ビクトリー球団以外にないのではないかと思うのです。
最近の正統派野球マンガというと、水島新司先生の作品が真っ先に思い出され、実際、TVアニメ化された「ドカベン」では1試合で2か月くらい要していたこともあること、そして原作でも山田太郎2年生の春の甲子園決勝戦、明訓高校 VS 土佐丸高校なんかはべらぼうに長かったという印象から、「ドカベン」の中にあると思われがちです。
しかし、例にあげた「ドカベン」の明訓高校 VS 土佐丸高校は、一際厚いコミックス31巻に収録されているように、いいところコミックス二巻分くらいです。連載期間にして半年程度。これでも十分に長いのですが、「アストロ球団」のアストロ球団 VS ビクトリー球団はこんなものではありません。なにせ、1回表裏の攻防だけでコミックス一巻分の180ページあまり。圧巻の2回表裏の攻防だけでコミックス二巻分の380ページあまりもあるのです。こんな調子で、「アストロ球団」全20巻の約半分がアストロ球団 VS ビクトリー球団に充てられているのですから(連載期間にして約2年。一試合で2年ですよ)。
これだけ長い試合だけあって、スコアも壮絶です。
TEAM | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | TOTAL |
ビクトリー | 0 | 0 | 0 | 4 | 4 | 0 | 7 | 1 | 2 | 18 |
アストロ | 1 | 6 | 0 | 1 | 4 | 0 | 3 | 3 | 1x | 19 |
- 勝利投手: 宇野
- 敗戦投手: 峠
- 本塁打: 宇野(2回裏「満塁」・氏家)、峠(4回表「満塁」・宇野)、伊集院大(5回表「満塁」・宇野)、宇野(5回裏「2ラン」・峠)、峠(7回表「2ラン」・宇野)、バロン森(7回表「ランニング3ラン」・宇野)、峠(8回表「ソロ」・宇野)、バロン森(9回表「2ラン」・宇野)
- 死亡者: 伊集院大(5回表、本塁打を打った直後)、バロン森(9回表、本塁打を打ちホームを踏んだ後)
- 再起不能者: 氏家(2回裏、ビーンボール魔球の変種を投げた後)、ダイナマイト拳(2回裏、殺人X打法を受けて)
「アストロ球団」をご存知の方なら、今さらの話ですが、もともとビクトリー球団はアストロ球団抹殺のためだけに作られたチームで、最初のうちはビクトリー球団トップの峠 球四郎が、「アストロ抹殺だけが目的のワイらにとっては 得点も勝ち負けも さほど問題やない!」と嘯くように、試合の勝ち負けよりもアストロ球団のメンバを抹殺(再起不能)にすることが重要視されていました。2回裏に一挙6点入ったのは、5人連続デッドボールの後、ホームランを打った代償で頚動脈をぶった切るという魔球(ビーンボール魔球の変種)で、6人の犠牲の上でもぎ取った6点です。
こんな感じで、いわゆる『デスマッチ野球』が展開されていたものの、アストロ球団側の無抵抗主義にデスマッチ野球は意味を失い、ようやく3回裏途中から、球四郎いう『クリーン野球』に変わっていきます。ですが、そこは超人同士の戦い。そう簡単には終わるはずがなく、死者2名、再起不能者2名(いずれもビクトリー球団メンバだが、さすがにアストロ超人は不屈だということか)という犠牲を出して、ようやく決着がついたのです。
これだけ長期間に渡り、一試合を書ききった作品は稀有な存在でしょう。それもだらだら続いていたのではなく、週刊少年ジャンプ誌の金看板を背負っていた作品なのですからなおさらです。私もまだまだ見識が低いので、これを越える作品があるかもしれません。しかし、物量で越えたものが仮にあったにしても、「アストロ球団」という作品を貶めることにはなるはずもない。そう思えるのですね。(2000/5/3)
と、いったところで整理整頓作業に戻ろうかとしつつ、今回はここまで。
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