さて、今回買った本は「調査報告 チェルノブイリ被害の全貌」(岩波書店、著者:アレクセイ・V.ヤブロコフ,ヴァシリー・B.ネステレンコ,アレクセイ・V.ネステレンコ,ナタリヤ・E.プレオブラジェンスカヤ、監訳:星川 淳、訳:チェルノブイリ被害実態レポート翻訳チーム)と「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」(上下巻。早川書房、著者:ダロン・アセモグル, ジェイムズ・A・ロビンソン、訳:鬼澤 忍)の3冊。「調査報告 チェルノブイリ被害の全貌」は、2006年にソ連、もといロシアで出版されたもので、原著は既に数版を重ねており、英語版も出されてはいるが、おそらく福島第一原発事故がなかったとしたら日本語版は出ることはなかったろう。世界最悪の原子炉事故をチェルノブイリとするなら、世界で二番目(あくまで今のところ。今後大きな余震があって適切な対応が取られなければ最悪の汚名を被るだろう)のフクシマが起こってしまったからこそ、チェルノブイリの教訓を活かすべく、岩波書店や訳者等の頑張りがあればこそ本書が登場したと思われるからだ。
一方、「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源」は著名なアセモグル博士らが著した全米ベストセラーとなったものの邦訳版であり、政治・制度論を軸として国家の繁栄や衰退を二元論(包括的=inclusive、収奪的=extractive)で単純化するが、単純であるが故、示唆に富んでいる。端的に言えば、政治制度が経済などの趨勢を定め、それが繁栄または衰退につながっているとするものである。
この3冊を合わせ読むことで、私はなぜまだ2年ほどしか経っていない、あの福島第一原発事故が忘れ去られたようになってしまっているのか。電力会社が原発再稼働を声高に主張していることに多くの疑義が入らないのか、現内閣が原発推進・輸出促進を促しているのかが、手に取るようにわかった。それはこういうことである。
- 放射能が人体に与える影響はたった2~3年では推し量ることができない。少なくとも数年、10年以上経って検証されるレベルのもので、しかも影響は深刻で目を背けたくなるようなものである(特に子供たち)。だから、結果がはっきりするまで見ないこと(で存在しないということ)にする。
- チェルノブイリにおいて深刻な汚染地域とされる放射能汚染レベル、つまり福島第一原発事故で拡散した汚染レベルと同等な地域は、東京を含め、広く東北・関東地方に広がっている。これは政府が発表したものとは根底から異なっているが、放射性核種の種類が不明かつ管理されていないところでのミリシーベルト値は単に平均値(あるいは偶発値)でしかなく、実験室のような放射線管理区域での指標を使うこと自体が誤っている。
- 選挙によって原発推進派が与党となり、経済再生に原発を使うという政治となった。政治・制度が原発推進となれば、経済はそれに依存するしかなくなる。つまり、原発が再稼働しなければ立ち行かなくなるわけで、そうなるのは政治・制度がそうなっているからである。そこには「原発推進派=勝者」と「原発被害者=敗者」という構図が厳然と横たわっている。
- 我が国は超高齢化社会を迎えており、今後それは加速度的に進む。つまり、政治を選択する国民は未来がない老い先短い人が圧倒的多数となり、今さえよければそれでいいという風潮がますます強くなる。年寄りに優しい政治は若者には厳しく、そして少子化が進めば、最大多数の最大幸福の民主主義原理からすれば、死に際の人達が中心の政治になり、放射線の影響などまるで関係ないことから、原発再稼働は自明となる。
結局、若者の政治離れとは、年寄りたちが優雅に暮らすための戦略だったのだ。年金暮らしは大変だという人もあるだろうが、働いても年金よりも少ない収入に甘んじている若者が多数あること。自分の全盛期と比較して、収入が相対的に減ったというだけでしかないことに気付かない(ふりをしている)年寄りが多いのだ。これもすべては、政治・制度の問題であることは言うまでもない。
最後に「調査報告 チェルノブイリ被害の全貌」の「日本語版あとがき チェルノブイリからフクシマへ」は原著者からのメッセージで内容は示唆に富む。たったの1ページほどしかないが、特に最後の3行は重い。
「このような悲劇を二度と繰り返さないためにも,勤勉で才知あふれる日本国民が,危険きわまりない原子力エネルギーの使用をやめ,自然がみなさまのすばらしい国に与えた枯渇することのない地熱や海洋のエネルギーを発電のために利用することを願っている。」
たった2年ほど前にあれほどの惨事を経験し、今も10万人をはるかに超える避難者がありながら、原発推進の政治が国民の支持を得ている。これが現実なのだ。
シベリア出兵の記事を読んでいた時に、極東の労農政府の代表にクラスノ シチョウコフというユダヤ系の活動家が居ましたが、後にスターリンにより銃殺されました。この人物の出身地がチェルノブイリと言うユダヤ人が多く住んでいた町でしたが。ポグロムにより皆殺しとなり町は破壊されたそうでが、罰が当たったのでしょうか。
投稿情報: 木造院電車両マニア | 2014/02/21 12:37