多忙とはいいながら仕事だけに埋没したくない。人によってそれぞれだが仕事一筋ではない私なので、書店をふらっと立ち寄った際にまたまた気になる本を手にし、いつの間にか購入していた(笑)。それが本書「ドイツ中世後期の歴史像」(瀬原義生 著。文理閣 発行)である。
私は歴史に興味があることは、当blogにそれなりの期間おつきあいいただいている方には言わずもがなだが、いくつかある興味(ターゲット)の一つとして『ドイツ領邦国家の成立過程』があげられる。19世紀初頭のナポレオン戦争によって実質的に失われる形態となるドイツ領邦国家群だが、これをウエストファリア条約によって成立し得た(事実上の独立扱い)というだけでなくそれを成立し得たバックボーンがあるはずで、それがどういったものなのかという興味から、である。
なので、本書タイトルからして私にぐっと来た。で、まずは立ち読みで前書き的なところ(序)を読んで即購入という流れ。中でもここにぐっと来た。
本書は、一三世紀半ばの大空位時代から一六世紀初頭のマクシミリアン皇帝の死去までをたどったドイツ中世後期の概説である。概説史書の洪水のなかで、本書の意義はどこにあるのか。それは、この二五〇年間の史的経緯をできるだけ詳しく跡付けたところにある。この種の歴史書としては、堀米庸三先生の名著『西洋中世世界の崩壊』が傑出しており、多くの人に感銘を与えてきたが、強いていうならば、事柄によっては簡潔にすぎて、もう少し立ち入った叙述がほしいという箇所がないわけではない。まして一般の概説書にいたっては、史実の羅列に過ぎず、人間の気持ち、感情にまで配慮した説明を望むほうが無理というものである。しかし、歴史研究の目的は、歴史を人間の喜び、悲しみ、怒り、欲望、希望などの複合的営為としてとらえ、そこから読み取れるかもしれない歴史的展開の傾向、あるいは法則を明らかにして、将来への指針とするところにあり、そのような読み取りは、歴史的経過の細やかな盗撮によってはじめて感得しうるものなのである。神は細部に宿ると哲学者スピノーザは看破したが、まさに歴史研究は細部への洞察によって、はじめて、そこに露呈した人間行動の動因、心性(マンタリテ)に触れることができるのであって、そのうえにたって歴史の姿を描いてみようとした訳である。本書を『ドイツ中世後期の歴史像』とした所以である。
そう、まさに「神は細部に宿る」のである。詳細を深く追求すること、結果は文書にすればたかが1行足らずの結果に終わってしまうかもしれないが、その過程が大事なのだ。こういう姿勢に立って書かれた本書ということなので、じっくり腰を据えて読んでいこうとなったのである。
まだ読み始めだが、本書の目次をメイン部分のみ引用すると以下のとおり。
第一章 大空位時代
一 シュタウフェン朝の滅亡ドイツ国王不在の実情
二 シャルル・ダンジューの雄図と「シチリアの晩祷」事件
三 ハンザ同盟の出現
四 ドイツ騎士団のバルト海進出
五 托鉢教団の成立
第二章 ルードルフ一世ハプスブルク家の登場
一 ルードルフ一世の国王選出
二 ハプスブルク家の起源とその系譜、領地
三 オタカール二世との対決
四 ルードルフの西方政策
五 ルードルフと都市
六 スイス誓約同盟の結成
第三章 アードルフ・フォン・ナッサウとアルブレヒト一世
一 アードルフ・フォン・ナッサウ
二 アルブレヒト一世
三 アルブレヒト一世、教皇ボニファキウスと争う
四 ボヘミア王ヴァーツラフ二世、ハンガリー、ポーランドへ勢力拡張 それをめぐる紛糾
五 フィリップ四世端麗王、集権化をすすめる教皇庁のアヴィニョン移転
第四章 ハインリヒ七世皇帝理念の心酔者
一 ルクセンブルク朝皇帝ハインリヒ七世の出現
二 ハインリヒ、イタリアへ出発
三 ハインリヒの皇帝戴冠
四 ハインリヒ、帰国途上で死す
第五章 不屈の皇帝ルートヴィヒ・デア・バイエル
一 ハプスブルク家との抗争
二 ルートヴィヒと教皇の対立、始まる
三 ルートヴィヒのローマ征旅
四 教皇庁との苦闘続く
五 英仏百年戦争勃発、そのドイツへの影響
第六章 一四世紀のドイツ社会とくにニュルンベルクを中心として
一 ドイツ中世都市におけるツンフト闘争
二 ニュルンベルク市の発展
三 ニュルンベルクの金属加工業の繁栄
四 ニュルンベルクの国際商業の展開
五 ニュルンベルク商人の東欧への進出
六 大黒死病の流行と社会の変貌
第七章 ルクセンブルク朝中興の皇帝カール四世
一 カール四世の王位、確認さる
二 コーラ・ディ・リエンツォとカールのローマ行
三 金印勅書の発布
四 ハプスブルク家ルードルフ四世の抵抗
五 カール、ブランデンブルク辺境伯領を獲得
六 カールの経済振興政策とハンザ同盟
七 カールの内政プラハ市の整備と大学の設立
八 教皇のローマ帰還とカールの第二次イタリア行
九 後継者にヴェンツェルを立てる
十 フランスでジャックリーの乱起こる
十一 教会分裂(シスマ)の勃発
第八章 ヴェンツェル帝の治世民衆運動の全盛期
一 チオンピの乱
二 フランドルの民衆運動
三 ワット・タイラーの農民一揆
四 ドイツ都市の民衆運動
五 都市同盟と騎士団の対立
六 ゼムパッハの戦いスイスの独立化強まる
七 大都市戦争
八 教会分裂の深刻化
九 ヴェンツェルの廃位
第九章 不運な皇帝ループレヒト
第十章 皇帝ジギスムント(一)ハンガリー王からドイツ皇帝へ
一 ハンガリー王権確立の闘い
二 ニコポリスの戦い
三 ジギスムント、ハンガリーの反乱を抑え、皇帝位に登る
第十一章 皇帝ジギスムント(二)コンスタンツ公会議
一 ドイツ騎士団とポーランドの対立タンネンベルクの戦い
二 コンスタンツ公会議の準備進む
三 コンスタンツ公会議
第十二章 皇帝ジギスムント(三)ヤン・フス
一 改革者ヤン・フスの出現
二 ボヘミア改革派の形成、フス、指導者となる
三 フス、コンスタンツ公会議で審問・処刑さる
四 ジギスムント、外交旅行に出る
五 教会の統一回復さる
第十三章 皇帝ジギスムント(四)フス戦争
一 対ヴェネツィア経済封鎖政策
二 フス派、ウトラキストとターボル派に分裂
三 フス戦争の勃発
四 フス派、度重なる十字軍を撃退
五 和平の機熟す
第十四章 皇帝ジギスムント(五)バーゼル公会議
一 公会議の多難な出発
二 リパニーの戦い、フス戦争の終結
三 東西教会合同問題
四 バーゼル公会議の閉幕
第十五章 アルブレヒト二世とフリードリヒ三世ハプスブルク家の復活
一 アルブレヒト二世
二 フリードリヒ三世の登場
三 ハンガリー、ボヘミア、オーストリアの内紛
四 ドイツ騎士団国家の衰退
五 ドイツ国内で下層民衆の運動広がる
第十六章 フリードリヒ三世とブルゴーニュ公国
一 ブルゴーニュ公国の興隆
二 フィリップ善良公の統治とその富裕さ
三 フランスの内政改革と百年戦争の終結
四 ルイ十一世と貴族の反目
五 ブルゴーニュ戦争
六 ブルゴーニュ戦争ブルゴーニュ公国の滅亡
第十七章 ドイツの人文主義者たち
一 活字印刷術の発明と普及
二 イタリアの人文主義
三 ドイツの人文主義
四 エラスムスとヨーロッパの展望台バーゼル
第十八章 ネーデルラント、ドイツにおけるルネサンス絵画
一 初期ネーデルラント絵画
二 ドイツ・ルネサンス絵画
第十九章 ドイツ初期資本主義鉱山業の興隆
一 ドイツ鉱山業の勃興
二 生産形態と鉱夫組合
三 鉱業技術の発展
四 領邦国家と鉱山
五 「フッガー家の時代」
第二〇章 皇帝マクシミリアン一世(一) ネーデルラントの確保と第一次イタリア戦争
一 ネーデルラント確保の戦い
二 国王へ登位
三 マクシミリアンとブルターニュ公女アンヌとの結婚問題
四 イタリア戦争の勃発
第二一章 皇帝マクシミリアン一世(二) 「帝国改革」とシュヴァーベン(スイス)戦争
一 「帝国改革」問題
二 「ブントシュー」一揆
三 シュヴァーベン戦争
四 イタリア戦争の再燃
五 スペイン王国継承問題、起こる
第二二章 皇帝マクシミリアン一世(三)イタリア戦争の続行
一 マクシミリアン、「選ばれた皇帝」となる
二 教皇、ヴェネツィアを包囲す
三 教皇、イタリアからのフランスの排除を決意す
四 夢想家マクシミリアン
五 ドイツの社会不安、深刻化す
500ページを超えるもの、というだけでなく中身も濃そうな本書。読了を目的でなく理解することを目的としようと思いつつ、今回はここまで。
小生の仕事の関係で1960年代にリュールンベルグに滞在したことがありますが、町中で半ズボンのアルプスの羊飼いのような服を着た人々を見掛け、バイエルンの保守性にびっくりしましたが、バイエルン、北部ドイツ、ラインランドでは商品の売れ筋が異なるので別々の代理店を置いて事業を展開していました。チューリッヒのスイス人はハンブルグの人間が話すドイツ語が分からないと言っていましたが、義務教育で画一化された日本人にとっては驚きでした。私はドイツ語の知識が無いのでアドルフ ヒットラーの演説に南ドイツの訛りがあるかどうかは分かりませんが、オーストリアとバイエルンやスイスドイツ語の間では大きな差は無いのでしょう。
投稿情報: 木造院電車両マニア | 2011/05/31 13:24