地震関連の話題ばかりでは何なので、現在、読み進めている本のうちの一冊をご紹介しよう。それは、タイトルに記したように「荘園」(著者:永原慶二、発行:吉川弘文館)という本で、日本歴史叢書のシリーズに連なるものである(57番目)。本書は20世紀末(1998年)に初版が出ているが、以前から興味はあったものの、なかなか手を出せずにいた。理由は簡単で、書店頭で探し出すことができなかったからだが、ようやく第四刷(2009年)のものを偶然店頭で発見し、急いで購入したのだった。
荘園、というと中学・高校までに日本史を学習された方であれば自明の用語で、あまり歴史を得意としていない方であっても「荘園」という言葉自体聞いたことがないという方は少ないだろう。それだけ著名なものであるはずだが、一般的には平安時代くらいまでのものという認識(公地公民という律令体制が崩れていく過程で生まれたもの)でしかなく、私も若い頃はそうだった。だが、本書の目次を見れば、
序章 荘園を見る目
第一 荘園の発生
一 初期の荘園
二 律令体制の転換
三 藤原道長の時代と荘園
四 官物は国へ、雑役は領主へ
五 荘園整理の反復
第二 荘園制の成立
一 武士と開発領主
二 「寄進」の展開とその正体
三 公領の変貌
四 「家」と「家産」の成立
五 荘園公領を貫く「職」の秩序
六 荘務権の強化
七 荘園領主経済の構造
第三 荘園制の展開
一 鎌倉幕府と荘園制
二 荘園に住む人々
三 荘園の農業と農民の負担
四 荘園に根をおろす地頭たち
五 荘園制の基本的性格と地域性
六 社会の転換と荘園支配の動揺
第四 荘園制の解体
一 「悪党」と「惣百姓」
二 南北朝内乱と荘園制
三 請負代官制の展開
四 荘園市場と港津都市
五 村落構造の転換と土一揆
六 大名領国制の展開と荘園制の解体
でわかるように、荘園制が発展するのは鎌倉幕府が成立して以降。そして解体していくのは戦国時代に入って、いわゆる戦国大名が領国制を展開するまで続いているわけで、ここに荘園制への理解の奥深さがあるといえる。これは本書裏表紙にも、
「中世社会を知る基本は荘園制にある。にもかかわらず研究の細分化のため、個人で荘園史像を描くことは不可能とされてきた。本書はそれを乗り越えて中世史研究の泰斗がその全史を大胆かつ平易に描いた日本荘園史の決定版。」
と示されるように、我が国の中世史の基本ともいえるものなのだ。それを個人で描ききることは困難な仕事だが、著者はこれを見事に成し遂げている。これは歴史を著すということは、その著者の歴史認識を示すことであり、著者自身もあとがきにて、
「その意味では、もはや個人で荘園史を通観叙述することなどほとんど不可能であり、あえてそれに挑戦するのは暴挙に近いという感も深い。しかし今日においても歴史認識は究極的には個人の思考を通じて一つの歴史像を提示するものであるから、研究者はそれぞれに独自の構想と論理を持った荘園史像を描き出す責任があるともいえる。」
と歴史認識とは確たるものだと示している。言うまでもなく、歴史認識が統一されるものでないことは、この一文からだけでもうかがえるだろう。本書は平易な文で書かれているので、すいすい読めてしまうのはいいのだが、どうしても理解が伴わないこともある。なので、もう一度最初から読み進めているのだが、二読目は一読目と違って先が見えるため、なるほどこういう流れなのかと理解しながら進んでいる。そんな読み応えも感じつつ、今回はここまで。
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